無双ゲームのモブ雑魚だった俺、ぶっ飛ばされ続け鋼の肉体を手に入れる。 結局主人公には勝てなかったがぶっ飛ばされた先がなぜか異世界だったので攻撃無効の身体で無双しちゃいます。
takaoka
第1話 未知の世界
(これで今日も終わりか)
俺に向かって斬撃が飛ばされる。斬撃は俺含め複数のモブに命中し、遠くへ飛ばされた。
ここは無双ゲーム「将軍Ⅱ」の世界で俺はその中のモブキャラだ。モブキャラである俺は当然このゲームの主人公にぶっ飛ばされるだけの存在だ。強烈な一撃を毎日のように受け続けた結果鍛えられ、気づけばダメージを受けない鋼の肉体を手に入れていた。ダメージを受けないことに気付き嬉しく感じたのも束の間、すぐに現実という名の絶望が襲い来る。ダメージを受けないといつまでも戦闘を終えることができないのだ。当然ぶっ飛ばされ続けることになるため、仕方なくやられたふりをすることにした。
いくらダメージを受けないとはいえ無双ゲームの世界のモブにはどうやっても勝ち目など最初からなかったのだ。
そんなある日のこと、今日もぶっ飛ばされて終わりかぁ、と考えながらぶっ飛ばされるといつもと違う地面の感触を感じた。いつもであれば待機場所と呼ばれる場所に飛ばされ、次の戦が始まるまで待機する場所に飛ばされるはずだがどういうわけか違う場所に飛ばされたようだ。
「ここは・・・?」
混乱で他に言葉が、思考が追いつかない。周りを見渡してみるが人影は見当たらない。
30秒ほどたっただろうか、落ち着きを取り戻し現状について考察する。
(ざっと見た感じでは今までいた世界とは全く違うように見えるな、新たな戦の場とも考えられるが俺が一人でいるということからその線も薄い。)
「ひとまず周囲の探索を行うか」
現在いる場所は森の中だ。どのあたりなのかはわからないが周囲から得られる情報は生い茂る木々と草木のざわめき、時折聞こえる虫や獣と思われる鳴き声だけだ。
このような場所に急に放り出された形となったが不思議と恐怖はない。それよりも閉ざされた世界から解放され思うがままに行動できることへの感動が勝っていた。とはいえ現状の所持品と言えば手持ちの剣だけだ。食料と寝泊りする場所の確保は急務である。
しばらく周囲を探索すると食べれそうな木の実を見つけた。この状況になってからの初めての食べ物を見つけた喜び、好奇心から一瞬周囲への警戒が疎かになる。森の獣がそれを見逃すはずもなく背後と右側から同時に襲い掛かってきた。
「しまっ・・」
そう言い切る前にもう目と鼻の先まで獣は迫っていた。狼のような獣は顎を大きく開き鋭い牙を腕と脇腹めがけて突き刺・・したと思っていた。現実は牙が頑丈な皮膚を突き刺せず中途半端に口が開いている。獣は何が起きたか一瞬分からなかったが全力で嚙みちぎろうと必死になっていた。
(なんだ?この辺の狼は大したことないのか?)
気づけば狼は噛みちぎることを諦め、距離を取り出した。噛みつく場所が悪かったと思ったのかどこを狙うべきか考えているようだ。数瞬の後今度は顔面目掛けて飛びかかってきた。しかし、来るとわかっていればこの程度の速さでは対処は容易い。狼の攻撃に合わせ片腕を出し、わざと噛ませる。
その隙にもう片方の腕で頭をめがけて攻撃する。たまらず1匹が腕からずり落ち地面に転がった。
(こちらからの攻撃は普通に効くんだな。)
攻撃を当てた狼が動けなくなったことを確認した後残りもさっさと狩るかと思ったが気づけばどこかへ逃げてしまったようだ。
最初の目的である木の実のことを思い出し、一つ口に入れた。とても酸っぱく渋みもあったが食べれないほどではなかった。持てるだけの木の実と狼の死体を担ぎながら寝泊りできる場所を探した。幸いにも雨風を凌げる洞窟をすぐに発見するが先客がいた。
熊のような獣はこちらに気付くとすぐに向かってきた。体当たりを受け止めようと思ったが2メートルを優に超える巨体を受け止めきれずに飛ばされる。衝突による衝撃は大したことはないが体当たりの度に吹き飛ばされるのは厄介だ。
(そういえばここに来る前もこんな感じで飛ばされてたか)
少し前までの当たり前に懐かしさを感じていたがすぐに熊へと注意を戻す。今までは飛ばされたらそこで終わりだったがここではどちらかが倒れるまで終わらないからだ。
「さて、飛ばされた後の戦闘についても考えていかないとな」
そうつぶやくと同時に次の体当たりへ備え剣を構えた。熊側は先ほどの攻撃に若干の違和感はあったものの有効な攻撃と判断したようで再び体当たりを行ってきた。
2度目の体当たりはギリギリでかわし、勢いをつけられないように近距離で戦うことを選択した。熊の鋭い爪が襲い掛かるが攻撃は弾かれる。しかし、攻撃による衝撃が全身を伝う。狼との戦闘、先程の体当たりから薄々感じていたが獣からの攻撃でこちらが傷つくことはない。しかし、衝撃までは無効にできないため攻撃を受け続けている間はこちらも有効打が難しくなるということだ。
幸いなことに体が動かなくなる程の攻撃ではなかったのですぐさま反撃を開始した。剣を熊の腕めがけて振る。熊は反撃されると思っておらずに反応が遅れ剣が骨まで達した。斬り落とすまではいかなかったが少なくともしばらくは腕が使えないだろう。
