第14話 日常な非日常
王都を目指す俺達は再びサードゥへと訪れていた。次に訪れる街は王都だがここまで情報が流れていないかも含めて情報収集を行った。
情報通のような人が最近王女の情報が全くないことに違和感を感じている程度で一般の人はまだ何も知らないといった感じだった。
「やはり王都に行かないとわからないみたいですね」
「そうだな、ここでの情報収集はこの辺で終わるか。そういえばマリーの好きな甘い物教えてくれよ」
「ふふ、私の分も忘れないでね。そこの通りで売ってるワッフル、私のオススメなの。マリー様は食べたことないけどきっと喜ぶはず」
屋台の前には行列ができていた。これは味に期待できそうだ。順番待ちをしている間、他の屋台のお菓子についても力説していた。あわよくば買ってもらえないかとでも思っているのだろう。
「お前の熱意に負けたよ。もう1件くらいは寄っていこう」
「たまには息を抜かないとね。そうしないと肝心な時に力を出し切れないわよ」
痛いところを突かれる。俺と王女だけの場合最低限の休みは取るが常に緊張しているというか精神的に休まる時間が少なかったのは事実だ。そういう意味でもサラの加入はありがたい。
そうこうしているうちに俺達の番がやってきた。ワッフルを3つ注文すると店主は手際よく作業に取り掛かった。
「いやー、お兄さん。別嬪さん連れてのデートなら食べすぎには注意しなよ。ほれ、注文の品だ」
どうやら俺が2つ食べると思ったらしい。まぁデートしてるようにも見えるか。サラも王女に負けず劣らずの美人なので街を歩いていると嫉妬の視線を時々感じる。
「デート・・・、そういえば男の人と2人でこうやって街歩くの久しぶりだったから忘れてた」
「なんだ、違うのかい?まぁ俺にとってはどっちでもいいがな。はいお釣り。美味かったらまたきてくれよな」
次の店の行列に並び、早速ワッフルを頬張る。サクサクしているかと思えばしっとりとした生地に微かに感じる塩気が甘さを引き立ててなんとも言えない絶品だった。持ち帰りなのでシンプルにそのままだがトッピングをすればまた違った楽しみ方もあるだろう。それで値段もお手頃。行列ができるのも納得である。
俺はすぐに食べきってしまったことを後悔する。手元にあるもう一つを食べたいと思ってしまったのだ。しかし、これは王女の分。食べるわけにはいかない。サラはそんな俺が苦しんでいるのに気づいてからはなおさら美味しそうに食べ始めた。
(早くこの行列進まねぇかなぁ)
10分程待っただけだったのに1時間も経ったように感じる。次の店で頼んだものはしっかり味わって食べた。そんな俺をサラは面白そうに見ている。マリーといい、俺をからかうのが上手いな。
宿へと一旦戻り、王女へ情報収集の結果とお菓子を渡す。情報収集をするとなると王女が怪しまれる可能性があるため王女はこれからは異空間にいることが多くなる。そんな彼女は目の前に渡されたお菓子にひどく感動していた。
「大体の様子はわかったわ。それとお菓子ありがとう。後でゆっくり食べるわ。あと、この本の続き探してくれない?」
そう言ってこの間村で手に入れた本を見せる。4分の3ほど解き終わっている。この短期間で解きすぎだろと思ったが異空間にいる間他にやることもないんだからまぁそうなる。
「サラとのデートの続き、楽しんできなさいよ」
「マリー様、他の人がそれを言うのは許せますがマリー様が言うのは駄目でーす」
マリーのこととなると本当にぶれないな・・・。宿へと戻った俺達だがまだ昼過ぎなので俺とサラは再び宿を出て街をうろつく。
「本屋に行くだけじゃもったいないわね、お菓子じゃないものを食べに行きましょ」
「人のこと言えないがお前も大概食べることが好きだな」
「あったり前でしょー。食べることに拘らなくて何に拘るんですか?」
「うーん、確かに。お金に困ってるわけでもないのに楽しまないってのは損だな」
「よーし、あの店に行きましょ」
(どんだけ食うことが好きなんだよ・・)
サラの案内する店はどれも美味しかった。が食べすぎてしまう。俺が店で注文する量が多いのが悪いのだが毎回この店で最後だろと思っていたのが間違いだった。食べ終わる度に次のみせーと言う彼女が楽しそうで止めなかった俺も俺だが。
サラは沢山食べているようで1店ごとの量は実はそれほど多くない。もちろん合計すれば普通の女子より食べてはいるが。
3軒回ったところで満足したのか本屋へ向かいだした。た、助かった。もう1軒と言われてたら吐いていたかもしれない。俺はふらふらしながらサラの後を必死に追った。
サードゥの街には本屋が5つあったがサラが選んだのは最も古くから営業している本屋だった。値段が安いわけではないがとにかく品ぞろえが良いことが特徴で、この街で扱っているのがここだけという本もある。王女に頼まれた本はここじゃなくてもいいがサラが欲しい物はここにしかないのだろう。
サラは俺に王女のお使いを押し付けると一人でどこかへ行ってしまった。俺が買う本なんて他に無いからいいけどなんだかそっけないな。そう思いながら目当ての本を見つける。何回も買いに行くのは面倒なので続編含めて5冊ほど買うことにした。本を見つけた後も戻ってくる気配はなかったのでしばらく店内をうろついた。
王女と別の本屋に来たときは中をゆっくり見ることもなかったためこうやって見ると新鮮だ。そんな俺に1冊の本が目に留まる。
「なになに?必見!野外飯best100?」
中を見ると料理本のようだ。それも狩った魔物をどう調理すれば美味しいか、魔物の裁き方等について細かくレシピが書いてある。野営をすることもある俺達にとっては悪くない本だ。
俺が本に夢中になっていると後ろからサラの声が聞こえてきた。
「何見てるのー?野外飯?中々面白そうなの見つけたね」
「どこ行ってたんだよ・・・おかげでこの本見つけれたと言えばそうだけど」
「怒るのはこれを見てからでも遅くないよ。じゃーん」
サラは1冊の古びた本を差し出す。タイトルも見えない程にボロボロだったが中身はちゃんと読めるようだ。
「魔の森に関する文献か。あの森って誰も生きて帰れないんじゃなかったのか?」
「今の時代はね、昔一人だけ奥まで行けた人がいるって話をどこかで聞いたの思い出してここなら何か見つかるかなって探したら奇跡的にあったの。値段は少々高いけど悪くないでしょ?」
「俺があの時奥に行きたがってたの気づいてたのか」
「・・・さぁね、」
俺達は会計を済ませた後、別の店で野外飯の本にあった調理セットを買う。使うかは正直わからないがこういうのは想像するだけでワクワクする。
「満腹の状態でも食べることばかり考えているんですねー。もしかしてまだ食べ足りなかったり?」
「冗談はよしてくれ」
くだらないやり取りをしながら宿へと戻る。今日は楽しい日だった。たまにはこんな日もあっていいだろう。王女も安心して外に出れるようになったらこうやってゆっくりしたいな。
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