第13話 【ラ・イヴィルガーラ】

 科学の邪神

 奴は、前の世界で数々の人間を攫い。実験をしていた。しかし、その実験内容は判明していない。

 シーアが単騎で、攫われた人たちの救出に行った際に、研究所は爆発して、資料が全て爆散したからだ。


 その後、俺達が研究内容を言及する前に、法者と抗者の連合隊によって討伐された。そんなときに何をしていたのかなんて聞く暇がなかった。

 結局、科学の邪神が何をしていたのかは、わからずじまいだった。

 だが、今回のことでなんとなくわかった気がする。


 俺は、最初に質問する。


 「教えろ。なぜ、子供を魔神に変えた」

 「お、おい……なにを言ってるんだ、イジィ」


 考えてみればおかしかったんだ。


 邪神と違って、魔神は無尽蔵に湧いてきていた。それこそ、毎日討伐しても終わりが見えないくらいに。

 それに、先ほど遭遇した魔神。奴らは俺たちが戦ってきた人型の魔神のような知性を感じなかった。


 仮に、邪神が魔神を0から生み出せるのなら、獣型をわざわざ人型の知能より下げる必要もない。なのに、奴らは獣レベルの知能だった。


 だが、既存の生命を魔神に変えているのなら、先ほどの魔神の知能が低いのは納得だ。


 「それを知ってどうする?」

 「聞きたいだけだ。俺達は、魔神を殺すと同時に、人を殺していたのではないのか?と」

 「まあ、冥土の土産にでも教えてやる。魔神とは、我々邪神が生命体の欲望を増幅させることで生まれる、偶然の産物だ」

 「偶然……?」

 「おっと、これ以上は王に罰を受けてしまう」

 「王……」


 もしかして、デストは生きている?いや、確かにあの時殺したはず。


 いや、そんなことはどうでもいい。奴の話が本当だとするのなら、前の世界での行方不明者はかなり多くの割合で、魔神になっていた可能性が高い。


 そして、それを俺達はたくさん討伐―――殺してきた。


 あの断末魔は、いやがらせでも何でもなくて、ただの本物?

 そうだとするのなら、心に来るものがある。事実、ミィ―――美穂にも影響が出ている。


 彼女は、シーアが殺された後、とんでもない数の魔神を殺し続けた。でも、それが守るべき人間だったと知れば……


 「ミィ」

 「イジィ……どうしよう。わ……私は何人もの人をこの手で……」

 「落ち着け!おい、聞かせてくれ!魔神になるっていうのは生物的にどういう状態なんだ?」

 「魂を引き抜かれた状態だから、残留思念。もしくは抜け殻?と言うべきかな?」

 「つまり、死んでいると?」

 「おお、それだ!長らく死という概念に直面していないから、すっかり言葉が出てこなかった」


 舐めやがって……


 まあ、こいつの話をまとめると、魔神になった人間はすでに死んでいる状態。なら、俺達はゾンビを殺していたというわけか。


 「ミィ、聞いていたか?魔神たちは実質生きていない」

 「だからなんだ!それでも、私は多くの人間を斬ってきたんだぞ!」

 「死んでも尚、邪神に利用されるくらいなら、俺達が最後の手を下す。それも俺たちの役目にはならないのか?」

 「だが、私たちは……」

 「いつまでも、過去に殺したものばっかり見てるんじゃねえ!もっと、誰かを救う自分を想像して見せろ!」


 うじうじしている美穂は見たくない。いや、これから元人間だからと魔神を殺せないのはマジで困る。


 「ミィ、忘れるな。殺すこともまた救い。その者の命が救えないのなら、魂を救え。せめてそいつが浮かばれるように、邪神を殺すんだ!」

 「イジィ……」

 「ミィ、イジィ……お前たちは一体……」


 ひとまず、これで最悪の状態は防げるだろう。後は、美穂のアフターケアをするだけだ。


 「さっきから、私を殺すこと前提で話しているみたいですが、人間程度では私を殺すことはできませんよ」

 「いや、殺すさ。俺が――――いや、俺達がお前達を殺すためにどれだけの研鑽を積んできたか。そもそも、大罪ですらないお前は、まだ雑魚の方なんだよ」

 「貴様、なぜそれを!」

 「【雷速】」


 俺は、科学の邪神がなにかを言い切る前に、高速で拳を打ち抜いた。

 しかし、そこは邪神。ギリギリで受け止められてしまった。


 「ふぅ……すこし面食らいましたが、こんな騎士道も欠片もない戦い方など……」

 「知ってるか?騎士道ってのは、強い騎士の生き方なんだ。そういうのは全部、強さの上に成り立つ物なんだ。俺はまだ弱い。お前たち全員を殺しうる力を持っていない。だから、騎士道の無い俺の次の攻撃、わかるよな?」

