第9話 俺から見た冒険者

俺達が村の人に教えられた場所に着いたとき、冒険者達は魔物の群れに後れを取っていて今にもやられてしまいそうだった。それを察知した王女は威嚇の意味も込めて爆発魔法を発動した。間に合うか微妙だったが何とか間に合い、魔物達の気がこちらに向いたのを確認した。

俺達は助けに来たヒーローのように見えただろうと思い、ほくそ笑む。


「結構ピンチだったけど間に合ったみたいだな。後は俺達に任せろ」


声に気付いた冒険者たちはこちらを向く。戦闘で疲弊しているせいか俺に対する目つきが鋭い、これは仕方ないな。俺の方を少し見ていたが魔物の方へ向き直す。おいおい、せっかく助けに来たのに冷たいな。


俺達は冒険者のもとへ向かう。もうこれで大丈夫だ。さっさと撤退してもらおう。


「おい、俺達が来たから撤退していいぞ。みんなボロボロじゃないか」


「口だけは達者なやつとは思ってたけどこんな状況でもふざけたことを言うようなやつとは思わなかったよ。はっきり言うが邪魔だ」


思いもよらないことを口にされて俺は驚く。どうしてだ?あいつらは明らかにピンチだった。俺達が居なければ今頃誰かはやられていただろう。不思議に思っている俺を見てリーダーのような人が説教じみた感じで語りだした。


「大体、俺達が撤退したらこの魔物はどうする?俺達5人でもやっとなのにたった2人でどうにかするつもりなのか?お前達がやられたら村の人達まで犠牲になるんだぞ」


なるほど、俺達が魔物に勝てないと思っているのか。無理もない、急に見ず知らずの人が助けるといっても信憑性はない。実力で示さないとな。

俺は魔物の群れに向かって一人で突っ込む。後ろからおい待てと言われたが知ったことか。俺達の実力を見せてお前たちを納得させる。


王女は途中からこうなることを察していたのか俺が突っ込んだ後すぐに魔法の準備を始める。まったく、俺のことが解ってきたようだな。


一人突出した俺めがけてトカゲのような魔物が襲い掛かる。俺はそのうちの1体を切りつける。直後、俺めがけてある魔物は火を吐き、ある魔物は噛みついたりした。だが、本当に直撃したのかと思うほどにヤワな攻撃だった。魔の森の魔物と比べるまでもない。


俺は拍子抜けしてしまい、大きな隙を作ってしまう。それを逃さない魔物達であったがやはり攻撃は通らない。俺は王女の方を向き、


「意外と大したことねぇな、俺ごとこの辺りを攻撃してもいいぞ」


王女ははいはい、と言うと魔法の準備を始める。俺は魔物の方を再び向き、魔物に対して攻撃を始める。魔物達は俺に気が向いているため王女が魔法を発動していることに気付かない。そのうち王女が準備を終え、俺めがけて爆発魔法を放つ。魔物達は予想外の攻撃だったのだろう、攻撃を避けることができずに10匹程まとめて倒すことに成功した。あいつらが傷を負わせた個体を除けば残りは半分といったところだ。


(こいつらのリーダーになるような個体がどこかにいるはずなのだが)


王女の攻撃を受けた後、俺は周囲を見渡すが、残っている個体はどれも大差ないように見える。可能性の話だがこの辺りに近づいてきた人間を倒す命令を受けているだけで別の場所にいる可能性もある。その場合は面倒た。何せ魔物が倒されたことを感知されてしまう可能性すらある。早めに決着をつける必要性を感じた俺は残っている魔物を次々と倒す。王女は俺の意図を察したようで俺の撃ち漏らした魔物を的確に狩っていく。5分程かかったが魔物を全滅させたことを確認し、ぽかーんとしている冒険者に向かって話しかける。


「いつ次の敵が来るかわからねぇ、聞きたいことはあるかもしれないが話はあとだ。とりあえずここを離れよう」


冒険者と一緒に魔物の住処だった場所を離れる。街道に戻り、冒険者が正気を取り戻したことを確認し、


「魔物達の件だが・・・お前達が倒したことにしてほしいんだ。報酬はとりあえずお前たちが受け取ってくれ」


「それは困る、お前達がほとんど倒したというのにそれでは示しがつかない、お前達がもらってくれ」


お互いに報酬を譲り合う、奇妙な光景がそこにはあった。俺達は目立つとまずいのでできればこの冒険者は事情を知らない。嘘でもいいから何かしら納得させなければいけない。そう考えていたが、王女がそれを解決してくれた。


「貴方の命を助けたのは私達、それはあってるわよね?それで貸し1つ、今回の報酬と手柄を貴方たちが受けてこのことは誰にも言わない。これで貸し借り無し。これでいいわね?」


威圧的な王女に対し、何か言いたげではあったが最終的には相手が折れてくれた。俺達と冒険者との間であの場での物語を作り上げた。話の流れはこうだ。


俺達はジョセフ一行の援護に向かったが一歩遅く、魔物を全て倒してしまっていた。だが魔物との戦闘でかなり負傷してしまっていたので俺達が手当と回復してあげたのでここまで戻ってくることができた。


