第5話 収納魔法の使い方

洞窟へと戻った俺たちは焼いた肉を頬張っていた。これも魔法のおかげである。なんでも魔法でできてしまうのは便利だがそれ故に発達していない文化などもあるのではないかなという疑問が湧く。しかし、どう聞けばいいのか。


そもそも異世界の人と普通に会話できているこの状況は普通じゃない。これも何か原因でもあるのか。などと考えがまとまらない。


「どうしたの?手が止まってるわよ」


王女がのぞき込んでくる。俺は一先ずこの件は後回しにすることにした。王女がどこまで一般常識を持っているかわからないのと街へ行けばある程度はわかるからだ。疑問を持てば持つほどこの森から出るという選択肢しかなくなる。


「いや、ちょっとこの世界の常識について考えててな。でも今はこれからの方針を決めるほうが大事だから後回しだ」


そう言って、王女の気を逸らす。確かに今一番大事なのはこれからこの森で生きていくのか、もしくは森を出るのか早めに決めることだ。この森で生きていくことは2人いればしばらくの間はそれほど苦労はしない。まだ森の近くに追手がいる可能性もあるのですぐに出るのはリスクがある。追手のリスクと好奇心を天秤にかける。結論が出ないので王女に決めてもらうことにした。


「そうね、貴方の言う通り今すぐに森を出るのはリスクがあるわ。この森にいればある意味では一番安全というのは悲しいことですが事実です。敵がどこまで根付いているかわかりませんからね。行く先々の村が安全とは限りません。一番いいのは王都へ行き、他の人にばれない様に父上のところまで行くことですが・・・」


「そうだな、王女ってことがばれるとまずいんだよな?俺はこの世界の人には顔が知られていないからどうにでもなるとして王女が仮面とか被ればいいんじゃないのか?」


俺の提案に対して王女は考え出す。


(仮面をつければ確かに街中を歩くくらいなら何とかなるが関所を通るときや衛兵に正体を明かすよう言われた時が面倒だ。それなら私を隠したほうが・・、そういえば私自身を収納魔法にかけることってできるのかしら)


「ちょっと思いついたことがあるの、今までやったことがないことだからうまく行くかわからないの。貴方意外と頭は回りそうだから一緒に考えて」


そう言って王女は急に収納魔法についての説明を始めた。全部はわからなくても原理的なことを理解して意見すればいいらしい。


王女によると収納魔法は術者が魔法によって作った異空間に対して魔力を使って一時的に干渉できるようにすることで間接的にものを収納しているらしい。ここで大事なのは術者の位置に関係なく、魔力を流し込むことで同じ空間に干渉できるということである。

逆に異空間内にいた場合でも何らかの方法でこちらの空間との接続場所を変えることができれば術者は異空間に居ながら移動ができる可能性があるということを言いたいらしいとなんとなくだが理解できた。


「つまり、こういうことか?あんたが俺の近くで異空間に通じる門のようなものを作って俺が移動するとその門の位置も移動するようにしたいってことか?」


「あら、今の説明で分かったの?正直5回くらい説明してもダメかもくらいに思ってたのに」


なんとか理解できたからいいものの頭はパンク寸前である。そこからアイデアを出せって言うんだから無茶である。王女と共に案を出し合ってはみるがどれもパッとしない。そんな中一つの案を出す。


「そういえば火魔法を見た感じ魔力って身体から離れても操作ってできるんだよな?離れたところにある魔力を異空間に繋がるように変換すればいけないか?」


自分で言っておいてなんだが相当難しいことだろうというのは想像に難くない。しかも自身から離れたところにある魔力がどれほどの間持つのかわからない。だが俺はこの世界のこと、魔法のことを知らない。もしかしたら何かのきっかけになるかもしれない。


「・・!そうか、その手はあるわね。後は魔力をどうやって保存するかだけ解決すれば理論的にはいけなくもないわね」


何かヒントになったようで王女はまたぶつぶつと一人で考え出す。1分もたたないうちに考えがまとまったようだ。


「魔術師ってのは普段使いきれなかった魔力の一部を魔石に貯めておくことで戦闘の際にその魔力を使うことで自分が持っている以上の魔力を疑似的に使うことができるの。今回はその魔力を空間魔法に変換すればできる可能性があるってことね」

「あとは魔石なんだけど、ここら辺の魔物が魔石を持っていればそれは解決ね、魔の森の魔石ともなると質のいい魔石になりそうだから期待できるわ」


王女によれば魔物を倒した際に稀に魔石を持っていることがあるらしい。魔石は多少の誤差はあるが魔物の強さによって質が決まるらしく魔の森の魔物であれば最高級の魔石になるそうだ。王女も魔石をいくつか持ってはいたが、収納魔法は繊細な魔法らしく自分から離れた魔力で操作を行える程の品質ではないとのことだ。


