第8話 ベテラン冒険者から見た俺

俺はジョセフ。冒険者というものを生業にして10年程のいわゆるベテランだ。5人でパーティーを組んでいてそのリーダーをしている。国の中でトップクラスってほどじゃないがこの辺りでは一番腕の立つ冒険者として少しは名の通ったパーティーだ。

俺達は魔物を討伐することで収入を得ている。同業者ももちろんいるがそんじゃそこらの奴等には負ける気がしない。


今回の依頼も村を襲う魔物の討伐だ。俺達の前に挑んだ冒険者は討伐に失敗したため村人は困っていたようだ。

俺達はもちろん収入があるから魔物を討伐するのだが、困っている人を放っておける程薄情なやつじゃあない。時には報酬を分割で払ってもらうことだってある。そんなことを繰り返しているうちにこの辺りの人たちから信頼されるようになっていた。悪い気はしないし、このまま名が売れていけばいずれ国を代表するような冒険者になれるかもしれない。昔からの夢が叶うかもしれないという希望が出てきた俺達はこの後・・・



「魔物の住処の様子を見てきたけど大体想定通りね、これなら大したことはなさそうだな」


偵察から戻った斥候から報告を受けるがこの報告に違和感を覚えずにはいられなかった。


「うーむ、それならば俺達の前に依頼を受けた奴らはなぜ失敗したんだ?報告から考えて依頼失敗だけにとどまらず誰も帰って来れないとは考えれない。きっと何かがある。気を引き締めていくぞ」


俺達は冒険者を10年やってきた。少しの慢心から痛い目にあったことなんていくらでもある。だから慢心するようなことはしない。


村を出てからある旅人と出会った。この辺りで魔物の被害が出ていることを知らないのだろうか?しかもそいつは一人だったので俺たちは驚いた。注意喚起も含めてこの辺りで魔物の被害が出ていることを教えてあげた。俺達が教えなかったせいでこの男が被害にあったとかあっては寝つきが悪くなるからな。


その男は変わったやつだった。なんというか、常識がないというか・・・こんなやつが一人で旅をしているというのが信じられない。あまり他人の心配をすべきではないのだがこいつは一人でも戦闘が余裕なんて言っている。これには俺含めたパーティー全員が呆れていた。


そいつとはそこで別れ、魔物の住処へと向かった。斥候の報告通りなことを確認し、戦闘を開始する。


戦闘は順調に進んでいった。前衛の俺ともう一人で魔物の群れへ切り込み、後衛の二人の魔法使いと斥候でサポートを行う。いつものパターンで次々と魔物を倒していく。5分もかからないうちに最後の1匹を倒し、一息つく。


「これで終わりなのか?なんか拍子抜けするなぁ」


他のメンバーも同じような感じだった。依頼の内容はこれで達成だが今回は違和感がある。


「一応周囲の偵察をしてくる。30分程で戻るから待っててくれ」


斥候はそう言い、素早く偵察に向かった。一応魔物の住処の中なので俺達は斥候が戻ってくるまで待機した。・・・のだが、約束の時間を大幅に過ぎても一向に戻ってくる気配はない。


「ジョセフ、彼に何かあったと考えるのが妥当だろう。斥候役のいない状況で俺達はここからどうするか。リーダーのお前が決めてくれ」


俺達は想定外のことがあった時、リーダーが判断するように決めていた。今回のようなことは過去にもあったがその時は最終的に斥候が戻ってきたので今回もそうするべきなのだろうか。そう考えているうちに斥候が慌てた様子でこちらへと向かってきた。しかも緊急を示すある合図をしていている。


(囲まれている!?)


全員が戦闘態勢を取り、周囲を警戒する。数は先ほどの比じゃない。しかもこの辺りでは見ない魔物もいる。この瞬間俺はこれは罠だと確信した。おそらく俺達の前に依頼を受けた奴等も同じように住処に誘い込まれてやられたのだろう。


「逃がしてはくれなさそうね」


サブリーダーであるジェシカは劣勢であることをわかったうえで戦う選択しかないと判断したようだ。その意見には俺も賛成だ。この数の魔物を放置しておけばどれほどの被害が出るかわからない。俺はメンバー全員に指示を出す。


「みんな、ここは戦うしかない。苦しい戦いになるとは思うが何とか踏ん張ってくれ」


これだけの魔物が群れを作ることは普通はない。そのため従えている存在がどこかにいるはずだ。周りを見渡してみたがそのような存在は見当たらない。それもそうか、指揮官が最初から敵の目の前にいるようならそいつは指揮官失格だ。


ジェシカ達が補助魔法をかけ終わった合図をする。いつでもかかってこい魔物ども。一泡吹かせてやる。


囲まれているのに何もしてこない俺達にしびれを切らしたのか巨大なトカゲの魔物がこちらへ向かってきた。速い、そう思わずにはいられなかった。まるで大地を飛んでいるかのような速さに俺は驚く。俺はトカゲの突進に合わせて剣を振り下ろす。しかし、トカゲは素早くかわし、後衛の魔法使いへと向かっていった。だがこれも想定内。こういった展開になることもあるのでその時は斥候役が罠を仕掛けている場所へ向かいやすいように誘導するのだ。今回も上手く罠を踏んでくれたおかげで魔物はたまらずのたうち回る。まずは1匹、だが敵はまだまだいる。こちらの罠もそんなに多いわけではないので今のように何度も突破されたらいずれ手がなくなってしまう。


罠にかかった仲間を見た魔物達は警戒しているようだ。そして、前衛を数で押しつぶすことを優先したようで俺ともう一人の前衛に向かって一斉に向かってきた。魔物視点ではどれほどの罠があるかわからないから仕方ない選択と言えるがこれはこちらとしては助かる。


俺と前衛に大勢の魔物達が襲い掛かる。1体1体の敵は確かに強いが、このパターンになってしまえばこちらにも分がある。人間が魔物と戦う際の基本、後衛に近づけさせずに前衛で処理する。これを意識しなくても魔物側から向かってきてくれるからだ。


魔物達が前衛に向かい始めてからしばらくは硬直状態ともいえる状態になった。魔物達は負傷者が出ているものの依然として数の底は見えない。俺達は目立った被害は出ていないが疲労と魔力量が心もとなくなってきている。

思ったより優位には戦えているもののこのままではこちらが先に倒れてしまう。その予想通り自身にかかっている補助魔法が少なくなってきている。その影響かもう一人の前衛が魔物を振り払えず苦戦している。前衛2人でギリギリ受けれているかという状況で1人でも欠けると一気に崩壊してしまう。


(ここまでか・・・)


諦めかけたその時、魔物達が何かに気付いたようで急に俺達から距離を取りだした。疑問に感じた直後、さっきまで魔物のいた場所が爆発した。どうやら何者かが俺達を援護してくれたらしい。誰だかわからないが助かった。俺は感謝しながら振り返ると今日出会ったあいつがいた。俺は、いや俺達は一瞬の希望が打ち砕かれたように感じた。お前のような奴が来たところでこの状況は何も変わらない。一体何しに来たんだ?と怒りの感情が沸き上がる。そんな俺達の感情をよそにそいつはとんでもないことを言った。


「結構ピンチだったけど間に合ったみたいだな。後は俺達に任せろ」


(俺は夢でも見ているのか?)


ジョセフ達はみんなそう思ったがこれから起こることに比べれば何でもないことをこの時の彼らはまだ知らない。

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