第11話 魔法の師匠

俺達が魔法の訓練を始めようとしたときに急に降り立ってきた少女は王女のもとへと進んでくる。


「やっぱり、マリー様じゃない。仮面なんてつけていても私には無駄なんだからね。それにしてもこの男は何?」


俺の方を見た後王女へと詰め寄る。王女はため息をついた後これまでの経緯を説明する。話を聞いているうちにその少女は怒ったり泣いたりで忙しそうだった。

話を聞き終わった少女はこちらを向いて謝る。


「こんな男なんて言ってしまってすみません。命の恩人だったのですね。でも話を聞く限りマリー様との距離感が近すぎる気がするのでそこは許せません」


「なぁ、こいつ相当変わってねぇか?」


「そうね・・・私のことになると人が変わってしまうんだけど基本はいい子よ。この子はサラ。魔法学校の時の後輩よ。当時からこんな感じで私に付きまとう困っちゃちゃんね。・・・なんで私が紹介してるのかしら」


サラは困ったちゃんなんてと照れている。王女の言うことはなんでもご褒美なんだろう。


「ということはサラも魔法が使えるのか?」


「はい、王女様ほどじゃないですが私も使えます。めちゃくちゃすごいです!」


自己アピールがすごいな・・・、まぁ戦力として期待はできるだろう。


「それにしてもよく王女だってわかったな、これも魔法か?」


サラはチッチッチと指を振る。なんだかムカつくな。


「私が!マリー様を!見間違えるわけがないのです!」


自信たっぷりに宣言する。正直こいつと街中で会わなくて本当に良かったと思う。事情を知らない彼女とばったり出会ってしまったら騒ぎどころの問題じゃなくなってしまう。


(なんでこんな爆弾を先に言っておかなかったんだよ)


王女の方を睨むがすかさず目を逸らす。忘れてたのかあえて黙ってたのかどちらにせよ王女の失態だ。


「なぁ、街でこいつと出会うリスクを考えなかったのか?」


「流石に街中で私の名前を大声で言うようなことはない・・・と思う」


これ以上問い詰めても仕方ないと判断し、この件は終わりにする。


「一応聞くがこいつみたいなやつは他にいないよな?」


「流石にいないわ。と言うか仮面被っていれば普通は私ってわからない。ここにいるのは例外よ」


「はぁ、まぁばれてしまったら仕方ないこれからのことについてサラも一緒に話し合うとしよう」


俺達の今後について話し合う。事情を知ってしまった彼女を野放しにしては置けないので一緒に行動することにした。彼女は王女と一緒に居れることが嬉しくて仕方ないようだ。


「そういやさっき飛んでこっちに来たよな?それで移動するってのはどうなんだ」


「それはおすすめできないわ。長時間空を飛ぶには専用の魔道具がいるけどこれは購入時に身分の確認が徹底されているから手に入れることはできない。それに持ち主以外の人は基本的には使えないようになっているわ。」


どうやら安全面を考慮されてかなり厳重に管理されているらしい。それもそうか、どこの誰ともわからない人が空から奇襲できるようなことは誰も望まない。


「サラのことについてはこんなもんでいいだろう。俺に魔法を教えてくれる話がずっととまったままなんだ。再開しようぜ」


「あら、そうだったわね。あんたの魔力量でも使えそうなのを1つずつ教えていくわ」


そう言うと王女は付与魔法を自身にかけて見せた。


「これが付与魔法の中で身体強化の魔法ね。効果は主に一時的な筋力の活性化による攻撃力と素早さの向上。一番基礎の魔法で難易度も高くないからまずはこれからね」


「って言ってもよぉ、どうやれば魔法が使えるんかさっぱりだ。なんかコツとかないのか」


王女は少し悩む、そこで悩まないでくれ。そんな俺達を見てられなかったサラが割り込んできた。


「マリー様はそこがダメね。なんでもすぐ出来ちゃうから人に教えるのは下手なの。私が代わりに教えてあげるわ」


そう言うと彼女は俺の体の中心を指差す。


「厳密には違うけどここに魔力があると思いなさい。そしてその魔力を外に出す意識を持って身体強化の魔法の詠唱を行うの。慣れれば詠唱は頭の中でできるけど最初は詠唱したほうがいいわね。じゃあ実際にやってみましょう」


サラの指示通りに体の中心に意識を向ける。魔力は感じれないがとりあえず魔法の本に書いてある詠唱をする。すると一瞬だが何かの変化があったような気がすると同時に何かが失われたような感じがした。


「う、ん?何かが起きようとしたのと何かが減った?」


「今のは魔力を使おうとして失敗したね。初めてでできることは滅多にないから繰り返し練習しましょう。ちなみにこれ1回でだいたい5くらい魔力を使うから覚えておくように」


(サラが居なかったら大変なことになってたな。色々あったけど本当に良かった)


魔法書によると魔力量は1日に最大値の半分くらい回復するらしい。また、0に近づくと倦怠感などが襲ってきてそれでも使い続けると寿命を削るそうだ。そのため大体の人は次の日に万全の状態になるように半分ほどしか使わない。俺の魔力量は278なので大体28回くらいは練習できることになる。


「1回1回集中してやらないとな。ようしもう1回」


俺はサラの言われた通りの動作を何度も繰り返す。少しずつコツをつかんでいき、15回くらいやるとあと少しと言うところまでたどり着く。


「あと少しと言う感じね。最後に魔力を全身に行き渡らせるようなイメージを持ってみなさい」


「はい、師匠!」


そして俺はついに強化魔法を成功させる。なんだか体が軽い。適当に近くにあった木に対して素手で殴ってみる。いつもなら一撃では倒せないが今回は殴った場所に穴が開いてしまった。


「す、すげぇ・・・サラのおかげだ。ありがとう」


「どういたしまして、でもマリー様があんな様子になっちゃってるんでなんとかしてね」


王女の方を見ると拗ねている。ちょっと悪いことをしたかもしれないが流石にあの指導じゃどれだけの時間がかかったかわからない。


「サラに教われてよかったわね、ふん」


こちらが見ていることに気付いたのか愚痴をこぼす。あんまり拗ねられても困るなぁ。何かで機嫌を取ってあげないと。


「なぁ、王女が好きなものとかないのか?」


「マリー様の機嫌取りたいならやっぱ甘いもの!ちなみに私も好きです」


「ありがとう。教えてくれたお礼に王女と一緒に何か奢ってあげるよ。・・・王女から貰ったお金だけどね」


サラから教えてもらった情報を持って王女の機嫌取りに挑戦する。


「なぁ、次行く街でなんか甘い物買ってやるからそんな態度はやめてくれ」


「・・・ちょっと大人げなかったわ。こちらこそすみません。ま、甘い物は楽しみにしておくわ」


やっぱり王女は俺の優しさに付け込んでるんじゃないかなぁと思う。まぁ要求はかわいいもんだからいいか。



そうして俺はサラの指導の下毎日魔法の訓練をすることになった。とは言ってもまだ実践で使えるのは強化魔法しかないけどな。


ちなみに自身の強化魔法は効果があるが、他人からかけてもらった場合は駄目なことも分かった。この時ばかりは俺の身体が強すぎることを呪った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る