第15話 寄り道?

朝早く、俺は市場へと一人で向かい野菜と向き合っていた。王女に買った野菜を収納魔法で保管してもらう許可は取っているがあまり買いすぎると嫌がられるから慎重に選ばなければいけない。悩んだが野外での料理は初心者なので本のオススメする日持ちするものを数種類買うに留めた。


市場から戻ると2人は出発の準備を終えていて俺を待っていたらしい。


「すまん。待たせちゃったか?」


「さっき終わったところだから気にしないでいいわ。私とはしばらく話せなくなるけど何かある?」


「いや、昨日言った通りなら特には、じゃあ出発するか」


後ろでサラがマリーさまぁ・・・と悲しんでいるが気にしない。いつものことだ。でも毎回そんな反応されるのは困るから慣れて欲しい。


街を出て俺達は王都へと進みだそうとするが衛兵が待ったをかける。


「ちょっと待った、最近魔物の被害が増えてきているんだ。もし君たちが襲われて助けを求めたとしても助けが来るのは難しい、そう考えてくれ。本来治安を守るべき立場の人間がこんなことを言うべきではないのだろうが今は人手が足りない。それでも行くというなら止めはしないけどね」


「ご忠告どうもありがとう、衛兵さん。でも私たちは行かないといけないの。どの辺りで報告が多いか教えてくれたら助かるんだけど」


「こことこことここだ。正直今示した場所以外だからと言って安心はできないから注意してよな」


俺達は衛兵へ礼を言い、街を後にする。街を出て衛兵たちが見えなくなった頃、サラは急に立ち止まる。


「ここのポイント、王都への道からそんなに遠くないしちょっと寄ってみない?魔物の被害を少しでも減らしてあげたいからねぇ。あんたの楽しみにしてる野外料理ってのをするいいチャンスにもなるよ」


「うーむ、まぁこのポイントなら寄ってもそんなに回り道にはならないからいいかな」


そうして王女の意見を聞かずにちょっとだけ寄り道することにした。


魔物の報告が多いポイントへ着いたが魔物の気配は感じない。報告が多いだけでいつもいるというわけではないのだろう。


「どうする?ちょっと待ってみるか?」


「うーん、街道から外れたところで他の人が通るのを待ってみましょう。商人とかに狙いをつけている可能性もあるからね」


襲う側にも相手を選ぶ権利はある。

この世界のことわざらしい。物騒にも聞こえるが襲う側も相手を選ぶのだから襲われないように備えれば狙われることは少なくなるという意味だ。実に合理的だなと感心する。


しかし、今回俺達が望んでいるのは魔物達に襲われそうな人だ。当人にその自覚はないがおとりになってもらおうという訳である。だが既に魔物が多発するという情報は広く出回っているのだろう。そもそも人の通りは少なく、仮に通ったとしても厳重に備えている。


「困ったな、中々良さそうなのが通らないぞ」


サラは何かに気付いたようで俺に合図を出す。


「魔物の気配がするわ。さっきまではいなかったようだけど襲えそうな状況ができるのを待っているのかしら?動く様子はなさそうね」


「なぁ、今の俺達って傍から見たら襲いやすそうなやつじゃないか?」


「確かに、周りに誰もいなくなったら魔物の近くに行ってみましょ」


俺達は普通の通行人のふりをして魔物の近くへと進んでいった。魔物達は周りに人がいないことを確認すると俺達めがけて襲い掛かってきた。


この辺りに出る魔物よりは強かったが魔の森で訓練した俺達の敵ではなく、次々と魔物を倒していく。


この状況に耐えられなくなったのか魔物達の後ろから魔物を操っていたと思われる者の声が聞こえてくる。


「なんで?魔物が次々にやられるの?この魔物達強くなかったの?」


相当取り乱しているようだ。魔物の相手を俺が引き受けてサラには声の主の方へ向かってもらった。


「やぁ、初めまして。魔物達は元気過ぎたからちょっと休んでもらってるよ」


「や、やめてくれ。降参だ。もう通行人は襲わない、見逃してくれ」


「今更そんなこと言って許されるとでも思ってるの?」


「はいい~すみません。すみません・・・」


魔物をけしかけた男は威圧的なサラの前に随分と委縮している。それにしてもこんな小心者がよく襲えたものだ。


「魔物は一通り倒したぞ。まぁ一人でも余裕だったな。そしてこいつが魔物をけしかけた奴?なんだか弱っちそうなやつだな」


「ちょっと強い言葉使った途端これだわ。こんな奴が各地の魔物による被害を1人でやっている訳がないからもっと大掛かりな組織がいるのは確定ね。とりあえずこいつは・・・どうしましょ?魔物全部倒しちゃったから衛兵に突き出しても信じてもらえるかわからないしこれで事件が解決するわけでもないから困ったものね」


