第6話 旅の準備

俺達は魔の森から出る場所を探していた。既に近くまで来ているため魔の森から出ること自体は難しくはないが、森から出るところを見られるのは何かと不都合だからだ。とはいえ森の中から外の様子はわからない。そこで、森に入った場所から人通りの少ないと思われる場所を推測し、その方向へ向かっていくことにした。森から出た後大体想定通りの場所に出れたことを確認し安堵する。


俺達は人の通らないうちに街道沿いまで向かい、近くの村へと進んだ。


王族というだけあって正確な地図を持っていたため、森の外に出た後は順調だった。魔の森では地図が全く使えなかったが、事前に次に向かう場所がわかることはとてもありがたかった。


街道沿いにも魔物は出たが魔の森と比べればなんでもない、俺は周りに人の目がないことを確認するとあっさりと魔物を倒す。


魔の森を出る前に王女と約束を幾つかしていた。これもその一つである。俺の実力はこの世界では飛びぬけたものであるためどうしても目立ってしまう。そのため、王女の件が終わるまではなるべく目立たないほうがいいとのことだった。


「にしてもこれほど弱いとはなぁ、加減するのも難しいし誰か見てる時はそっちで倒してくれない?」


仮面越しではあるが王女はだるそうな表情をしているのが想像できる。だが俺がやらかすことのリスクを考えると仕方ないことは彼女もわかっている。ぶつぶつとつぶやいていたが最終的にはOKしてくれた。


村へ着くと俺達は真っ先に宿を目指した。村の人には旅人に見えたようで警戒されている様子はなかった。このあたりは街道沿いではあるが、近場に泊まれる場所がないため、旅人が時々訪れるのだそうだ。王女はそういった地理的な要因も考慮してこの村にしたのかなと感心している間に宿へと着いた。


宿の受付は王女が手続きをした。お金を支払う際受付に近づき、手に持っている硬貨を隠すように見せた。受付は出された硬貨が珍しかったのか一瞬反応するが何かを察したようで硬貨を受け取り、お釣りと思われるお金を王女を渡した。

後で聞いたことだが、王女が使った硬貨は金額が高いためあまり流通していないものらしい。そのため、領主や貴族辺りの人がお忍びで来たのではないかと思われたようだ。実際に息抜きのために少数の護衛を連れて数日街を離れる人はいるらしい。


部屋へと案内され、宿の女将が出て行ったところでようやく王女は仮面を外す。仮面をつけることにはあまり慣れていなかったのか少しイラついていていた。


「全く、早くこの状況を何とかして自由に移動できるようになりたいわね。」


それに関しては完全に同意である。王女を狙った相手が何なのかわからないうちはこうやって慎重にならざるを得ない状況がいつまで続くのかわからない。初日の時点でこうなのだから相当気を強く持たなければいけないと感じた。


「はい、これがこの辺りで使える通貨よ。さっき私が使ってたのは珍しいやつだからこれを使って」


そう言って王女は硬貨の入った袋を投げた。俺はそれを軽い気持ちで受け取ったが思ったより重いことに驚く。


「これどれくらい入っているんだ?」


「そうね、大体この宿で1か月泊まれるくらいかしら、あんまり無駄遣いしちゃ駄目よ」


王女に釘を刺されるが、この状況で無駄遣いしようとは思えない。この件が終わったらそれなりのお礼をしてもらえばいい。俺はそのように伝えると王女もまぁ期待はしてていいわよと言ってくれた。今のところはお互い様だがこの先どう考えても俺の負担が増えることは明らかだからだ。


宿の確保ができたので俺達は食料や娯楽を求めて村を探索した。想像はしていたが食料はともかく、娯楽はほとんどないといってもよかった。


「店で買えるような娯楽はないみたいね。村人に聞き込みでもしてみましょうか」


王女の提案により、村人へ娯楽を聞いて回る。高齢な方の割合が多く、聞き出せたのはあやとりや将棋などで、とても一人で時間を十分に潰せるようなものではなかった。諦めかけていた時、一人の老人がこちらへ向かってきて1冊の本を渡してきた。


「あんたら、ひまつぶしを探しているようだな?うちに孫が置いていった本があるんだがこれを買い取ってはくれんか?わしも孫も解こうとしたが飽きっぽい性格でのう、最初の数問しかやっていないのじゃ」


王女は渡された本をぱらぱらとめくり、老人に本の代金と同じ額を渡す。老人は嬉しそうにお金を握りしめ去っていった。


「正直途中からは全く期待してなかったけど思わぬ収穫があったものね、宿へ戻りましょう」


こんな本1冊で本当に大丈夫かと心配になったが大丈夫よと返されたのでこちらとしては言うことはない。彼女が納得していればそれでいいからだ。それでもどんな本なのかどうしても気になった俺は部屋に戻った後たまらず質問した。


「一体どんな本なんだ?俺に教えてくれよ」


「簡単に言えば数字パズルとでもいえばいいのかしら。ほら、ここに9×9のマス目とその中に所々数字が入っているでしょう?空いている部分に数字を入れていくのだけれどもいくつか条件があるの。数字は1から9のみを使う。同じ行、同じ列に同じ数字をいれてはいけない。3×3の小さな正方形内にも同じ数字を入れてはいけない。この3つを守りながらすべての空白に数字を入れれたらクリアってこと。時間つぶしとしては優秀ね」


この世界にも同じものがあることに俺は感動した。しかし、衝撃の事実が王女の口から語られた。


これらの問題は昔、とある物好きが生涯かけて作った問題を本にまとめているだけで問題の作り方などは失われているらしい。

もっとも、問題をまとめたものを本にまとめるだけでお金になるので一々新しい問題を作らなくてもいいことが原因なようだが・・・。

問題の数は膨大なため問題集は何冊にもわたっている。今手元にあるのはそのうちの1冊ということだ。


「なんというか・・・この世界も狂気の上に成り立っているんか?奴隷商の話といい、今のところまともな昔話を一つも聞いてないぞ」


「そんなもんよ、何も考えてない人が革新的なものを作ることは稀、大体のものは何らかの熱意がおかしい人たちによって作られてるのよ」


そう言われてはこちらは言い返すことができない。俺としても思い当たるところはあるからだ。


ともかく、暇つぶしの手段は手に入れた。王女は必要に応じて隠れることができる。そして、これはある意味俺がいけるところには王女がいけるということである。リスクはあるものの、ある意味ワープのようなことができるため、悪用しようと思えばいくらでもできてしまう。そのことは王女も理解しているようで今回の件が終われば魔の森で手に入れた魔石を壊してしまったほうがいいと思っているようだ。


当初の目的を果たしたため明日にはこの村を出て王都へ向かうことを話し合って決めた矢先、外が騒がしい。何事かと宿屋の窓から外を除くと何やら騎士風の人が来たようだ。どうやら行方不明になった王女の捜索隊のように見えるが・・・


「困ったわね、ここで正体を明かして王都まで送って貰ってもいいのだけれどそれは私が生きていることがばれてしまうからここは別人のふりをしておきましょう」


王女はそういうと仮面を被る。そうこうしているうちに騎士風の人は俺達が宿に泊まっていることを聞いたのだろう、宿へと向かって来る。


「いい?私に話を合わせるのよ」


王女はいつもと違う声で話し出したので驚いた。これも魔法で変えたのだろうか。そんな風に考えている俺に対して分かってるのかしらと呟いていたので俺は頷いた。


部屋の扉がノックされ、女将から面会を求められていることを伝えられ、俺達は応じて待合室へと向かう。

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