第4話 渦津霊刀

 雷刀【渦津霊刀】


 この刀は、雷の法者である俺こと柴雷英司専用の武器だ。このようなユニーク武器に該当するものは別に、特段珍しいわけでもない。

 現に、他の法者も使うし、一部の抗者も使っているものはいた。


 俺の特異性は、その武器の触媒だ。


 他の武器は、ドラゴニュートや邪神などを素材にした強力な武器であることが多いが、渦津霊刀は俺自身がその刀の素材となる。

 そのおかげで、持ち歩きの際は自分の体の中にしまえるし、モチベーションなどの感情で武器の性能が大幅に上昇したりと利点ばかりだ。


 だからこそ、この決闘では使わないのが最適解だと思うのだが、相手がチート武器使ってるのならこちらも出していいだろう。


 現在、ノアは攻めてきていない。おそらく、俺の武器を警戒しているのだろう。


 『両者、動きませんね。』

 『そうですね。やはり、ノアさんが警戒しているのでしょう。エイジ様の出したあの剣。既存の武器では見たことがないですからね。しかし、いったいどこにあんなものを隠し持っていたのでしょうか?』

 『そうですねー。あっと、ノアさんが勝負に出たか!?』


 「いくぞ!【地岩壊砕じがんかいさい】!」

 「―――っ!?狙いは俺じゃなかったのか!」


 俺は、ノアの攻撃を余裕で避けれたことに違和感を覚えた瞬間に、バックステップで後ろに下がる。


 すると、俺のいた位置に岩山が現れ、砕け散るように爆発する。

 殺意が高すぎるだろ。


 「殺す気かよ。」

 「当たり前だ。お前のせいでどれだけの人が傷付いたと思ってるんだ!お前は殺さないと、必ず世界の猛毒になる!」

 「イーヴィル、面倒な状況にしやがって!まだ、お前のこと知らねえけど!」

 「はああああ!」


 俺は、迫りくる攻撃を捌き続ける。クソ、まだ術式が組み切れない。この体を使うのは、ある意味で初めてだ。術式の最適化に手こずってるんだ。


 「なんだ、見掛け倒しか!その武器も、使うべきやつが使わなきゃ鈍らと一緒だ!」

 「ムカ」


 駄目だ。こんなことで感情的になっちゃ。おそらく、あいつは思ったことを口にしてるだけで、煽ってる自覚は無いんだろう。


 イラつきすぎて、思わずイライラが声に出てしまった。反省反省。


 しかし、そんな俺の胸中も知らずに、ノアは煽り続ける。


 「お前みたいな悪人は生きてちゃいけないんだよ!お前のせいで多くの人が傷付くから!」

 「てめえに何がわかる?」

 「は?」

 「家族を失って、戦う運命だけを背負わされ、その中で現れた一筋の希望の恋人を殺されて。いくつもの命が零れ落ちていくのを俺は目の当たりにしてきた。殺したいほど憎かった。でも、そいつらには俺の力は届かない。

 そんな俺の気持ちがわかるか?」

 「エイジ、お前何言ってんだ?頭おかしくなったのか?」

 「おかしいんだよ。とっくに俺は壊れてんだよ。雷式【影抜刀かげばっとう】」


 俺は動かない。その代わり、俺の陰がノアを斬る。


 俺の陰は悠然と動き、ノアの陰の腕をぶった斬る。すると、陰の持ち主でもあるノア自身の腕も、切断される。

 切断された腕を見て、ノアは絶叫を上げる。


 「ぎゃああああああ!」

 「誰かが傷付くだと?俺がその痛みを背負って、それ以上に傷付いてきたんだ。何も知らない癖に、ほざくんじゃねえ。」

 「いたああああああい!たすけてくれえええええ!」

 「大丈夫だよ。その程度の傷、治癒魔術で治るじゃないか。俺はもっと痛かったぞ。切断に加えて、腐食の痛みまで合わさってたんだ。俺のやさしさに感謝してくれよ。」


 決闘の終了は、片側が戦闘不能になるまで。なら、こいつはまだ戦える。気絶まで持ち込む!


 そう息巻いた瞬間、会場が揺れ始める。


 「ノア様、頑張ってー!」

 「ノア、頑張りなさい!あなたは勇者なのよ!」

 「頑張って、マイヒーロー!」

 「そんな奴なんかぶっ飛ばしちまえ!」

 「お前ならまだやれるだろ!」


 会場が揺れた原因。それは、観客の凄まじい声援だ。俺は数多くの声援に、凄まじいアウェー感をおぼえ、一瞬だけ怯む。


 しかも、その声援のおかげかは分からないが、ノアが立ち上がり始めた。さらに、これは目測だが、全ての能力が微量だが上がっている。その上昇幅は、腕の欠損した人間のそれではない。


 「お……れが、助けるんだ。お前なんかに、誰も傷つけさせない!」

 「―――っ!?」


 俺はその気迫に気圧される。瞬間、理解する。


 ああ、これが主人公か。これが声援の力。これがあの時、俺にあったら美穂を守れたのか?


 ずっと欲しかった。主人公みたいな力が。何でも上手くいく主人公の力が。でも、俺には無理だ。俺には、主人公として大事なものが無い。


 「俺の傍にいてくれる人がいない。俺は独りなんだな。」


 その事実を突きつけられた俺は、決闘に終止符を打つべく、術式を発動する。すると、明らかにノアの顔に怯えの表情が出始める。


 それもそうだろう。この技は、6年前勝負を決めた技だからな。


 「あ……あ……いやだ。」

 「【雷速】」

 「グフ……」


 極限まで加速した掌底を叩きこんで、上空に打ち上げる。次は二段目の攻撃だが、二段目は前回とは違う。ノア、お前には俺に立ち向かおうという気すら起きないよう、恐怖を叩きこんでやる。


 「【変速・雷分身いかづちぶんしん】」


 雷分身


 雷速を限界まで加速させ、疑似的な分身を生み出す術式。一種の残像と同じだが、唯一違うのが当たり判定が存在することだ。


 「雷・変・雷 三雷式剣舞【雷影千像らいえいせんぞう】」


 三閃、六閃、九閃と、ノアを斬りつける剣閃は幾重にも増えていき、彼の体に無数の傷を増やしていく。


 そして数秒後、打ち上げられたノアが地上に辿り着くころには、全身切り傷だらけで血まみれになって気絶していた。


 そこで、審判の終了の判断が下される。


 『ノア気絶!よって勝者エイジ!』

 「「「「「…………」」」」」


 『き、決まったああ!勇者ノアVSエイジの勝負は、エイジ選手の勝利だああ!』


 静寂の中、実況が無理やり盛り上げようとしてるのが、逆に痛々しい。


 こうして、6年後に目覚めた瞬間に始まった決闘は、俺のボロ勝ちという形で、幕を閉じた。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 「あの戦い方は、もしかして……

 だとしたら、私はお前と寄り添っていきたい。私を救おうとしてくれた、誰よりも愛おしい人」


 決闘の終了後、ある女生徒は試合内容に思いを馳せていた。


 「こんな奇跡ってあるんだな。ああ……抱きしめたい……。

 そのためにはあの男が邪魔だ。」


 そんなことを言う女生徒の目は妖しく光っていた。





法者ファイル

柴雷英司・エイジ=リックウェル

前の世界で最強の名を冠する雷の法者。人一倍、人の温もりを求めている。前世も今世も、死んだ恋人に未練たらたらだ

得意技は、加速攻撃だ!

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