第3話 出会い
「さてと、この辺りだったかな」
昨日の夜中の出来事を思い出しながら周囲を見渡す。大体の方向はわかるとはいえ、洞窟の中で聞いたためもしかしたら別の方向だったのかもしれない。そう思いながら探索を続けていた。
しばらく歩いたであろうか、何やら足音のような音が2つこちらへ向かっているのを感じた。ここから離れなければ巻き込まれることは避けられないだろう。悩んでいるうちに向かってくる少女と目が合ってしまった。明らかに面倒ごとだがこうなってしまってはしょうがない。俺はこの少女を助けることを選択した。
少女は近づいてくると息も絶え絶えの状態であったが絞り出すように
「誰かはわかりませんが・・助けて頂けませんか?」
こうお願いされては仕方がない。俺は頷くと迫りくる蛇と対峙する。少女を連れて逃げることも考えたが追ってきた場合背後を取られた状態での戦闘になる恐れがあるため、ここで倒すことを選択した。
蛇は勢いよく噛みついてきた。裂ければ後ろにいる少女に向かう恐れがあったので腕で受け止める。その瞬間後ろにいた少女から「あぁっ・・」と絶望したような声が聞こえてきた。俺はもう片方の手で剣を突き立て蛇の鱗を傷つける。たまらず蛇は後ろへ下がる。少し余裕ができたので後ろを振り返ると今にも泣きそうな少女がそこにいた。
「あなたは・・大丈夫なんですか?」
そう言われ仲間の誰かが今の魔物にやられたことでもあるのかと咄嗟に気付く。
「今は後だ、もう少し離れてくれ」
俺はそう言って再び蛇へと目を向ける。蛇は先ほどの攻撃が効いていないことを不思議に思っているようだ。この世界の生き物から俺はどうみられているんだと内心思いつつ蛇へと剣を向ける。噛みつきの攻撃を何度かいなすと流石にこのままではだめと判断したのか周囲を囲むような動きを始めた。おそらく絞め殺す方法を取ってきたようだ。こちらの剣が鱗を貫けないため、徐々に追いつめられる。
どうにか弱点を付けないかと考えを巡らせる。まず思いつくのは目や口だが、向こうもそれをわかっているため剣が届く位置まで近づけさせてくれない。
ふと、最初の攻撃で鱗に傷をつけたことを思い出す。同じ鱗を攻撃し続ければもしかすれば貫けるのではないかという可能性に賭けることにした。しかし、全長10メートルになろうかという蛇の同じ部分を狙うことは至難の業である。さらに何回当てればいいのかということもわからない。だが関係ない、腹は括った、何度か攻撃を当てているためひびの入った鱗が散見される。
何度か剣を振るった結果その中一つに対して攻撃を当てることに成功した。鱗は砕けたが、内部まで届いたわけではないためもう1回攻撃を当てる必要がある。
蛇側はこちらの狙いに気付き、鱗のない部分を狙えないように態勢を変えたが、それが敗着となる。攻撃されるリスクを顧みずに巻き付く選択をされた場合最終的に巻き付かれて窒息死していた可能性が高かった。
実際は体制を変えたとはいえ、傷ついた鱗はまだまだあるので攻撃する隙を新たに作っただけとなった。最終的に弱点を隠し切れなくなった後に捨て身の攻撃を始めたが時すでに遅し、鱗のない部分を攻撃し剣を突き刺す。痛みに耐えきれなかった蛇はしばらくのたうち回った後ピクリとも動かなくなった。
(今回は危なかった。一昨日の熊といい、体格差がある相手は流石にキツいな)
この森に来てから始めて死を感じさせる相手との闘いを終え、一息ついた後助けた少女のほうを見る。
「色々聞きたいことはあるが、ここじゃいつ狙われるかわからない。助かりたいなら一先ず俺が拠点としているところに来い」
少女はまだ俺が蛇を倒したことが信じられないといった様子であったが俺の言うことに従うことを示すためにコクコクと頷いた。
3時間程歩いただろうか、正直まっすぐ帰れる自信はなかった。何度か道を間違えて遠回りしたようにも思う。それでも魔物に会うことなく洞窟まで戻ることができた。
道中会話らしい会話は殆どなかった。周囲の警戒に神経を使っていたためありがたかった。彼女なりの配慮だろうと感心した。
洞窟に着き、2,3の簡単な会話をして空腹状態であることがわかると蓄えてあった食料を渡した。口に合うかどうかはわからないが向こうもそんなことを言えるような状況ではないことをわかっているようだ。食事を済ませた後、少女は語り始めた。
「まずは助けて頂いたことに感謝します。私はファロー王国第二王女のマリーです。隣国であるグナイ王国との交渉後の帰り道で魔物に襲われ、命からがらこの魔の森に逃げてきました。魔物達は何者かに操られている様子だったのでおそらく人為的なものでしょう」
ただの少女ではなことに納得する部分はあった。年齢の割に落ち着いているように見えたからだ。王女は話を続ける。
「この森に生息する魔物達はとても凶悪なことで有名です。歴戦の戦士であってもまず1対1で倒すことは無理と言われています。最初は2人で森に入りましたが・・・私をかばって帰らぬ人となりました。どうしようもなくなった私を助けてくださったがあなたというわけです」
王女はここまでの経緯を話し終えるとふぅとため息をつく。思い出したくもないことをしゃべらせるのは酷ではあるが助けてもらうだけで何も話さないような人に対してはこちらも少々不審に思ってしまう。改めて見ると容姿に整った王女だ。愛くるしい顔立ちで髪は金色で長くあれだけの出来事に巻き込まれたにもかかわらず末端まで奇麗に手入れされていたことがわかる。流石に今は薄汚れているが本来は見惚れてしまう程だろうなと内心思った。
