お母さんが帰ってくる前に

@ZnZn

第1話


今日は私の13歳の誕生日、だけど祝ってくれる人などいる訳も無く、今日も母の為に台所に立ち食事を作る。

家の中はゴミが散乱し、カビの匂いがツンと鼻につく、そんな中、母は相変わらずリビングでお酒を飲んでいる。

今は静かに酔いしれているが、無闇に刺激すれば大声で叫んだりひどい時はそこらの物を壊して暴れたり、、、


でもお母さんはそれ程に苦しんでいるんだ仕方がない。


私は床に散らばった酒瓶を足でかき分けながら鍋をテーブルへと運ぶ、


「お母さんご飯ができたよ」


お母さんはうつむいたまま動かない、

「お母さん?」


私はそっと母の頭に触れようとした。

その時だった急に腕を掴まれ、右頬をただからた。


床に倒れ込む私をお母さんは胸ぐらを掴みさらに叩いた。

唇からじんわりと血の味がする。


「あの男に似て醜い子、お前さえいなければ!!」

「御免なさい、御免なさい」




ああ、苦しい、痛い、でもお母さんはもっと苦しんでいるんだ。

だから私は、、、苦しくない。



私が小さい頃、お父さんは愛人と共に姿を消した。

私とお母さんを置いて、悪いのは全部お父さんだ、何もかもがお父さんなんだ。


だから私は苦しくない・・・。



〜〜



朝、お母さんは仕事に出かける。

スリットの入った肩出しのドレスに厚化粧をして、何の仕事かはわからない、けど、仕事から帰ってくる度に痩せていくお母さん、辛い仕事、きっと私のために働いてくれている。


早く部屋を片付けなきゃ、お母さんが帰ってくる前に、

床に散らばったゴミを拾っていると外から楽しげな笑い声が聞こえてくる。

私がカーテンの隙間からそっと外を覗いてみると、学校通いの子供達が楽しげにおしゃべりをしていた。


胸ががざわついた。

私の知らない眩しくて、暖かいものがそこにはあった。

でも羨ましくなんてない、絶対に。



あれ?押入れの戸が少し空いてる?誰も使っていないはずなのに、

お母さんが何か入れたのだろうか?

中を覗いてみるとそこには沢山のプレゼント箱が置いてあった。

そしてその全てに、お父さんお名前と私へのメッセージが書かれていた。


「誕生日おめでとう、、、こっちの箱は入学祝い?どれも私宛だ・・・5年前の日付の物もある。宛先は変わってない、どういう事?お父さんは行方知れずのはずじゃ・・・・・」



騙されてた?いやいやそんハズはない、嗚呼頭が痛い、気持ち悪い、混乱でグルグルする。

絶対にそんなわけないって分かってるのに、心のどこかで疑っている自分がいる。


「そうだ探さなきゃ、お母さんは私を騙してないという証拠を!」


私は戸棚をひっくり返し、中にある大量の書類を漁った。

どれもこれも難しい文字が羅列されていて、よくわからない、もっとわかるものを探さないと!!


私はお母さんの部屋を漁った。

ベットのシーツを剥ぎ取り、クローゼットの服を引っ張り出した。

そして出てきたのは、何百枚という知らない男とキスをするお母さんの写真、

そしてお父さんからお母さんに対する不貞の文書、



「ああ、嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼あああ!!!!!」


私は叫んだ、顔は涙でグチャグチャに乱れ、心臓はいまにも破裂しそうな程の爆音を上げ全身を震わせる。





あれから何時経っただろうか?体力はそこをつき、起き上がることもできない、

私は今まで何の為に耐えてきたのだろうか?得られるはずの無い母の愛を求めて・・・。


私は最近まで忘れていた自分の名前を思い出した。

ああ、そうだ私の名前は「アイ」だ・・・愛って何だろう?嘘をつく事がどうしてダメなの?

そもそもそれすら分かっていないのにどうしてお母さんから愛をもらえていないと言い切れるのだろうか?


私は頬にそっと手を置いた。

そうだ、お母さんは私に愛を与えていたん、そうに違いない。

嬉しい気持ちで体が軽くなったのを感じる。


疑ってごめんなさいお母さん、私もお母さんに愛を返すね。


そうと決まれば包丁を研いでおかなきゃ♪

お母さんが帰ってくる前に



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