生徒会長はM/勇者の婚約者

第6話 生徒会長は……!?

 決闘騒ぎの次の日。俺とユナは、体面上授業に出席はしていた。


 俺としては、イーヴィルの片付けそこなった案件の処理をしたかったのだが、授業に出ないと進学が危ぶまれると言われたので、出ている。


 本当にイーヴィルは面倒なことを残してくれた。しかも、決闘の影響からか周りの目は恐怖に満ちたものばかりだった。


 「(ユナ、俺はこんな環境で生きていかないといけないのか?)」

 「(名誉挽回をしたいのならお好きにどうぞ。私は目的を達成できるのなら、協力します。)」

 「(全部イーヴィルのためだろ?少しは俺のことも助けて欲しいな。)」

 「(イヤです。)」


 ムカッ


 俺のお願いが一蹴されたことで、一瞬ストレスが溜まったが我慢する。


 もうこいつのイーヴィルに対する感情は病気だ。もう知らないっ!


 「はい、それじゃあ講義を始めるわよ。」


 教室の外から入ってきた女性は、おそらく先生なのだろう。その女性が講義を始める。

 内容は、この世界での一般教養、魔術などといったものが中心だ。


 法者としての能力がある俺にとっては、ある意味不要な知識だ。魔術が使えないという話ではなく、この世界の魔術は、汎用性が効きづらいからだ。

 古典ラノベなどでのよくあるものでは、敵を殺すほどの強力な電撃を、出力を弱めて気絶するだけのものに変える。といったことが頻繁に行われるが、この世界ではそううまくいかない。

 出力を変えるだけで、術名が変わり、詠唱も全く違ったものになるのだ。まあ、詠唱破棄という技術があるのだが、それをすると詠唱ではなく、魔力を組み替える方法がまるっきり変わるので、難易度はさほど変化しない。


 例えば、相手を気絶させるだけの電気系の魔術は【スタン・ボルト】で、詠唱は【善なる雷】の一節のみだが、相手を一撃で殺すことのできる電気系の魔術は【キリング・オルトロス・サンダー】というもので、詠唱は【悪辣なる 災厄の雷光 雲出づりし時 雷帝吠え 敵穿つ】の五節になる。これ以上に強力なものも多々あるが、出力を一段階上げると、一節ずつ増えていき、詠唱の内容も大きく変わる。