村に戻り、魔物を倒したことを伝えると依頼主である村長は驚いているようだった。これにはジョセフ達も疑問に思ったらしく、依頼主へ問い詰める。


「おい、その反応はおかしいだろ?まるで俺達が倒せなかったと思っているような反応はよぉ!」


村長はしまった、と思ったようだがもう遅い。ジョセフは村長の胸倉を掴む。


「ま、まぁ待て。こちらの話も聞いてくれ」


なんとしてもこの場を収めたいのだろう。村長は必死に対話を要求した。


「一応聞いてやるが内容によっては容赦しないぞ」


「じ、実は魔族に脅されて冒険者を魔物の住処へ向かわせるように言われたのです。そうしなければ村を襲うと言われて・・・。信じてもらえるかはわからないのですが本当なのです」


村長は青ざめた表情でこちらへと訴えかける。この話をしたことがばれたらただじゃすまないことは彼もわかっているのだろう。


「それで魔族の仕業と気づかれないように冒険者を葬ろうとしてたってわけか、全くやることが汚いぜ。だがあんたの言っていることが正しいって保証はどこにある?」


ジョセフはさらに詰め寄る。無理もない、危うく命を落としそうになったのだから。


「村人の誰かを操って見張っていると魔族が言っていました。魔族と通じている村人が居れば信じてもらえますか?」


村長は俺達にだけわかるような声でこのことを伝えた。ジョセフ達の警戒が強まるのを感じた。


「目星は立っているのか?」


ジョセフの問いに村長は首を振る。魔族が人間を操っている時の見分け方などは俺は知らない。こういうことはこの世界の人間に任せるしかない。


ジョセフ達はパーティーメンバー内で何やら話をしている。何やら対策などを考えているのだろう。急に王女が立ち上がる。周りにいた全員驚き、一斉に彼女の方を見る。


「そんなことをしている時間はないわ、この村から出ることを今すぐ禁止しなさい。逃げられたらおしまいです」


その場にいた全員がはっとした俺達が住処から戻ってこれたことを操られている人がもう知っていてもおかしくない。そうなったら逃げてしまうだろう。そうならないように先に手を打たなければいけない。


村長はすぐに村から出ることを禁止する命令を出した。多少の不満の声は出たが、魔物の襲撃の可能性があるということで納得はしてもらえた。


(こういう命令が出ても今回の件は報告せずにはいられないよな)


みんなが寝静まった頃、一人の村人はやけに慎重に周囲を確認している。余程隠したいことがあるのだろうか。ひっそりと村の外へと歩きだしていった。物陰でそれを俺達とジョセフは見張る。村から一歩でも出たらそこで取り押さえる手はずだ。

村人が村から出た瞬間、急に走り出そうとした・・・がその瞬間に拘束された。仕掛けていた罠にかかりもがく村人。このままにしておくのもかわいそうなのでひとまず逃げられないよう檻へと入れた。


見張りの村人が一人かどうかはわからないが一先ずは安心だ。しかもこの様子だと村人は直接魔族とやり取りができるわけじゃなく、特定の場所に行くことでやり取りをするようだ。


村長は本当に操られている村人がいたこと、それが発見できたことにほっとしている。それでも許されるかどうかは怪しいが。



翌日、村長の館に呼ばれた俺やジョセフ達は感謝の言葉を貰った。魔物を倒したのも村人を捕まえたのもジョセフ達ということになっているので報酬のほとんどはジョセフへ渡された。そして、俺達は別の街へ向かうため、その日のうちに旅立った。

ジョセフ達はしばらくこの村に留まり、他に操られた村人がいないかどうか監視するそうだ。こういう後始末を彼らが率先してくれて助かった。もしかしたら彼らなりのお礼なのかもしれない。


「さて、次の街へ向かう前にやっておかなければいけないことがあるな」


俺達は昨日の魔物の住処の場所へと再び向かう。ジョセフ達がいる前ではあまり変なことはできなかったが王女と2人でなら気にすることはない。王女を襲った魔物達とここの魔物、繋がりがあるのか調べさせてもらおう。


俺達は昨日の戦闘があった場所にたどり着く。幸いなことに昨日と同じ光景がそこにあった。周囲の安全を確認後魔物の調査を開始する。俺から見ればなんともないが王女視点では違うようだ。


「やはりこの辺りの魔物ではないようね、誰かが意図してここに用意したとしか考えられないわ。断定はできないけど私の時と手口は同じ、とりあえずこの魔物達に掛けられていた魔術式は覚えたからここでやることはもう終わりね」


俺達はこの場を後にし、次の街へと向かう。


「今度は宿で呼ばれることを期待するわ。でも何かあったときはまた私を頼りなさい」


王女はそう言うと異空間へと入っていった。


俺は一人になった。こういうのには慣れていたはずなんだけどやっぱり寂しいな。もう一人くらいいればいいんだがな。ちょっぴり元気を失ったが次の街へと向かって歩みだした。




次の日、魔物の住処


「これは?何があったんだ」


目の前の光景が信じられない魔族が狼狽えている。ここには精鋭の魔物を相当数配置していた。にも拘わらず全滅していた。直後この世界の人間にそんなことができるやつがいるという恐怖が襲い掛かる。


「と、とにかく上に報告だ」


魔族は慌てて元の場所へと戻る。少し冷静になれば村長へ問い詰めることで誰が倒したかといった情報を得ることができただろう。それを怠ってしまったためにこの魔族はあとでこっぴどく叱られることになる。

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