第5.5話 王の悩み
ファロー王国王座の間
「遅い、マリーがいつまで経っても戻ってこない。何か悪いことが起きていなければいいのだが・・・」
このセリフも何度目だろうか、ファロー王国の王であるジャックは心配で仕方なかった。
2週間ほど前に隣国であるグナイ王国へマリーを大使として向かわせた。会談自体は上手くいったと報告はあったが帰りの道の途中で消息がつかめなくなってしまったらしい。消息が掴めなくなってから捜索隊を向かわせたが、こちらも芳しくない。
(マリーにつけていた騎士達はなにをやっとるんじゃ・・・、事の顛末によってはただじゃ済まさないぞ)
急に玉座の間の扉が開く。いつもの報告係ともう一人、娘の付き添いの騎士の一人だ。しかし、かなり負傷しているように見える。
「どうした、なにがあった?」
「はい、会談を終えた後王都を目指していたのですがそこで突然魔物の集団に襲撃を受けました。私たちは必死に応戦したのですが戦況が混乱する中、姫様達とはぐれてしまいました。私はその戦闘の中で魔物の攻撃を受けて気絶してしまいました。気が付いた時には戦闘は終わっていて騎士達は全滅してたのです。私はすぐに姫様を探しましたが、姫様の姿はどこにもありませんでした」
傷ついた騎士は当時の状況を振り絞るように話した。かなり過酷な戦いを強いられたのだろう。姫の安否がわからないのは困るが、彼なりに最善を尽くした結果なのだろう。ここですぐに処罰するのは忍びないので一先ず怪我の治療を優先させることにした。
「娘とはどのあたりではぐれたのかわかっていれば教えてくれないか?」
「確かこの辺りだったかと」
彼が指さした場所は魔の森の近くの1点を指さした。いくら探しても姫が見つからないこと、そのことから一つの仮説が浮かび上がる。
「まさか魔の森に入ったとかは・・・そうだった場合はワシらではどうしようもない。とりあえずこの者が示している地点の周辺を徹底的に操作するのじゃ。ただし、絶対森に入るな」
報告係の者ははっと言うと素早く部屋を出た。
「おぬしの処遇は追って考えるとする。今は療養に集中せよ」
騎士の男も返事をした後、玉座の間を後にした。
一人になった玉座の間で王は気を落とす。王としての立場がなければ泣きたい。いや、一人になったこの場で少し泣いていた。十中八九娘はもう生きてはいないからだ。もっと優秀な騎士を付けていれば変わっていたかもしれないと悔やむが気になる点はある。
あの辺りは魔の森に比較的近い場所とは言え、魔の森の魔物が出てくることはない。普通の魔物の数は寧ろ少ないくらいなのだ。なのに魔物の集団が出たということは何かしらの組織が裏で動いている可能性もあるということになる。
色々考えようとはしたが娘を喪失したショックが大きくあまり深い考察はできない。明日から忙しくなることは想像に難くないため一先ず今日は休むとしよう。
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