第17話 やっちゃった

試合開始の合図はされたがお互いに動かない。下手に動くと隙を晒すことになるためだ。しかしこれではいつまで経っても終わらない。自分から仕掛けるのは好きではないがこちらから近づき、剣を振りかざす。


その瞬間を狙われ、手首めがけてギュンターの剣が振り下ろされ直撃する。普通の相手であれば痛みのあまり悶絶してしまうほどの一撃だ。しかし、俺には致命的な一撃にはならなかった。流石に少し痺れはしたがこのまま剣を振り下ろすことはできる。俺はそのまま振り下ろし、直撃を与える。


直前に一撃与えられていたため多少握りが甘くなり致命傷にはならない。しかし、剣のぶつかった場所からは血が垂れていた。


「手首への一撃、あれを受けてなんともないとは・・・どんな手品か暴かせてもらおう」


(いや、特にないんだけど)


ギュンターは俺に攻撃の隙を与えないように、的を絞らせないように機動力を活かした戦いに切り替えてきた。俺からの攻撃が奴に届くことはないが、奴の攻撃も先程のような鋭い一撃ではないため、俺としてはこちらの方がやりやすい。


形勢は互角に見えるだろうがギュンター側は常に動き回る関係で消耗が激しい。さらにギュンターは強化魔法をかけることで俊敏性と威力をあげているが俺はまだ使っていない。


「さて、こちらも本気を出すか」


「何?はったりだ。これ以上強くなるなんて・・考えたくもない」


動揺するギュンターだが、俺が強化魔法をかけて素早さ、力強さが上がったことが解ると顔色がどんどん悪くなっていく。強化魔法をかける前は受けるだけで精一杯だった攻撃を今ではこちらから攻める余裕さえある。


これ以上は続けても勝ち目はない、そう判断されたのか距離を取られたかと思うと敗北宣言された。


何とも言えない幕切れではあったが魔の森の魔物でなくてもこれ程の強者がいることに正直驚いた。この身体があるからかもしれないがこうやって強者と刃を交えて勝つのはやっぱり楽しい。


「いやー、ギュンターに勝つとはね。予想はしていたけどここまで手も足も出ないとは思わなかったよ。最初の一撃、あれどうやって受けたの?何かタネあるんでしょ?」


「いや、普通に避けることができずに受けただけだ。正直痛かったぞ」


ここにいる全員がポカーンとしている。いや、痛かったのは本当で実際攻撃にも影響はあったし。


「そ、そうなのか。なんという規格外の存在。そんな君にまたお願いしたいことがあるんだけど・・・」


「聞くだけならいいぞ。やるかどうかはわからんがな」


「君の言っていた魔物の調査。俺の方からもお願いしたいんだ。俺達も魔物の被害には手を焼いていたところでね。君ならそうそう負けることもないだろうし信頼できる。依頼を受けてくれるならこちらからもできるだけの支援はしよう」


「そういう話か、俺としてはOKだが一緒に旅をしている仲間にも一応許可を取らないといけないんでな。多分大丈夫だが後日また伺った時まで待ってもらえないか?」


「OK、それでいい。じゃあ今日はすまなかったね」


「いやいや、こちらこそ。ギュンターさんでしたっけ?彼にお大事にと伝えておいてください」


俺はスラムを出て宿まで戻る。尾行とかされるかと思ったがしてはこなかった。信頼されているのかあるいは恐れられているのか。


「・・・ボス、尾行つけさせなくてよかったのですか?」


「彼と組んでいる仲間がいるとしたらそいつらもかなりのやり手のはずだ。あまり刺激してこちらに牙をむかれたらおしまいだ。あの戦いを見ただろ?彼一人でもおそらくうちを潰すことはできる。そんな奴に不審に思われないのが一番さ」



部屋に戻ると既に要件を済ましたサラと王女が待っていた。


「おっそーい。こんな時間までなにしてたの?内容によっちゃ怒っちゃうんだからね」


「まぁ・・・色々あってな。長くなりそうだからそっちからでいいか?」


「しょうがないわね。じゃあ簡潔に話すわ。まず王様には会えてマリー様の無事は伝えれた。護衛の騎士もいたから直接会わせることはできなかったけど紙を渡して今までのマリー様とユウタのことを伝えたわ。明日もう1回ユウタも交えて会うことになったからちゃんとしてよね」


概ね順調に事を運ぶことができたようである。そして次は俺の番だ。


「そのぉ、言いにくいんだがスラムに行って情報集めているうちにスラムのボスっぽい人のところに呼ばれた。そのあとなんやかんやあって模擬戦をして最後魔物の襲撃が増えてる件の調査依頼を受けたけど保留にした」


2人の表情が段々と悪くなっているのが目に見えてわかる。やめろ、そんな目で見ないでくれ。


「1人にしてしまったのは失敗だったかしら」


「そうです、マリー様の言う通りです」


「待て待て、そんな悪そうな奴ではなかったぞ」


「それはあなたが強かったからだけよ。もし普通の人が入っていったら何されてたかわからないわ」


「そうだそうだー、利用価値無い奴はポイーだぞ」


思い当たる節があった俺は2人の意見に反論ができない。


「で、そのスラムのボスとやらにどうするつもりなの?」


「魔物の調査は結局やるし受けてもいいと思う。だけど報酬とかは後々変なしがらみになるかもしれないからあくまで結果だけ伝えますとかでいいですか?」


「私としてはそれでいいわ。その辺が一番波風が立たないと思う」


「それじゃあ明後日そう伝えに行きます」


「今度は私も同行するからマリー様、心配しなくて大丈夫ですよ」


あーあ、こんなことになるなら王都を適当にうろついておけばよかった。無駄ではないんだろうけど一々色々なことに巻き込まれて・・いや違うな、この世界に来てから巻き込まれに行ってばかりだ。なんだかこれからもこの調子な感じがするなぁ。

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