第7話 つ、疲れた~
騎士風の男と小さな待合室で向かい合う。パッと見ただけで手馴れなことがわかるくらいには鍛えられている。そんなことを思っている間に早速騎士風の男は口を開く。
「お疲れのところ突然押しかけてしまいすみません。私はファロー王国騎士団の副団長をしているマーティンと申します。先日この辺りを通過中の一行が魔物の群れに襲われたため捜索と調査を国王より依頼されました。旅の方のようにお見受けられますがこの件についてなにか知っていることがあればぜひ教えていただきたい」
まさか王女が目の前にいると思っていない騎士は真剣に話している。あぁ、確かに俺が応対していてはどこかでボロが出そうだなと思う。
「これは副団長様、このようなところにまで訪れて捜査されるとは仕事熱心なお方ですね。それで仰っている件についてなのですが・・・残念ながら今日村へ着いたばかりですので貴方の望むような情報を私共は持っておりません。ご協力できないことを大変申し訳なく思います」
「そうですか、ご協力ありがとうございます。・・・失礼を承知して幾つか質問よろしいですか?」
副団長は俺達を疑ってはいなさそうだが、本来この村の住人でない俺達がこのタイミングでいるということは怪しいと言えば怪しい。事務的ともいえる質問を幾つか尋ね、王女が全て受け答えした。
「貴方への質問は以上ですがそちらの方へも幾つかいいですか?」
副団長は俺の方を見ていた。流石に断るわけにもいかないので俺は了承する。
王女への質問と同じようなことを聞かれたので全部王女と同じように答えた。まるでオウムのように。副団長は最初は気づいていなかったようだが途中から気づいたようで質問する度に笑いをこらえているようだった。副団長には貴族の令嬢に仕える護衛が副団長との会話に緊張して同じことしか言えなくなったように見えたのだろう。そんな風に地獄のような時間を耐えていたがここで想定外の質問をされる。王女にされた質問とは全く別のものだ。
「君、相当緊張しているのかな?何も食ったりしようってわけじゃないんだから落ち着いて。そういえばあまり見ない感じの顔だけどどこ出身なの?」
俺を和ますためなのだろう質問が逆に俺を追い詰める。別の世界から来ましたとは今のところ言えないし正直物心ついたときには戦場に居た。出身地を聞かれてすぐ答えられないとなると訳アリと思われてしまうため、何かしら答えなくてはいけない。王女に地図を見せられた時のことを思い出し、咄嗟にスラム出身と答えた。少しの間があったがこれが逆に信ぴょう性を与える答えとなったので我ながら上手くいったと感心する。
しかし一難去ってまた一難、次なる質問が襲い掛かる。この時の王女が仮面越しに微妙な顔をしていたのは知る由もない。
「ほう、ではスラム出身の君とそこのお嬢さんの出会いについてよければ教えてもらえないかな」
副団長は俺の緊張が少し解けてきたと思っているようだ。実際はその逆である。俺はやらかした・・・と心の中で後悔した。話を広げれば広げるほどボロが出てしまう。俺はなんとかこの話を終わらせたかった。しかし、副団長はどうやらその逆のようで俺との会話を楽しみだしているようだ。
そこからは地獄だった。王女が時々フォローを入れてくれることでなんとか筋の通った話にはできたが、俺も王女も話し終わって部屋に戻った際には倒れてしまう程だった。副団長は俺達の作り話を面白そうに聞いて満足して帰っていった。当初の目的は達成したがとにかく疲れた。その日は夕食を食べた後すぐに抗うことのできない睡魔に襲われた。正直魔物の相手をしている方がマシだったと思う間もなく寝ていた。
次の日の朝、王女は昨日の疲れが取れたからか俺に対して説教を始めた。正直説教を受けるのは好きではないが、自分の発言が軽率だったせいでこうなったため言い返すことはできない。それにここで怒られることで次このようなことを回避できるならやすいものだ。
王女はとりあえず言いたいことは言い終わったのか口調を変える。
「いろいろ言ったけど実際は私にも落ち度はあるわ。もっと貴方に常識を教えなかったことが原因でもあるからね」
