第14話 使徒

 「【ラ・イヴィルガーラ】」


 術式が発動すると、俺の体はみるみるうちに電気に纏われていく。


 俺の体にまとわりつく電機は次第に、羽のような形を作り、頭を覆うように形が形成されていく。


 「い、イジィ……それは……」

 「あ、あなたのそれは何ですか……凄まじい神力に満ちている……これは、大罪にすら匹敵する……」

 「物凄い力だ……いったいイジィたちは何者なのだ?」


 俺の術式に、口々に感想を言う。神力というものがどんなものかは理解できないが、邪神の言葉から今の俺が大罪に匹敵することは明白だ。


 「雷の法者を改め―――」


 これが、俺の契約の力。星を貫く力。


 「【雷神の使徒】柴雷英司 降臨……満を持して」

 「舐めやがってえええええええ!」

 「お、遂にあの気持ち悪い話し方を止めたか?」

 「うるさい!私は、お前なんかより、人間なんかより優秀なんだあああ!」


 これで終わりにする。


 今日は色々あった。昨日に美穂を攫って、朝一で冒険者になって依頼を受けて、剣聖と知り合って邪神と対峙して


 知りたくなかった事実まで知ってしまった。あの子供の両親にも謝りにいかなければ。俺達はあの子供を助けることが出来なかったのだから。


 「邪術【絞首酸液こうしゅさんえき】」

 「雷術【雷盾らいじゅん】」


 邪神が、なにか怪しい液体を吹きかけてくるが、雷の盾でガードする。


 「馬鹿な……電気は個体などの様に質量を持っていないから、攻撃は透過するはずなのに!」

 「非常識の塊が、物理を語ってんじゃねえ!雷術【雷槍らいそう】」


 手を胸の前で構えると、雷が槍の形を形成していく。それを、邪神に全力で射出する。


 でもまだだ。まだ、足りない。


 「てめえらがやってきたこと。今までに比べれば、なんてことねえよなあ!だから、もっともっといくぜ!」

 「わたしたちは、まだこの世界での本格的な活動はしていないはずだ。それなのになぜ我々にそこまで牙をむく?」

 「前の世界で散々やってくれただろう?」

 「前の世界……法者……まさかお前っ!?」


 邪神は、なにかを察したかのように叫び始める。


 「貴様が……貴様たちがいなければ私たちは、目的を達成していた!新たな進化を手に入れるために。なのに、なぜおまえたちは邪魔ばかりするんだ!」

 「前の世界での鬱憤。それは確かにあるし、今の戦う動機でもある。でもな、この世界で本格的な活動をしていないと言ったな?