とりあえず目標は決まった。やろうとしていることは無謀かもしれないがやれることはやってみよう。

そうして次の日から魔石が見つかるまで延々と魔物狩りに勤しんだ。


20体は倒したであろうか、ついに魔石を発見する。手に入れた魔石を王女に見せる。彼女も納得の品質らしい。


「想像はしていたけどこれほどとはね。このようなものを持ってるのこの世界で私達だけじゃないかしら。これはこれで目を付けられそうだから注意しなくてはいけない。わかった?他の人に見せちゃ駄目よ」


俺ははいはいと返す。この世界のことは彼女に全て任せることにしている。下手に非常識なことをして目を付けられるのは困るからな。


魔石を持って洞窟へと戻り、早速実験を行う。まずは王女が魔石に魔力を込め、魔石を持った俺が王女から離れた位置に立ち収納魔法を使えるかというところから始めた。


5メートル、10メートルと上手くいっていたが、100メートルを過ぎた辺りで失敗する。王女のもとへ駆け寄り、問題点について話し合う。


「うーん、距離が離れる程難しくなるわね。練習すればもう少し距離は伸ばせるでしょうけど・・・そもそも異空間とこの世界との距離なんて測れるわけないしどうしようかしら」


「試しに異空間に置いた魔石がこっちに干渉できるか試せばいいんじゃね?」


「それは駄目ね、異空間側からこちらに干渉しようとするとどこに接続されるかわからない。だからあくまでこちらから干渉しないと・・・ん?魔石を置く、魔力を置く、この魔石になら収納魔法そのものを保存できる・・・?」


普通の魔石であれば魔力そのものを貯める使い方しかしない。もちろん複雑なことができないというものあるが魔力の状態のほうが使い勝手が段違いだからだ。しかし、今回はそのようなことに気を使わなくていい。


王女は手際よく魔石に対して収納魔法を保存する。そして十分離れた位置に移動し、俺にその魔石を叩くように言った。俺は指示通りに魔石を軽くたたく。すると何回も見た異空間が現れた。驚く俺を確認した王女は近づいてきて


「どうやらうまくいったみたいね。魔石に魔法そのものを保存するなんてこんな状況でもなければ思いつかなかったわ。しかし、これは考えようによっては魔法を撃つまでのタイムラグを消してくれる画期的なアイテムになるかもしれないわ・・・話が逸れてしまいましたわね、あとは異空間内で長時間居続けても問題ないかですけど・・これについては実は実験した人が既にいるの。昔運びきれないほどの奴隷を抱えてしまった奴隷商人が試しに一番弱っている奴隷を入れて1日異空間に入れて生きているか試したの。実験は成功で奴隷は生きていたの。この話は一般の人はあまり知らないけど魔術師の間ではそこそこ有名な話なの。こんなところで奴隷商人に感謝することになるとはね。そんなわけでおそらく問題はないのだけれど・・・」


大丈夫ということがわかってもやはり心配なのだろう。仕方ないな俺が一肌脱ぐか


「じゃあ俺が試す。俺を異空間へ入れてくれ。そして1分後に出してくれ」


王女はありがとうと言うと早速収納魔法を使い、異空間へと繋げる。俺がそこに入ったことを確認すると魔石へ収納魔法を保存し、空間を閉じる。


異空間の中は何もなかった。ただそこに空間があるだけ。


(こんな空間に長時間居たら発狂してしまいそうだから何か時間を潰せるようなものがないと危険だな。奴隷が大丈夫だったのは元から弱っていたからずっと寝ていたのが原因ではないだろうか)


などと考えているうちに洞窟へと繋がった。もう時間が経ってしまったようだ。


「どうだった?その様子だと大丈夫そうだけど」


「そうだな、1分だから問題なかったとでも言うべきかな。あそこに長時間居続けるのは相当厳しいと言わざるを得ない、何せ何も無いからな」


王女は異空間に長時間入らなければいけない。しかも何度もである。そのため何かしらの対策、要するに暇つぶしが必要だ。これについては王女自身で何とかしてもらうしかない。色々考えてみたようだがここは森の中、そんな都合のいいものはない。一先ず、最初は小さな村に仮面をつけて行き、何かしら見つけてもらうことにした。


「さて、ここでできることはあとは魔石を集めるくらいだけど・・・どうする?私としては1つじゃ心配だから予備含めてあと2つは欲しいわ」


何らかの原因でここの魔石を失うこともあるかもしれない。それだけで問題と言えば問題だが王女を狙っていた者たちに王女が生きているとばれるのはもっとまずい。そのため、転移魔法を保存している魔石を失った時は速やかに王女を異空間から出さなければいけないのだ。1つでは心配というか使い物にならないということになる。


俺達はさらに2日かけてさらに魔石を2つ手に入れた。これで準備は万端だ。そして過ごしてきた洞窟を後にした。

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