王女はそう言い、この話は終わった。部屋で朝食をとり、また別の村へ向かうために出発の準備をした。ここで言う準備とは普通の旅で想像する準備とは異なる。王女は術式を魔石に封じたものを俺に渡して今日の俺がすべき行動を地図を見せながら説明する。王女が収納魔法で使っている空間にいる間は俺と連絡する手段がないため、この間の行動は全て俺にかかっている。そのため、その日の行動を事前に決めておかなければいけないのだ。
この村に入るときは二人で入ったが進む街によっては俺が一人で入り、宿などの手続きをしなければいけない。今日向かう村は二人で向かっても問題ないさそうだが、今後のことを考えると一度試す必要がある。
「今日向かう村は街道を進んでいけば見えてくるから難しく考えなくていいわ。問題は村についてから、宿で一人なのに二人分部屋を取ったり私の分の食料を買い忘れたりしないこと。部屋に着いたら私を呼び出してちょうだい。お金は渡した範囲で好きに使っていいわ」
一応魔物の肉もあるが、街中まで来て焼くだけで食べるものではない、どうしても買えない場合を除けば普通の者を食べたいと思うのは当然である。
「おう、今日は村を出るまでは一緒だけどな。それと、もしあの副団長にあったらお前のことなんて言えばいいんだ?適当に暇をもらいましたとかでいいか?」
「はぁ、そうね。それでいいわ。とにかく、その魔石は誰にも見られない様にだけ注意してね。それだけ守っていればどうとでもなるわ」
俺の中での疑問はなくなったので、俺達は村を後にして次の村へと向かった。しばらく歩いたのち、人影のないところへ移動し、王女は自身を収納した。
収納魔法の門が閉じたのを確認した後、俺は街道へと戻り、次の街へと向かっていった。この辺りは魔物もほとんどいなく、途中まで順調に進んでいた。地図で見たところ、もう1時間もすれば着くだろうかという頃、同じく旅をしている冒険者らしき人とすれ違う際に色々と話をした。その人達は先ほどまで俺達が向かう村に居たらしく、その村について詳しく教えてくれた。彼らはその村から魔物の群れの討伐依頼を受けて住処へと向かっていると説明を受けた。
「この辺りは魔物があまり出ないと聞いてましたが違ったようですね」
「いえ、確かにこの辺りは魔物は滅多に出ることはありませんでした。しかしここ最近魔物の住処が移動したのか魔物の目撃情報が相次ぎ、襲撃されることもあるようです。貴方みたいに一人で行動しているといつ襲われるかわかりませんよ」
冒険者らしき人達は親切に俺の心配をしてくれた。魔物の討伐へ俺も向かおうかとも考えたが王女との約束もある。村まではそれほどかからないので一先ず村へと向かい、正式に討伐依頼を受けてからでも遅くはないと判断した。
「ご忠告ありがとう。でも俺はそこら辺の魔物にやられるほどヤワじゃないんでね。あんたらの方こそ油断してやられないようにな」
お互いに軽い挨拶をした後、それぞれの向かう先へと進んでいった。
(あいつら大丈夫なんかなぁ・・・)
手合わせしたわけではないが持っている武器、体つきなどを見れば大体の強さは想像できる。ただし、あくまで肉弾戦での話だ。魔法についてはさっぱりである。その肉弾戦での判断はその辺りの魔物では問題なく勝てる。しかし、それよりも強い魔物や数倍の数を相手にする時は苦戦は必至だろう。
(こういう時あいつにすぐに相談したいなぁ、村の宿まで出すなって話だったけど今日行く村は大丈夫らしいから村に入る前に呼び出すか。宿の手配とかを俺がやれば問題はないだろうし)
俺は周囲を確認した後魔石を取り出し、王女のいる異空間を目の前に出した。王女は早かったわねと言いそうになったが明らかに周りに何もないこの状況を見てため息をつく。
「はぁ、どうしたの?何があったか説明して頂戴」
王女は異空間から出てきて俺に説明を求める。王女に先程の冒険者とのやりとりと俺はその魔物を退治しに行きたいと伝えた。
「イレギュラーが起きた際にすぐに私に相談したのはいい心がけね。今回のようなのは緊急というような内容とは私は思わない。けれども貴方にとってはそうでもないようね。まぁいいわ、魔物の様子がおかしいことと私が襲われたことは関係がないとはいえないから急いで村へと行きましょう」
俺もそうだが、お互い出会ってまだそんなに日が経っていないにもかかわらず、お互いを信頼しすぎているように感じる。こんな状況でお互い信頼できる人が他に居ないからと言えばそうなんだが。
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