第4話 これが・・・魔法!
「さてと、魔法見せてくれる約束だよな?」
朝食後俺は早速王女を急かす。まだ王女は食事を終えていないので呆れている。これではどっちが大人なのかわからない。
しかし考えてみて欲しい。自分の常識を覆すような出来事を前に好奇心を抑えられる人がどれだけいるだろうか。しかも、誰もが一度は憧れるものならなおさらである。
王女は食事を終えると洞窟の外で魔法を使うと言ったため、先に洞窟を出て周囲に魔物がいないことを確認する。周囲の安全を確認したので王女にも外に出てもらった。
「さて、昨日収納魔法は見せたので他のを見せましょうか」
そう言うと王女は手を前に出して何やら集中しだした。2秒ほど経っただろうか、彼女の前に火の玉が現れた。王女はにやりとしたかと思うとその火の玉をこちらに向けて飛ばしてきた。一瞬身構えるが俺の前で方向を変え空に向かって飛んで行った。火の玉は自由に操れるようで縦横無尽に動き回っている。火の玉は徐々に小さくなっていき、最後には消えてしまった。
最初に俺のほうに飛ばしたのはからかうためだったようだ。全く、油断も隙もありゃしないな。
「今のは火魔法。ああやって高熱の球を操ってぶつけたりすることができるの。最初に溜めた魔力の量に応じて距離や威力を変えることができるの。普通の人だと私程自在に動かせる訳ではないの、すごいでしょう」
王女は自慢げに話す。確かに先程の魔法の扱いは見惚れるほどだった。これ程の魔法の扱いができるということは他の魔法も期待できそうだ。
「ま、火魔法はこんな感じ。その気になればここの魔物相手にもダメージを与えるくらいはできると思うけど溜めるのに時間がかかり過ぎるから駄目ね」
彼女の言っていることはもっともだった。先ほどの威力程度ではこの辺りの魔物には大したダメージを与えることはできない。それでも2秒かかるのだから戦闘では致命的な隙となってしまう。
「本来魔法ってのは唱えさせてくれるだけの時間を稼げる前衛が居てこそ真価を発揮するの。相手側もそれをわかっているからそんな簡単に撃たせてはくれない。思ったよりも難しいの。他にも見せれる限りいくわよ」
そう言って水魔法、土魔法、風魔法と強化魔法、それらを組み合わせた魔法を見せてもらった。中でも土魔法というものは便利で水魔法や火魔法と組み合わせることで煉瓦や家具などを作ることもでき随分と快適な生活を送れるようになった。こいつ、万能過ぎないか?
火魔法使った時に魔法に自信ありそうなこと言っていたけどもしかしてすげえやつなのか?
「なぁ、お前が滅茶苦茶すごいやつにしか見えないんだが。この世界の連中はみんなこうなのか?」
「そうね、私程の魔術師は殆どいないわ。魔法って言うのは先天的なもので生まれたときに魔力量がほとんど決まってしまうの。魔道具や訓練によって多少は鍛えれるのだけれど・・あんまり期待しない方がいいわね。この世界の人間でないあなたがどれほど使えるのか見てあげましょうか?」
「ぜひ頼む、もしかしたら俺にも魔法の才能があるかもしれないからな」
期待で胸が高鳴る。俺は言われたとおりに王女の前に手を出す。王女は俺の手の上に手を置き、何やら集中している。30秒ほど経過したが何も起きない。何かをしているのはわかるし気づけば汗もかいている。
ついに我慢の限界なのか王女は手を放し、あーーーーっと叫びだす。突然のことに俺は驚き、しばらく硬直した。
「なんなのよ、あんたに魔力を送ろうとしても全然できないじゃない。まるで外からの干渉を全て受け付けないような・・・。そういえば昨日蛇に噛まれた時もなんともなさそうだったし無敵とでも言うべきなのかしら・・・」
ぶつぶつと何かを言っている。しばらく待っているとようやく終わったのかこっちを見ている。
「はぁ、さっきのは私から魔力を流して内なる魔力を感じれるようになってほしかったんだけど貴方に魔力を全然送れないの。一体どうなってるのかしらね、貴方の体は。とにかく、この手法が使えないとなると専用の魔道具を使わないといけないから街へ行かないと確認できないわ」
突きつけられる現実にショックを受ける。生まれ持った魔力量がわからなくても魔法は使えるそうなのだが、身の丈に合わない魔法を使うことはリスクがあるため、魔力量を知るまでは魔法を使わないのが普通だそうだ。
「というわけで、しばらくは諦めることね。生きていればそのうちわかるんだから落ち込まないで」
王女に励まされ、いつか街へ向かうことを決心する。もともと向かうことは決まっていたようなものなので街へ行く楽しみが増えたとでも思おう。
気づけば王女がこちらを見ていた。何か頼み事でもしたそうなように見える。程なく決心したようで口を開いた。
「あのう、貴方の願いを1個聞いてあげたんだからこちらも1ついい?」
なんだ、そんなことか。俺はいいぞと気軽に応える。あまりにも無茶な内容は要求してこないだろうというのはわかっていたからだ。
「昨日、私は2人で森に入ったと言いましたね。その人を倒した魔物をあなたは倒したのだけれどもあの時は余裕なんてなくて・・・遺品とかあるかもしれないから探して・・もらえないかしら?」
俺はこの少女を特別な存在だと思っていた。しかしそんなことはなく、ここにいるのは年相応の感性を持ったただの少女だ。親しい仲間がいなくなれば心も痛むし、泣きたいのだろう。今までは俺という存在に気を遣ってたのか強がっていたが心を許したのだろう。そんな少女の頼みを断るわけにはいかず。
「お前がいいなら今すぐにでも行くか?早めにいかないと場所も忘れちゃいそうだし」
王女は嬉しそうに頷いた。そうして昨日戦闘した場所に向かった。
今度は王女もサポートという形で戦闘に参加してもらうことにした。魔物と遭遇はしたが昨日までと違い、耐えていれば後ろから支援してもらえるので戦闘は格段にやりやすくなった。王女も俺が敵を引き付けているので十分に魔法を準備できる。相性はばっちりだった。
また、倒した魔物も収納してくれたため一々魔物を運ぶ手間も省けた。戦闘で使うものよりこういうのが一番便利そうなんだよなぁと収納魔法を使う王女を羨ましそうに見ていた。
そうして無事にたどり着くことができた。蛇の死体もまだ残っていて昨日と同じ光景だ。流石に蛇の腹の中まで調べる気にはなれないので周囲に何か落ちていないか探した。流石に食べられてからだいぶ移動した場所だったので何もなく、今度は蛇と遭遇した辺りまで移動した。
10分程探した結果ペンダントのようなものを俺は発見した。王女に見せると急に泣き出した。俺はそっと抱きしめ、泣き止むのを待った。
泣き止んだ王女はしばらく祈った後感謝を述べた。どうやら、別れはすませたようだ。王女はさぁ、帰りましょうと言い俺たちは洞窟へと戻っていった。
魔の森の外、とある場所
「王女とその護衛出てきませんね。流石に死んだのでは?」
「そう考えてもいい頃だろう。あの森に入って1日生きていられる確率はほぼ0%、しかもこれは鍛えられた兵士50人での話だ。あんなちっぽけ魔術師とちょっと腕の立つ騎士1人じゃ何もできずに死んでしまうだろう。明日まで見張って出てこなければ終わりにしよう。いつまでもここに大軍を置き続けるわけにもいかないからな・・」
まさか彼らも王女が生きているとは夢にも思っていないだろう。彼らの完璧だったはずの計画はここから少しずつ狂いだした。
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