第10話 初めての街

村での一件の後、俺は新たな街へと向かっていた。次に向かう先は王国で3番目に栄えているサードゥという名前の街だ。王女が言うにはそこで魔力測定ができるらしいので楽しみで仕方なかった。街の手前まで来た俺は衛兵とのやりとりを終え、無事街へと入ることに成功する。見るものすべてが新しいものでワクワクが止まらなかったが王女との約束を思い出し宿へと向かう。無事に部屋を取ることに成功した俺は王女を呼び出す。俺が張り切って予定より早く着いてしまったのか驚いていた。


「よぉ、待たせたな」


「あんたねぇ、どれだけ楽しみだったのよ・・・予定より1時間も早いじゃない」


「ささ、早く行こうぜ」


「少しは休ませなさいよ」


「十分休んでただろ?」


「・・・そうね」


王女は外出する準備をする。女将に認識疎外の魔法をかけて宿を後にした。


「その魔法があるなら検問の際も使えばいいんじゃないのか?」


「ああいう場所で下手に魔法を使うとばれたときのリスクがでかすぎるわ、最悪お尋ね者よ。それはできないわ」


などという会話をしているうちに目的の場所に着く。ここは魔法協会、軍事や生活に役立つ魔法を日々研究している。税金で運営されているためサービスの一環として魔力量の検査を無料で行っているらしい。なんとも便利な建物だ。


「おぉ、ここが魔法協会か。にしてもでっけぇ建物だな」


「この街で一番大きな建物だからね、私も初めて来るから驚いているわ。さ、中へと入りましょう」


中は人で賑わっていた。ここでは魔道具の販売も行っていて巷では魔道具の市場と呼ばれているらしい。研究者らしき人達が魔道具の効果を必死にアピールしている。


俺達は魔力量の検定場にたどり着く、賑やかだった市場とは違いほとんど人はいない。それもそのはずで普通は一生のうち1回しか魔力の検査に訪れないからだ。俺の他にいるのは新米の冒険者らしき人が数人いるだけである。

計測器の前に立つと音声がどこからともなく聞こえてくる。どうやら指示に従っていれば勝手に計測してくれるようだ。5つほどの指示を聞くと計測完了しました。と音声が聞こえて来て1枚の紙が近くのテーブル上に置かれた。俺は急いで紙を見るがよく考えたらこの数字の持つ意味は知らなかったので王女に見せる。


「これってどうなんだ?」


魔力量の部分に278と書いてある紙を王女に見せる。王女は少し言いづらそうにしていた。きっとあまりいい数字ではないのだろう。


「まぁ、これくらいの人もいるわって程度ね。全く使えないわけじゃないけど高度な魔法はやめておいた方がいいわ。ちなみに平均は500くらいって言われているわ」


「うおおおおお、俺にも魔法の才能が少しはあったんだな。それだけで嬉しいぞ」


近くにいた冒険者になんだこいつという目つきで見られている。魔力量が平均以下と言われて嬉しいとか言っているので当然である。


「落ち着きなさい、あまり目立たれると困ります。それより魔力量がわかったのだから魔法を教えてあげる約束を果たしましょう。街を出て広い場所でやるからこの街を出るまでは辛抱してね」


俺達は市場へと戻り、幾つか役に立ちそうな魔道具を買う。食料も買い込み、宿へと戻る。部屋の扉を閉めた途端王女は何かを聞いてほしそうな顔をしていた。もしかして自分の魔力量を自慢したいのだろうか。しょうがない乗ってやる。かわいいやつめ。


「その顔、魔力量を聞いてほしい顔だな?聞くのは聞くが1つ賭けをしないか。勝った方が1つ負けたほうに命令を出せる。この命令は常識の範囲内ということにするがな。賭けの内容は俺が王女の魔力量を誤差100以内で当てる。回答権は1回。俺はお前に質問を3回だけしていい。お前はそれにはいかいいえで答えるが嘘はついてはいけない」


王女は予想外の申し出に少し悩む。魔力量が大きいことは気づかれているがどの程度かは見当がついてないはずだ。3回の質問で特定される確率は低いと判断した王女は了承した。ちなみに彼女の魔力量は6833である。


「じゃあ1つ目の質問だ。1万を超えている?」


俺は緊張しながら1つ目の質問をする。正直これではいと言われたらそこで諦めるつもりではあった。だが王女はいいえと答えた。


「2つ目、千の位の数字は百の位の数字以上?」


俺の予想では王女は常人の10倍は超えていると思うから5000から9999と仮定して質問する。今度もはいと言われたら諦めるしかないがこれもいいえと答えてくれた。王女はこの辺りから余裕がなくなってきていたように見えた。


「最後、百の位と千の位の数字の和は偶数?」


王女ははいと答えた。これで残った候補について考え直す。千の位と百の位の組み合わせは57、59、68、79のいずれかだ。分の悪い賭けだったがなんとか4択まで絞り込むことに成功した。後は運頼みだ。


俺は直感を信じ6800と言った。しばらくの沈黙の後王女は負けたわと言う。


「まさか、当てられるとはね。それにしても無茶な質問ばかりだったわね。1つでも逆の答えだったらどうするつもりだったの?」


「その時は負けを認めるつもりだったさ。正直お前があまりにも自慢したげだったからちょっといたずらしたかっただけさ」


「それで願いなんだが・・・お前の持ってるあの布団を今日俺が独占させてほしい」


王女はすごく嫌そうな顔をしていた。彼女の中で許容できる範囲の中で一番辛いことなんだろう。


「・・覚えてなさいよね」


その日、俺は非常に快適な夜を過ごした。防音魔法で音は聞こえないが明らかに苦しそうな王女の様子が想像できてしまう。ちょっとやりすぎたかなと反省するが灸をすえれたと思おう。


次の日、明らかに機嫌の悪い王女は昼頃まで何かと俺に当たってきた。俺はこれはもうやらないと約束し、一先ずこの件については落ち着いた。


今日は俺に色々な常識を身につけさせることを含めて街を色々と紹介してもらった。王女のくせこういったことにやけに詳しいなと思い聞いてみたが、この街へは来た事あなかったものの街自体へは結構出ていたらしい。自由なんだかおてんばなんだか知らんけどそこは突っ込まないことにした。


俺達はその日1日中街をうろついた。おかげである程度この世界のことが解ってきた。そして王女にこの辺は覚えておきなさいよねと言って本を10冊ほど渡された。国の歴史書や童話や料理などさまざまであったがどれも一般常識なんだろう。本当によく気の利く奴だ。その日から寝る前に読書をすることが習慣となった。


次の日、俺達は街を出て王都へ向かうことにした。たった2日ほどだったが得られたものは多かった。俺は街道から少し離れた人目につかない場所を探し、王女を呼び出す。


「ふーん、まぁ訓練するにはいい場所ね。さ、始めましょう」


いよいよ魔法が使えるとワクワクしていた矢先、遠くからあーーーーーーーーーーーーーーーっ、という声が空から聞こえる。俺には何かさっぱりわからなかったが王女はドキりとしていた。声の主はこちらへと降りてくる。俺は戦闘態勢を取るが王女がそれを止めた。


「こんなところで出会うなんて・・・これも運命?きっとそうね」


王女に近い年齢の少女は一人で嬉しそうにしている。王女の知り合いなんだろうけどなんか変わったやつだなぁ。

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