第2話 魔の森

時間はさかのぼること6時間程、私たちは魔物に追われていた。魔物の対処だけならどうにかならないこともないが、姫様の護衛も同時にとなると困難を極める。迫りくる魔物達の対処と逃走を休む間もなく繰り返し続けた結果心身ともに疲れ果てていた。このままではいずれ倒れてしまうだろう。どうするべきか考える間もなくただただ安全を求めて逃げ続けてた。一人、また一人と仲間の騎士達はやられていき、最後残ったのは私と姫様だけだった。

いつからだろうか、魔物が追ってこなくなっていた。久しぶりの休息に安堵し、一気に疲れが襲ってくる。眠気に抗うことができず泥のように眠ってしまった。


「・・ッド、デビッド、起きて」


姫様の声が遠くから聞こえてきたような気がし、はっと目を覚ます。私は寝起きはゆっくりしたい方だが現状を思い出し、すぐに戦闘できるように構え、周囲を確認した後呼びかけに答える。


「姫様、申し訳ありません。このような時に隙を見せるようなことはあってはならないというのに。この罰は王都に戻り次第受けますのでご容赦ください」


姫様は今はそんなことを言ってる場合じゃないだろうと言いたげだったが


「何度呼びかけても起きないので心配したのですよ。あなたがここで目覚めなかったらはその時は私は覚悟を決める予定でした。あなたも覚悟をもって私を守りなさい。」


と厳しい言葉をかけた。

「はっ」と返事をし、すぐに自分の置かれている立場と現状を確認した。それにしてもここはどこだろうか。逃げているうちに方向感覚を失ったため具体的な場所はわからない。しかし、魔物が追ってきていないことを考えるとここは魔の森と考えることが自然になる。


魔の森とはこの大陸の北側に広がる大森林だ。一応我が国の領土の中に含まれる場所もあるが基本的には全く管理されていない土地である。理由としてはとにかく住み着いている魔物が強力だからである。並の兵士では複数人で相手しても勝てないような魔物がゴロゴロしている。さっきまで終われていた魔物などとは比較にならないほどの強さである。当然私も襲われれば勝てないだろう。おそらく私たちを追ってきた魔物は森から出てこないように見張っているだろう。要するに詰んでいる状態ということになるが簡単に諦めるわけにはいかない。私は国王陛下に何があっても姫様を守るようにとの命令を受けて護衛をしている。本当に諦めるのは最後の最後だ。いや、諦めることなどあってはいけない。


「姫様、この辺りで森の外を目指したとしても魔物達の待ち伏せに会うだけだと思います。一度森の奥へと向かい森の中で死んだと判断させ、遠くから出る場所を探るしかないでしょう」


「わかりました。あなたの判断に従いましょう」


そうして森の奥へと進んでいくことにした。方向感覚は失っていたがなんとなくどちらが森の奥なのかは雰囲気でわかる。進んでいくに従い、不気味な気配が強まっていく。


30分程進んだだろうか、なるべく気配の少ない場所を選んできたつもりだったがついに魔物と遭遇してしまう。巨大な蛇のような魔物だ。全長10メートルはあろうかという巨体を素早く動かし、こちらへ迫ってくる。


「姫様、下がってください」


素早く戦闘態勢を取り、魔物の攻撃へと備える。魔物は大きな口を開け鋭い牙を突き刺そうとする。当然こんな攻撃を受けてしまえば一撃で終わりなため、回避行動をとる。しかし、完全にはかわすことができず鎧に傷が入る。間一髪と思ったのも束の間、傷が広がっていき鎧はボロボロになっていた。牙から出る毒のせいだろうか、この魔物の前では防具など無いに等しいということだ。


魔の森は奥に行けば行くほど凶悪な魔物が出る。今いる場所がどのあたりかはっきりとはしないがまだそんなに奥までは進んではいないはずだがこの強さである。全く名前負けなどしていない、むしろ名前が負けている程だ。

魔物の攻撃は何とかかわしているがこちらから攻撃をする余裕なんてなく、例え攻撃できる機会があったとしても攻撃は通らないだろう。そう感じさせるほどに重く、鋭い一撃を繰り出してくるのた。


もうここまでか、と思った時遠くから別の魔物の鳴き声が聞こえてきた。そして、狼のような魔物は蛇の魔物に向かって噛みついていた。狼の魔物はどうやらこの蛇を獲物としたらしい。そして、見事な連携で蛇をかく乱する。蛇は突然の襲撃で戸惑いはしたが狼へ反撃を開始した。


蛇の意識がこちらから外れたのを見逃さず、撤退を選択した。姫様を連れて戦闘が行われている場所からできるだけ離れた。どちらが勝ったとしても次に狙われるのは自明だからだ。


(たまたま運が良かっただけだ。次に何かしらの魔物と出会ってしまえば本当に終わりだ。)


なんとか逃げ切れたものの、状況は悪くなるばかりだ。手持ちの食料もほとんど残っていなく、いつ魔物に襲われるともわからない恐怖が付きまとっている、姫様の護衛という役目がなければとっくに発狂していただろう。姫様はよくこの状況で冷静でいられるなと内心思いながら再び足を進めた。


しばらく歩いていたが、どうにも調子が悪い。良くなる気配はなくどんどん悪化している。これ以上悪化するのはまずいと思い、姫様に休憩を打診し、体の異常を調べることにした。


どうやら、戦闘中に魔物の攻撃が掠っていたようだ。掠ったと思われる部分はひどく腫れていて熱くなっている。今日はこれ以上動けないと判断しここで休むことにした。


しかし、弱っている生き物を放置してくれるほどこの森は甘くない。先ほどとは別個体に見えるが同じ種の蛇が毒の香りを嗅ぎつけたのか近づいてきた。私は死を覚悟し、姫様に最後のお願いをした。


「姫様、私はもう動けません。ここでおとりになりますので私を置いて逃げてください」


逃げた先で丸腰の少女が助かるわけがないということはわかっていたが他にどうすることもできないのも事実である。

姫様は「そうですか」とだけ言うとこの場から離れていった。去り際の姫様の表情は何とも寂しげだった。私に力があればこのような事態にならなかった・・・後悔してもしきれないが今更である。


ふらふらする体に鞭打って魔物相手に虚勢を張って見せるがそんなことはお構いなく襲い掛かってくる。少しでも時間は稼げたであろうか、果たして姫様は無事でいられるだろうか。そんなことを考えているうちに目の前まで魔物が迫っていた。私は最後まで戦おうとはしたが抵抗らしい抵抗もできずすぐに魔物に食べられ息絶えた。

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