 「戯言を……っ!?」


 俺は、無詠唱で術を発動する。


 法者の術は、名前を言うだけでいいが、名前を頭の中で唱えても、威力は数段下がるが、問題なく発動する。


 拡式【爆雷】


 全身から、放電を起こす術。今、奴は人間相手と油断をして、邪神としての装甲を張っていなかった。そんな状態だからこそ、こんな標的を絞り切らない弱い術でも、それなりのダメージが入る。


 「ぐっ……電気系の術だと!?こんなに範囲を絞らない雑な魔術。こんなのあったか?」

 「それなら、お前はその程度ってことだよ」

 「舐めるなああ!」


 邪神の咆哮とともに、部屋の中のものが次々に飛んでくる。


 「雷刀【渦津霊刀】」

 「くたばれえええ!」


 飛んでくるものの中に、当たったらまずいものがいくつかあったが、全て斬り伏せる。邪神王と対峙した俺だからわかる。今の俺なら、こいつと渡り合える。


 「ミィ、イジィは何者なんだ」

 「詳しくは言えない。でもこれだけは……あいつは、正義の味方だ」

 「正義の味方……」


 「クソ……なぜ一発も当たらない……」

 「もう弾切れか?なら、いくぞ!

 変速【雷分身】」


 俺は分身して、邪神をあらゆる方向から斬りつける。

 すると、目に見えてボロボロになった邪神が、再生を始める。


 今だ!


 「雷 変 雷 剛 掌 五雷式拳舞【剛雷万裂拳ごうらいばんれつけん】!」


 術を発動した瞬間、邪神を雷の万の掌が高速で襲い掛かる。


 しかも、攻撃を受けたところが、先ほどより目に見えてボロボロになっている。


 「ぐおおおお!」

 「流石に再生中の攻撃は応えるだろ?」

 「貴様、何故それを……」


 そう、邪神を倒す唯一の手段。それが再生中を狙う。これにより、邪神を倒す第一段階はクリアできる。

 問題は―――


 「出し惜しみしてくれるのなら、それはそれで倒しやすいからありがたいけど、どうせ出すでしょ?裏技」

 「そこまで知っているのか。なら、遠慮なんていらないよなあ!邪術【三途邪香炉さんずやこうろ】」


 邪神とは、集団でレイド戦の様に討伐するのが主流。なぜなら、犠牲が何十人も出るのが、前提だから。こいつらがソロで、討伐が不可能と言われた理由。それがこいつらの第二段階。


 初見殺しの術


 相手の術が発動すると、ピンク色の煙のようなものが、部屋中に充満する。

 瞬間、体に違和感が走る。


 「ラーシャ、あの煙を吸うな。死ぬことは無いかもしれないが、神経に異常をきたす。その場では動けなくなるし、後遺症が残るわで最悪だ」

 「わ、わかった。でも、なんでお前がそんなことを知っているんだ?」

 「そんなことは小さいことだ」

 「小さいことなのか?」


 そう、所謂これは邪術によって生成された、神経ガスのようなもの。吸えば、一瞬で行動不可になる。―――一般人ならば。


 腐っても、俺は法者。ただの人間ではない。

 このガスを無効化。とまではいかないが、効果の発動をある程度抑制することはできる。


 「ま、それでもあんまり長期化すると、不利だからな。こっちも奥の手出すぞ」

 「は?イジィ、雷の法者としての奥の手なんて……」

 「ちっちっち、ミィ、甘い。甘すぎる。俺もこの世界に来る前に、チート能力をもらったのさ」

 「そんな都合のいい物語の世界じゃないんだから!」


 いいや美穂。俺は本当に力を手に入れた。この契約の力があれば、邪神の単独討伐が可能なはずだ。





 「いくぞ。【ラ・イヴィルガーラ】」

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