痛みによる恐怖からか、もう一度体当たりをするためか距離を取ろうとする熊。しかしそれを許すほど俺は甘くない。胴体に向けて剣を振り、見事に一撃で仕留めた。
(今の俺ができること、できないことがなんとなくわかっただけでも収穫だな)
この世界での戦いに手ごたえを感じたことを嬉しく思い、獣の肉と木の実をほおばる。程なく眠気が襲ってきた。慣れない世界での行動は想像以上に消耗するようだ。次の日に疲れを残さないよう日が暮れる前に横になった。
「うーん・・・」
目が覚めたときには既に外はかなり明るくなっていた。少なくとも半日は寝ていたようだが体のあちこちが痛い。戦闘によるものではなく単純に何もない場所で寝ていたためだ。寝床を確保したとはいえ、昨日までは熊が使っていた場所のため快適さからはかけ離れている。寝床の改善も早めにしないと身体を壊してしまうかもなと思ったがそれよりものどが渇く。昨日からからまともに飲んだ水分と言えば木の実の果汁くらいだ。
水を求め、川を探すために探索を始めた。川まではさほど距離はなく途中まで獣に遭遇することもなかった。倒した熊の縄張りだったのだろうか?それはそれで助かるので嬉しいのだが。
水の補給を終え残る課題である床に敷く布団代わりのものを調達しに行った。中々適当なものが見つからず、つい洞窟から離れた場所まで足を踏み入れてしまう。すると聞き覚えのある鳴き声がどこからともなく聞こえてきた。
(囲まれてる。数は15匹といったところか)
昨日逃した狼とその群れといったところだろう。ここで出会ったのは偶然の可能性はあるがいずれは衝突は避けられない存在だ。ならここで倒してしまった方がいいだろう。
戦闘はすぐに始まった。速さに勝る狼達が四方八方から襲い掛かる。昨日とは違い連携の取れた攻撃でこちらに反撃を中々させてはくれない。かなり警戒されているようだ。昨日1匹逃してしまったことはミスだったと反省しつつ攻撃を防ぐ。
狼側は連携の取れた攻撃で攻め続けているが攻撃が効いている様子がないことに段々と苛立ってきている。厳密には苛立ち始めている個体が出てきている。最初は完璧ともいえる連携が徐々に乱れだしていた。この狼達の群れは1個体毎の強さは突出していないとはいえ群れの強さとしてはこの森の中ではかなり上位になるため、今までこの連携の前に立ち続けていられることを経験したことがないからだ。
連携の乱れから隙を見つけ、飛びかかってきた1匹に対して剣を突きだし、見事に捕らえる。同じような感じで5匹ほど倒すとこのままでは無駄と判断したのだろう。群れのボスと思われる個体が合図のような遠吠えを行うと攻撃がぴたりと止まる。ボスらしき個体はこちらに目をやり、もうお前とは関わらんと言わんばかりににらみつけた後群れの仲間と共にどこか遠くへと去っていった。
狼達が去っていったのを確認した後倒れた狼を見る。戦闘中は気づかなかったが戦闘中に我慢ができずに連携を乱した個体がほとんどだった。
(自業自得・・・とまでは言わないがもう少し我慢が必要だったかもな。)
と静かになった森の中で感傷に浸っていたが、本来の目的を思い出し探索を再開した。洞窟から離れている場所なだけあって少し生えている植物が違うようだが、思ったような葉は見つからない。このあたりの植物の葉はそれほど大きいものはなく、せいぜい掌サイズといったところだからだ。
今日もあの硬い場所で寝ることになるのかとため息をつき、倒した狼の1匹を担いで洞窟へと戻ることにした。
洞窟へ帰宅後暗くなるまで時間があったので倒した魔物について調べてみることにした。狼や熊と思っていた獣だったがどうやら何か違和感がある。うまくは言えないが似て非なるものという感じだ。
「俺の知ってる狼や熊とは何かが違う。これ食べても大丈夫だったんかなぁ」
心配はしてみたが他に食べれるものもないので意味のないことをつぶやく。今のところ問題は出ていないがこの状態が長期的に続いた場合どうなるかわからない。先の見えないことに対する不安が襲ってきたためさっさと食事を済ませ、寝ることにした。
夜が更けてきた頃だろうか、静まり返った森に似合わぬ音が聞こえてきたため目が覚める。しかし、かなり距離が離れているようだ。確認に行きたいという思いはあったが夜の慣れない土地での行動は危険すぎる。音がこちらへ向かってきていないことを確認すると今は休むことが優先と判断し再び瞼を閉じた。
翌朝、夜が明けた辺りで目が覚めた。昨夜のことが気になったからだろうか。周囲に異常がないことを確認した後今後について考える。
昨日の音が鳴った方向へ向かうかどうかだ。音としては人為的なように聞こえたがあまり穏やかな様子ではなかった。人に会えるのであれば当然嬉しいが厄介ごととなると話は変わる。とはいえ、人がこの近くにいるのか確認はしておきたかった。
「ばれないように近づいて厄介ごとに感じたら離れればいいか」
現状が続くことはあまり思わしくないため、一先ず向かってみることにした。後にこの判断が世界を揺るがすことになるとはまだ誰も知らない。
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