 本格的じゃなくてもしてるんだ。なら、俺は戦う。【使徒】として!」


 これで、邪神そのものを吹き飛ばす。


 「雷術奥義【神殺かみしに】」


 術式の発動によって、渦津霊刀の刀身が大幅に伸びる。


 それを横薙ぎに斬ることで、邪神の魂ごと斬り伏せる。


 「ぐああああああ!わ、私の魂が……形を保てない……この私が……この私が滅びるなんてええ!」


 その断末魔とともに邪神の姿が消える。


 「お、終わったのか?」

 「…………」

 「おい、ミィ。イジィの様子がおかしくないか?」

 「…………」

 「ほ、本当だ。おい、どうしたんだ?あ、ラーシャ、肩を貸すぞ」

 「このタイミングでか?―――とりあえずありがとう」


 ミィは、ラーシャの無くなった右足を痛々しそうに見つめる。

 そんな視線に気づいたのか、ラーシャは心配ないとばかりに言う。


 「大丈夫だ。義足をつければ、前ほどとは言わないが、いくばか戦えるようになるだろ?」

 「しかし、前のように動けないのでは……」

 「そうだな。【剣聖】の二つ名は返上かな?」

 「ラーシャ……」

 「にしても、イジィはどうしたんだ?」


 イジィは、戦いが終わった後、なにも言わないまま硬直したままだ。

 その様は、とても不気味だ。


 「うぅ……」

 「イジィ、目が覚めたか?」

 「ウガアアアアアアアア!」

 「「イジィ!?」」


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 「ここは……」


 俺は、邪神を倒した後、気を失った。


 恐ろしいことに、目が覚めると全く知らない場所にいた。


 周りを見渡すと、青い空に高い建物の集合地帯。そして、あたりに“車”が走っている。


 俺は、この世界を知っている。


 ここは、新日本の前の旧日本の景色。写真でしか見たことがないが、なんとなくわかる。


 ここは、昔の日本だ。


 「うえ~~ん」


 人混みの中で、子供が泣いている。

 俺は、それを見つけると、すかさず声を掛ける。


 「どうしたんだ?」

 「ぐす……パパとママの場所が分かんなっくなっちゃった……」

 「迷子か……」


 どうしよう……どうすればいいんだ?俺の世界じゃ、ギルドに渡せばそのうち見つかった。でも、ここは旧日本。どうすればいいのか……


 そうだ!旧日本は【コウバン】というものがあったと歴史で習ったぞ!


 「じゃあ、お兄ちゃんと交番に行こうか?」

 「ぐず……交番、どこ……」


 さあ~、どこだろうね~?


 そうか、コウバンの場所が分からないから迷子なんだ。なら―――


 「じゃあ、お兄ちゃんと一緒にパパとママを探しに行こうか?」

 「……うん……」


 それから、しばらくすると、その子のママと思われる人物に遭遇した。


 「美咲ー、どこにいるのー!」

 「あ、ママだ!」

 「よかったな。見つかったな……」


 俺は、見つかってくれて内心ほっとしている。すぐぐずるし、歩くの疲れたとかほざくし。もう、子供はこりごりだ。


 「ママー!」

 「美咲!どこ行ってたの!」

 「ごめんなさい……」


 その子―――美咲と言われた子の母親は、妊娠しているのかお腹が大きくなっていた。

 しかし、それ以上に驚くことがあった。それは、その母親がこちらを見てから判明した。


 「あれ?そちらの方は?」

 「お兄ちゃんがね、ここまで連れてきてくれたの!」

 「それは、ありがとうございました。うちの娘が迷惑を掛けなかったでしょうか?」

 「美穂……?」

 「私、名前言いましたっけ?あれ、それともどこかで会ったことあります?すいません、思い出せなくて」


 そう。母親の顔が、美穂そっくりだったのだ。しかも、名前も美穂というらしい。


 これは、偶然なのか?


 「あの苗字は、亜希永と言いませんか?」

 「なぜ、私の旧姓を?」

 「旧姓?」

 「そうです。今は結婚して苗字は違います。」

 「失礼ですが、お名前は?」

 「美穂。柴雷美穂です。娘を助けてくださりありがとうございました」

 「えーと、旦那さんのお名前は聞いても良いですか?」

 「柴雷英司」


 俺は混乱した。知らない世界に放り投げられて、そこで会った美穂が、前の俺と結婚していて……?


 訳わかんねえ


 「美穂ー、美咲は見つかったか?」

 「ああ、この人が見つけてくれたみたいだ」

 「ああ、そうか。この度はありがとうございます」

 「まんま俺じゃん……」

 「はい?」


 おっとあぶねえ。つい心の中の声が……


 「美咲ちゃん、パパとママは優しいかい?」

 「うん!パパもママも大好き!」

 「そうか。いつまでもその気持ちを忘れちゃいけないぞ。」

 「なんでー?」

 「その気持ちを忘れた時、次にそれを取り戻すのは、失ってからだからだ」

 「うしなう?」

 「パパとママが死んだら悲しいだろ?」

 「うん……」

 「だから、いつまでもパパとママを大好きでいるんだぞ」

 「わかった。パパとママ、嫌いにならないよ!」

 「いい子だ」


 そう言って、頭を撫でてやると俺の体に異変が訪れる。


 「お兄ちゃん、パパとおんなじ撫で方♪」

 「お、おいあんた、体中が光始めたぞ」

 「ん?ああ、多分強制送還かな?」

 「は?」

 「英司、お前幸せか?」

 「は?まあ、これ以上ないくらいに幸せだが?」

 「じゃあ、その幸せを死ぬ気で守りきれよ」

 「お、おい何言っ―――」


 ―――てるんだ。


 その言葉が、俺に最後まで届くことは無かった。

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渦津悪魔【マガツノアクマ】 波多見錘 @hatamisui

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