逃亡のE/二人は冒険者

第10話 冒険者

 「お、お前はなにをしたか分かってるのか!?」

 「分かってる。だから、全力で逃げてるんだろ?」


 現在、俺は美穂に糾弾を受けていた。


 前回の話を見てから来ている人が多数だろうから、説明は要らないだろう。

 まあ、するとしても、美穂を攫った。この一言のみだ。


 あの日から、はや2日。俺達は国境付近には来たのだが、さすが勇者の婚約者を攫っただけはある。


 情報の伝達速度、そこからの包囲網の作成の速度が尋常じゃない。


 「国境の外に出たいけど、この仮面をつけたまま検問を突破するのは難しいかな……」

 「だから、なぜこんな無茶なことをしたんだ。私だって、お前と駆け落ちするための準備をしていたのに、全てがパーじゃないか!」

 「え、うっそ、まじ!?」

 「マジだ。さっさとあの男の性行為を終えたら、早々にお前と夜逃げするつもりだったんだ。」


 あ、そんな計画だったのか……。それじゃあ―――


 「それじゃあ、駄目だ。この作戦は決行して正解だった。」

 「は?なにを言っているんだ。こちらの方が絶対に安全に逃げられたはずだ。」

 「お前が、誰かと体を交えた時点で、俺としてはアウトだ。この世界でくらい、他の男に美穂の体を奪われたくなかったからな。」

 「は?この世界でくらい?」


 ん?とぼけてるのか?


 「知らないとでも思ったのか?ダドリーとシてるだろ?」

 「お、お前、まさかあの日のことを……」

 「聞いてたんだよ。でも、お前の気持ちもなんとなくわかった。だから、なにも言わなかった。でもな、あの日から、お前の顔を見るたびに、胸のどこかで締め付けられるような痛みがしていた。それでも一緒にいたかった。お前が好きだったから……」

 「そう……か。お前があの日元気がなかったのも……全部私のせいだったのか……」


 美穂もあの日のことを思い出したのか、少ししおらしくなる。別に責めるつもりもなければ、罵倒するつもりもない。

 でも、ちょっと胸が苦しい。


 「英司、聞いてくれ……」

 「言い訳は聞きたくない。別に、あの日のことを間違いとは思ってない。美穂は、あの時考えがあったんだろ?」

 「だから聞いてくれ!私は、ダドリーにも、他の男にも体を許したことは無い。ダドリーは危ないところまで行ったが、最後は押しのけたんだ。」

 「そう……なのか……?」


 え……?本当なのか?それが、本当なら、俺は何で苦しめられてたんだ?


 「言い訳にもなってしまうが、私は法者の唯一の女として、他の者の処理は、役目だと思ったんだ。」

 「あの時は、そうかもしれないと言ったけど、だけど―――」

 「だけど、今は違うって言える。この世界では、一人の男が一人を愛す。そこに、女としての役目だなんて考えない。中には政略婚で、望まない形もあるがな……」

 「流石、当事者は言う事が違うな。じゃあ美穂は、俺以外と体を重ねたことってないのか?」

 「そういう事になるな。」


 なんだよ。本当にただ、すれ違ってただけかよぉ~


 いや、美穂が嘘をついてる可能性とか言いたいんだろうけど、それはない。美穂はそんなつまらない嘘はつかないし、ましてや恋人だった俺に嘘はつかない。


 美穂って、ガサツだけど純情で素直ないい娘なんだよな。


 「それでどうするんだ?はっきり言って、掴まったら英司の死刑は免れないぞ。」

 「うっは、さすがナーロッパ。死刑の基準低いなあ。」

 「ナーロッパって、たしか2000年代初期に流行った―――」

 「2000年代初期に流行った、小説内の設定だな。まさに今みたいな世界。つまり、昔のヨーロッパみたいな世界のことだな。」

 「確かに、歴史で習ったヨーロッパとは、色々違うな。」

 「当たり前だろ?魔物なんて出てこないんだから。」


 でも、どうしよう。ユナにもらった仮面があると言っても、おそらく検問で外すことを強要される。


 まあ、強行突破しかなさそうではある。


 それか―――


 「飛ぶしかないか?」

 「まさか、あれを使うのか?上を見られたら終わりじゃないか?」

 「いや、今は夜だから、そんなに目立たないと思う。それに、全員検問でどちらかと言うと、下に目線が言っている。やるしかないんじゃないか?」

 「そう……だな。じゃあ、頼むぞ。」


 「【雷翼】」


 俺が少しだけかがむと、背中から漆黒の翼が、生えてくる。もちろん俺の翼だからな。全て電気などで構築されている。


 これのキモいところが、電気のくせにちゃんと質量、つまり実地があるのだ。


 俺は、飛翔できるようになると、美穂をお姫様抱っこをする。


 「きゃ……」

 「たまに出す、その可愛い声は何なんだよ。」

 「か、可愛いとか不意打ちで言うな!」


 そう言いながら、顔を真っ赤にする美穂は、なんと可愛いことか。


 「ちゃんと掴まってろよ。いくぞ!」


 そう言うと俺は、空を飛んで、国境を完全に超えた。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 翌日 明朝 5大国家外中立国家【アルザンブム】 ギルド本部前


 「痛っつ……背中いてえ……」

 「大丈夫か?」

 「まあ、これである程度の逃亡生活には困らないな。この中立国なら、俺は賞金首なだけ。顔を見られなければ、特に何の問題もない。」

 「なら、まずは冒険者登録して、なにかの依頼をこなして宿と食事の確保だな。」

 「そうだな。」


 ひとまず、俺達はギルドの中に入る。


 扉の中に入ると、受付の人たちがいた。まあ、またもやナーロッパ。いや、というよりも中世じみてるからか?


 受付の人、女性しかいなくね?


 「おはようございます。冒険者登録ですか?」

 「そうですね。お願いできますか?」

 「では、こちらにお越しください。」

 「あ、はい。」


 おいこら、美穂、なに黙ってるんだ。


 あ、そうか、美穂ってあんまり初対面と話すの得意じゃなかったな。あれ?弱点多くない?


 「では、冒険者登録は、お越しの2名でよろしいですか?」

 「はい」

 「当ギルドのシステムは、ご存じですか?」

 「いえ……」

 「端的に説明するならば、冒険者カードは身分証明書のようなものです。そう簡単に再発行は不能ですので、ご了承ください。

 当ギルドは、ランク制でランク帯によっては高ランクのクエスト、または低ランクのクエストを受けることはできなくなります。しかし、それは冒険者の命を守るためのシステムなのでご理解ください。

 もし、依頼の交換が判明した場合、特別なペナルティはありませんが、当ギルドからの信用がなくなるため、ギルドへの借金が不能になります。」

 「わかりました。」

 「では、冒険者カードの発行まで、あちらのお席でお待ちください。」


 そう促されると、俺達は指定された席に向かう。


 しばらくすると、さっきの受付の人がやってきて―――


 「こちらがお二方の冒険者カードになります。全員がCランクからのスタートになり、成功数が多いほどランクは上昇し、失敗数が多いほどランクは下降します。

 ランクの上限はSS級、下限はGランクです。

 では、あなたたちの活躍に当ギルドは、期待しております。ご武運を」


 そう言われて、渡されたカードを受け取る。


 こうして俺たちは、冒険者となった。


 そして、俺達を待ち受けるのは、次元の勇者とは違う、もう一人の勇者との出会いだった。

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