第11話 初任務

 イジィ

 ランクC 依頼達成数0 所属パーティ該当なし


 ミィ

 ランクC 依頼達成数0 所属パーティ該当なし


 冒険者カードに書かれた情報はこれだけだ。なんか、活躍によっては二つ名もとい通り名みたいなのがつけ加えられるらしい。

 いらない機能が付いてるな。


 ちなみに、イジィは俺のこと、ミィは美穂のことだ。さすがに本名はギリ良いとしても、組み合わせがアウトだ。


 さっきの暇な時間に依頼を確認したが、もうすでに「ミホ=アールツノイツを攫ったエイジ=リックウェルの情報求」という依頼があった。

 それなのに、本名さらしたら確実にあの国の騎士が来る。


 「あんまり実入りの良い依頼はないな」

 「まあそりゃそうだろ。冒険者なんて聞こえがいいだけの日雇いのニートだろ?仕事がある方が凄いだろ?」

 「まあそれもそうだな。」

 「取り敢えず、愚直に依頼をこなしてランク上げるぞ。さすがにA級とかになってくると、特殊依頼とかで報酬が上がりそうだ。」

 「わかった。」


 というわけで、依頼書が張り出されている、「依頼版」なるものを見ているのだが―――


 「薬草採取、害虫駆除、食材調達……」

 「なんかパッとしないな……」

 「どうする?いや、何でもできそうだけど?今日の目的は、今日暮らすための資金を手に入れることだ。そんな難しいのを受ける必要ないぞ?」

 「―――これはどうだ?」

 「『息子の捜索依頼』?なんでまた……」


 いや、美穂のことだから人助けしたいとかか?別にいいんだけどさ。


 「達成までに時間がかからないか?」

 「よく見ろ、本来E級だった依頼が、難易度上昇でA級になっているんだ。」

 「あ、ホントだ。なになに……失踪場所は発覚済み。捜索対象も一応発見済み。―――救出困難のため、要戦闘要員の確保が必須条件。これなら、時間はかからないか?」

 「英司、私たち法者の役目はなんだ?」

 「人を助けること。助けたいのか?見ず知らずの子供を」

 「ああ」


 そういう事なら、やるか。俺も法者のはしくれだ。それくらいもやらないとな。


 「あの、この依頼を受けたいんですけど……」

 「これは、戦闘要員が必須の依頼ですよ。」


 あ、そうか。俺らって、実績が無いから戦闘要員としては数えられないのか。


 「多分、他の人よりは強いと思いますよ?」

 「それでも実績がないので無理です。」

 「ですよねー」

 「―――仕方ありません。依頼遂行は少し待ってください。もう少ししたら【剣聖】が来ると思います。」

 「え?その人同伴ならいいってことですか?」

 「そうですね。その人が動向を許可すればですがね。」


 対応が早いっすね、受付のお姉さん。柔軟というかなんというか……。こういうのって、頭硬くて「話にならない」と言いつつ強行していって、成功させて惚れるっていうのが、テンプレでは?