「とりあえずあなたの後ろにいる人物を教えて貰おうかしら。本当のこと言うまで痛い思いするから早いこと楽になったほうがいいわよ」


「そ、それだけは言えない。口が裂けても言えない。どの道この魔物が倒された時点で俺は詰んでいる。だが俺に最後のチャンスをくれた方には裏切れない。それが人間に対してどれだけ不利になることでも!」


拘束した男はそう言うと急に血を吐いて倒れた。サラが近づいて確認するとどうやら魔法を暴走させて自殺したらしい。


「これでまた振り出しね・・・どうにかしてこの結末を変えることはできなかったのかしら」


男は魔物をけしかける屑ではあったが組織に対する忠誠はあったらしい。そんな男でも忠誠を誓いたくなるような組織とは何だろうかもしかしたらすごい組織なのかもしれないし貧乏や不幸に付け込まれただけかもしれない。


「男が最後に言った言葉、あれは多分人間が不利になることで得する奴がいるってことだよな。それって魔族ってことでいいんか?」


「おそらくそうでしょう。今回の件はマリー様にも伝えたほうがいいわ。魔物を回収したら人目のつかないところへ移動しましょう」


そうして俺達はさっきまで戦場だった場所から離れる。



「・・・またなんかあったのね。詳しく教えて貰おうじゃない」


王女は不機嫌そうにこちらを見ている。うーん、やっぱり連絡する手段が欲しいなぁ。


俺達は王女がいない間のことを順を追って説明する。微妙な表情で聞き続けていたが怒り出すようなことはなかった。実際のところ異空間にいる限り最終的に行動するのは俺達になるので彼女自身は何もできないからだ。


「なるほど。想像はしてましたが魔族が絡んでいるのね。それにしてもその男の最後の言葉、わざとああ言ったのかしら。何かしら後ろめたさも彼にはあって回りくどく言うことになったとか」


「どうだろうねぇ、そんなこと考えても事態は変わらないってことだけはわかるけど」


「さて、これで終わりだ。俺は狩った魔物で料理したいから野菜出してくれ。1時間くらいしたらできるから待っててくれ」


「あんたねぇ、まぁいいわ。もうこの件は終わり。今後のことは食事後にでもしましょう」


俺は野外飯best100の本を開き、今日倒した魔物を使った料理を探す。手持ちの野菜で作れる料理がないか探す。野外飯なだけあって複雑な料理はなく、大体が煮る、焼くなどが多いのだがどの部位が美味しいなどの情報は食べてみるまで分からないので本で知れるのはありがたい。俺は鍋料理にすることを決め、調理に取り掛かる。この本は便利なこと魔物の捌き方も丁寧に説明がされている。最初は苦戦したが、コツを掴んでからはそれまでの苦労が嘘のようにきれいに捌けた。この本の作者には頭が上がらないな。


調味料を入れ終えてあとは煮るだけになったところで後ろから声を掛けられる。


「あら、もう終わったの?早いわね」


「あとは煮るだけだ。この量だと15分くらいかかるからまた呼ぶよ」


「いやいや、この時間みんなでおしゃべりしましょーよ」


そうしてたわいない時間が流れていく。あっという間に15分の時が流れる。


「さて、いよいよ食事の時間だ。正直期待はしないでくれ」


ふたを開けるとなんともいい匂いが立ち込める。これは期待してしまう。


「う、美味い。野外飯っていうんでちょっと身構えてたが街で普通にお金払ってもいいレベルだ」


「美味しー、これなら3日に1回は食べてもいいかも」


「ちょっと臭みが残っているような感じはしますが、これはこれでいいですね。これからの野外飯も期待できますね」


概ね好評である。俺も満足だ。初めての俺の料理は成功に終わる。その日は野宿ではあったが嬉しい気持ちでいっぱいだった。

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