王女はこれで十分?と言わんばかりの表情を見せる。俺はあぁと返す。
「お互い聞きたいことはあるだろうからそちらからどうぞ」
と俺は提案するとすぐに
「あなたは何者なの?どうしてこんなところにいるの?そしてあのデタラメな強さは何?」
続けざまに質問を吹っ掛ける。
「順番に答えていく。まず俺はユウタ、どこにでもいる普通の青年だ」
普通!?という声が聞こえたが一先ず無視する。
「次にここにいる理由だが俺にもわからん。気づいたらここにいたんだ」
「最後に強さについてだがこの間までもっと強い攻撃を受け続けていたんで防御力には自信があるんだ」
王女は俺のことを頭のネジが吹き飛んだ奴のように見ていたがため息をつくと
「はぁ、要するに正体不明の規格外とでも思えばいいのですね。私に対して危害を加えないことが分かっただけでも良しとしましょう」
王女はもういいと言いたげな表情をしていたので今度はこちらから質問する。
「今までの話を聞いた感じだと俺は今までいた場所とは何もかもが違う、ここは一体何なんだ?これからあんたを俺はどうすればいい?」
最後の質問は捉えようによっては誤解される可能性もあったがとにかく情報が欲しい。
「ここは、いいえこの世界は常に人と魔族が争っています。今は大陸によって住む場所が分かれているため小競り合い程度しかありませんがいつ再開するともわかりません。その時に備えて各国が連携を取れるように模索しているのが我がファロー王国です。・・っと少し話が逸れてしまいましたね」
「次の質問についてですが、できれば私を王国まで送っていただければ嬉しいですがこれは貴方次第です。今頃私は死んだ扱いとなっている可能性もありますし、私を狙った者達との争いに巻き込んでしまう可能性もあります」
この世界についてはとりあえず未知の世界に飛ばされたとでも考えることにしよう。それよりもこの王女のことだ。思った通り、面倒ごとに巻き込まれているようだ。流石に見殺しにするほど俺は道を外していないのだが関わりたくはない。困ったなという表情を見せると王女はふふっと笑った。
「そんなに悩まなくてもいいのですよ。出会った時は必死でしたので助けを求めてつい無茶な要求をしてしまいましたが本来私を助ける義理などはないのです。ここでの生活は過酷を極めることは私でもわかります。私を養ったがためにあなたにまで危険が及ぶのは私にとっても本意ではありません」
そう言われたのはいいもの出て行けとは言いにくいなぁ、と優しさに付け込まれているようにも感じる。全く、恐ろしいやつだ。
「まったく・・・面倒なお姫様を拾ってしまったな。参った、すぐにとは言わんがお前を帰してやる。そのためにお前にはここで最低限生きていけるようになってもらうがな。そういえばお前はここの連中に通用するかは置いといて何か戦う術を持っているのか?」
「えぇ、魔法でしたら少々。あまり使い勝手の良いものでないので実践向きではないのですが」
魔法という単語に俺は目を輝かせる。魔法なんてファンタジーの世界でしか聞かない単語だ。本当にそんなものがあるとすればここが異世界ということに納得がいく。
「魔法なんてものがあるのか?見せてくれ!」
俺は王女に詰め寄る。ここまで反応されるとは思っていなかったようで流石に少し引いていた。
「わかった。わかった。見せるから落ち着いて。今はあまり使えないから明日になるけどいいわよね?」
流石にその程度待てないわけではない。しかし、魔法が見れるだけで明日が楽しみだ。
この世界に来てから初めての楽しみができたことに喜びを覚え、寝ようとするが現実が襲い掛かる。ゴツゴツした地面がやぁと言っているように見えて思わずふらつく。
「あら、ここには寝るための準備が何もないのかしら、仕方ないわね。貴方、明日見せる予定だったけど見てなさい」
と王女は言うと近くの何もない空間めがけて手を伸ばす。いや、さっきまでは何もなかった空間というのが正解だ。
「これが収納魔法、魔力を使って別の空間にものを収納できるの。あまり大きなものを入れることはできないのだけど便利な魔法よ」
そう言うとなにやら布団らしいものと枕を取り出した。洞窟に似合わぬ豪華な布が敷かれる。3人は軽く寝られそうな大きさの布団だ。
「気にしなくていいわよ、帰れたら新しいものを買ってもらうから。私はこれじゃないと寝つきが悪いから外に出るときは常に持っているの。今は好きに使って。もちろん私が寝るスペースには入ってこないでね」
そう言って王女は横になった。少女と同じ布団で寝ることに抵抗はあったが硬い地面で寝るのは御免なので横になった。
横になったと思った瞬間気づけば朝だった。どういうことだ?そんな混乱をしている俺を王女がニヤニヤしているのを見て察した。この布団の寝心地が良すぎたのだ。ここ2日ほど劣悪な環境で寝ていたこともあるだろうがそれを差し引いてもこの魅力に耐えれたかどうかわからない。ともかく、寝床の問題は思わぬ形で解決することとなった。
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