 そんなアホなことを考えながら美穂の元に戻る。


 「受けれたか?」

 「いや、助っ人?みたいな人が来るから、ちょっと待って、って。」

 「わかった。おそらく、実績もないのに戦闘要員には数えられないみたいなことを言われたんだろ?」

 「はー、聞いてたな?」

 「バレたか……」


 そう言いながら、ペロッと舌を出す姿は可愛いと思ってしまった。仕方ないだろう、好きなんだから。


 おそらく美穂は、次元の法者の術式で、聞いていたんだろう。空間を操る点においては、俺も知らないことが多いがな。


 しばらく待っていると、助っ人の人なのか、誰かが俺達のもとに近づいてきた。


 「君たちが捜索の依頼を受けようとしていた人たちでいいのか?」

 「ああ、そうだよ。じゃあ、あんたが【剣聖】なのか?」


 でもねえ、【剣聖】が―――


 「そうだ。私が【剣聖】ラーシャだ。よろしく頼む。」


 女なんて聞いてねえよ。


 しかもこいつ、出で立ち、髪の色、目つき、その他諸々を見ても、こいつは確実にメインヒロインだ。


 いや、なんの?とは思うけど、そうとしか言いようがない容姿をしてるんだよ。

 こいつは確実に、主人公パワーの前に惚れる、ハーレムメンバーの一人になる素質を持っている。

 この人の幸せを願うなら、ノアに出会わないことだな。


 「あんたがここに来たってことは、話はオッケーてことでいいんだな?」

 「ああ、行方不明の子供を放っておけるわけがないからな。」


 美穂と同じか。まあいい。その方がやりやすいかもしれない。


 「こちらの自己紹介がまだだったな。俺は、イジィ。そしてこっちが……」

 「ミィだ」

 「イジィに、ミィだな。二人共よろしく。」

 「ああ、よろしく。」

 「よろしく……」


 ひとまず、俺達の初任務は、なんの問題もなく始まりそうだ。


 「では、さっそく出発しよう。準備は出来てるな?」

 「出来てると思う。」

 「じゃあ、確認だ。まずは水。」


 はい、ありません。そうですね。人間水ないと死んじゃいますね。


 「ないですね。」

 「出来てないじゃないか?なら買いにいくぞ。ほら、ミィもいくぞ。」

 「あっ……」


 その後も、俺達は色々足りないと言われ、色々買い出しにいかされた。


 忘れてた。前の世界では、パーティの中で全部用意してくれる奴が必ず一人はいて、俺達が用意するのは、ほとんど武器だけだったのを。


 「まあ、これだけ買えばいいだろう。」

 「じゃあ、行きますか。」

 「そうだな。いくぞミィ。」

 「あ、ちょ……」


 ラーシャは、美穂が気に入ったのか、ずっとベタベタしてる。なにをしてるんだか……


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 捜索対象は、森の奥の廃棄された廃教会にいるらしい。


 その教会は、数十年前まである神を信奉していたらしいのだが、段々とその教会へのアクセスの悪さから、誰も来なくなったらしい。


 捜索対象の子供はそこにいるらしく、まだ生きていることも判明しているのだが、そこからが厄介で、中には通常より凶暴な魔物が住み着いているらしい。

 だから、依頼の等級が上げられたらしい。


 ちなみに、子供が行方不明になってから、もう3日ほど経つらしい。

 急がないとな。72時間の壁というものが、この世界にあるかは知らないが、これまでの感じだと、前の世界の昔の人間と同じだと思う。


 俺たちの代の人間と同じなんてことはまずないな。それはどうでもいいか。


 「にしても、不気味になったものだな。」

 「来たことあんのか?」

 「昔、一度だけ来たことがあったが、ここまでじゃなかったはずだ。」

 「ふーん……何年前?」


 そんな会話をしていると、俺はいくつかの気配が近づいているのに気付く。


 二人を見ると、美穂は気付いたみたいだが、ラーシャが気付いてない。

 本当に剣聖か?と思うが、今はどうでもいい。


 「ミィ、ラーシャ、先に行け。」

 「は?なにを言って……」

 「わかった。イジィ、頼むぞ」

 「すぐに追いつくから、二人で先走るなよ。近づいてくる気配、なにかがおかしい。」

 「イジィも気付いたか?この気配、魔神と似ている。」


 そう、なぜか魔神の気配が近づいてくる。それを抜きにしたら、ただの狼型の魔物なのにだ。


 おかしい。基本的に魔神は人型だったはずだ。


 「早く行け。すぐに片づけて追い付く。」

 「おい、ミィ。イジィが勝手なことを……」

 「今は、先に行くんだ。子供を助ける方が先決だ。」

 「……分かった。イジィ、死ぬなよ。」


 はあ、魔神の気配に驚いたでけで、俺は魔神なんかに後れは取らん。


 だが、気付くべきだった。魔神がなぜそこにいたのかを。



剣聖ファイル

ラーシャ

平民上がりのS級冒険者。国内の冒険者では、最高クラスの存在。自身の力に絶対的な自信を持っており、無意識のうちにパーティを引っ張ろうとしてしまい、なんどか解散を経験している。

理想の男性は、甲斐甲斐しく世話をしてくれる男性だ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る