 故に、考えるだけでその形を具現化させられる俺達【法者】にとって、やりづらいったらありゃしない。


 そんなこんなで、講義が終わると皆それぞれの者達が昼食をとるため移動し始めた。しかも、しれっとユナもいなくなってやがる。


 この世界で驚いたことその2、授業は午前と午後の二部で、一コマ3時間。昼休み2時間という時間割。


 俺の元居た世界じゃ、一コマ1時間の一日五コマ、昼休みなんて1時間もない。


 そんなことを考えていると、一人の女生徒に話しかけられる。


 「あの、エイジ様……。」

 「……ん?なにか用?」

 「その、この書類を生徒会室に届けて欲しくて……。その、私図書委員の仕事があるからどうしても行けなくて……。」


 なんでも自分の仕事の都合で、ものが運べないから運んでほしいとの事だ。別に頼まれるのは良い。でも―――


 「なんで俺なんだ?ほかにもいるだろ?ほら、勇者とか。」

 「いえ、ノアさんは偽善感があって、ちょっと無理です。どうしてあんな勘違いしてる人に女子たちは惚れていくんでしょうか?」

 「言うねえ、君。でも、ちょっと同意。だけど、そうだとしてもなんで俺なんだ?」

 「その、エイジ様は優しいから。皆にはあんなに言われてるけど、エイジ様が、努めて悪役になっているのはなんとなくわかってますから。」


 イーヴィル、お前の悪役工作、失敗してるぞ。気付いてるやつは気付いてるんじゃないのか?あれ、でも―――


 「じゃあ、なんで決闘の時俺にかけてくんなかったの?」

 「あ、私賭け事はしないたちなので。」

 「賢明な判断だ。あの決闘でいったい何人が、全財産をスったのやら。」

 「それで言ったら、生徒会長は大儲けでしたね。一人勝ちですよ。」

 「確かに。でも、よく俺に賭けたよな。正気じゃねえのか?」

 「あ、その言葉、親衛隊の前では言わないでくださいよ。消されますからね。」

 「なにその組織、こわ。」


 そんな面白い組織があるのか。と言っても、俺に立ち向かえる奴なんているのか?こんな、俺に対して恐怖しか抱いていないこの場所で。


 「それはそうと、この書類を生徒会室に届ければいいのね?」

 「はい。生徒会長に渡してくれれば、後は大丈夫です。」

 「じゃあ、行ってくるわ。じゃあな」

 「あ、さようなら……」


 そう言って、俺は生徒会室に行こうとして、また戻ってくる。


 「あ、そうだ。」

 「はい、なんでしょう?」

 「人にものを頼むときは、『お願いします』。受け入れてくれたら、感謝の気持ちを込めて、『ありがとうございます』だ。人としての礼儀だ。次からは忘れるな。」

 「は、はい。では、お願いしますエイジ様。」

 「うむ、よろしい。」


 そう言って、俺はもう一度生徒会室に向かう。


 あ、名前聞くの忘れた。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 俺は今、重大な危機に瀕している。


 生徒会室の場所がわからん!


 そうだ。俺は昨日、意識が覚醒したと言える。つまり、俺だけ学校生活初日状態。教室の位置は、ユナがいたからわかったから、すっかり失念していた!


 そうこうしてるところに、ある女子生徒が通りがかる。


 最後に会ったのが6年前とはいえ、俺が間違えるはずがない。あの殺伐とした家族関係で、唯一俺が心を許した存在。


 ゼーレだ。


 「ゼーレ!」

 「……、兄さん……。」

 「生徒会室の場所を教えてくれないか?ちょっと用事があって。」

 「3階の一番北側の部屋です。扉の装飾が少し違うから、わかりやすいと思います。」

 「ありがとな。こんどお礼するから。」

 「期待しないで待ってます。」


 もっと他にも話したいことがあったが、俺はすぐに立ち去ることにした。理由は言うまでもなく、ゼーレが、恨みがましい目線を俺に向けてくるからだ。


 「返してよ。あの優しかったにーにを返してよ……。」


 俺が立ち去った後、ゼーレがそんな呟きをしていたのは、もう少し後で知ることになる。


 そして、生徒会室の前


 「派手だなあ……。」


 なんだこの扉は。物凄く成金の匂いがする。

 まあいいか。


 俺は深く考えずに、生徒会室に入る。


 「失礼します。書類を届けるのを頼まれて来……ま……し……た?」


 生徒会室に入ると、そこには下着姿の女性がいた。


 腰まで伸ばした黒い髪。その髪に合わせるかのような、真っ黒な瞳の女性が、清楚系の白い下着だけで、部屋の中にいたのだ。


 「……ん?ああ、着替え中なんだ。少し待ってくれ。」

 「清楚系の下着をつけるなら、恥じらいを持てよ。なんかこう……あるだろ?」

 「……お前、昔誰かにその言葉を言ったことは無いか?」

 「急に何?いや、言ったことないよ。あんたみたいなガサツな人間がそうポンポンいてたまるか。」

 「そうか……。ならいいんだ。」

 「というか、いい加減服を着てくれない?」


 下着姿だと、体のラインが本当に分かってしまうからやめて欲しい。


 「別に私は構わない。本音を言うと、法が許すのなら私は下着姿で外を歩いても構わないと思ってる。」

 「法が許しても、モラルが許さねえよ。取り敢えず服を着てくれ。」


 この女、巨乳だし綺麗な桃尻だしで、とにかくエロいのだ。こんな人がガサツとか、どうなってんだよ。


 待てよ。このくだり、前の世界でもあったような……。


 ガチャ


 「失礼します。ミホ、一緒にご飯を食べよ……う……か……!?」

 「「……?」」


 なんでここにこいつがいる。


 生徒会長とエイジの思考が一致した瞬間だった。


 「エイジ……お前、ヴィオラだけでなく、俺の婚約者にまで手を出そうと……。許さないっ!」

 「【変催・空眠】」

 「すぅ……。」

 「……!?今のは……!?」


 開口一番、俺に斬りかかってこようとしたノアに、生徒会長がある技をかけ眠らせる。


 今のは、次元式の術。もしかして、こいつ。いや、似てるところばっかりだけどさ。もうちょっと正体明かすのに駆け引きとかないのかな?


 ちなみに眠ったノアは、ハーレムメンバーの手によって、医務室に運ばれていった。その時、ユナがいたが、目を合わせてくれなかった。


 「さて、邪魔者もいなくなった。自己紹介をしよう。と言ってもお前には必要ないか?」

 「いや、してくれよ。」

 「なら、私の名前はミホ=アールツノイツ。次元の法者だ。もっともお前には、亜希永美穂あきながみほと言った方が良いのかな?」

 「ははっ……こんな奇跡ってあるのかよ。なら俺も、エイジ=リックウェル。雷の法者。お前の恋人の柴雷英司だ。」

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