第3話 6年後の決闘

 俺は今、非常に混乱している。


 なぜ俺は殴られた?しかも、目の前のノアは、俺が戦った時より明らかに成長している。でも変わらず得物は大鎌のようだ。


 そこで俺も気付く。


 (俺ってこんなに視線高かったっけ?)


 明らかに、今の今まで見ていた景色より、視線が高い気がする。まじまじと俺の体を見直すと、今までより明らかに成長している。明らかに筋肉が付いている。


 だが、なぜ?―――いや、こんな展開も古典で習った。タイムトラベルか?しかし、それでも分からない。なぜ、殴られた?


 俺疑問が拭えないまま、首を傾げていると、ステージ外から実況が聞こえてくる。


 『解説の委員長、今の試合状況はどうでしょうか?』

 『そうですねー、ヴィオラさんを護るために挑んだ決闘ですからね。しかし、ノアさんは星に選ばれた勇者です。ノアさんの勝利が濃厚でしょう。ですが、対戦相手のエイジさん―――エイジ様もかつて神童と言われた人物です。なにが起こるかわかりませんからね。』

 『そうですか。では、今回の決闘内容を振り返りましょう。

 決闘内容は一本勝負の自由試合。勝利条件は、相手を完全に戦闘不能にすること。方法は、体の欠損を狙うもよし。気絶でもよし。

 ノアさんが勝利した場合、エイジ様とヴィオラさんの婚約破棄。以降、ヴィオラさんとの接触を禁止し、学園を去ること。エイジ様が勝利した場合、代価はヴィオラさんの体で払えとの事です。

 そして賭け比率は、9.9対0.1ほどになっております。エイジ様にかけたのは―――えー、一人だけですね。生徒会長です。生徒会長は何を考えているのでしょうか?

 さあ両者、というよりノア選手に頑張ってもらいたいところです。いまのところはノア選手の優勢で、試合は開始しています。』


 説明的な実況をありがとう。だが、聞こえてきた情報だけで判断すると、古典で習った【悪役貴族に転生】というものだろう。

 悪役貴族なのかは後で確認するとして、今は目の前の勝負に集中しよう。


 退学はまずい。この世界の学費の相場は知らないが、大金がかかってるのだろう。簡単には負けられない。


 「エイジ!お前がヴィオラにしたことは絶対に許されないんだぞ!」

 「……。」

 「おい、聞いてるのか!」


 うるせえな。こっちは考え事をしてるんだぞ。


 まあ、どうあっても負けるわけにはいかない。だからこそ、細心の注意を払おう。ノアは、勇者に選ばれてるらしいからな。


 「なにもしないのならこっちから行くぞ!」


 そう言うと、ノアは鎌を大きく振りかぶって、間合いを詰めてくる。

 俺はそれを、最小限の動きで避ける。


 「クソッ!お前も早く武器を出せ!」

 「いや、武器って言われても、手元にないんだけど。」


 出そうと思えば出せるけども……。だからといって、“アレ”を使うのは気が引ける。アレは法者の特権だからな。


 「エイジ様っ!」


 俺が武器を持てず困っていると、2つある会場の出入り口の内の一つから、見覚えのあるメイドが俺の名を呼んでいた。


 ユナだ。

 彼女は、俺と同い年の女の子だ。彼女の母親がうちのメイドという事で、彼女も小さいころからメイド見習いとして教育を受けていた。

 遊ぶ機会こそ少なかったが、仲は良かったと思う。


 そんな彼女の手に握られていたのは、見覚えのない剣だ。この世界に来て、一度も自分の剣というものを手にしたこと無いから、当然か。


 とりあえず、武器をもらうために、ノアから距離を取りユナの元へ向かう。


 彼女の下に着くと、すぐに剣を手渡してくれた。


 「ありがとな、ユナ。」

 「え……?エイジ様、もしかして―――」

 「ん?どうした?」

 「お戻りになられたんですね?そうですよね。イーヴィル様から、エイジ様に戻られたんですね?」

 「イーヴィル―――って誰だ?」

 「あ、そうですよね。今は、決闘に集中してください。エイジ様が勝たなければ、イーヴィル様のうたれた布石が全て無意味に終わってしまいます。」

 「あー、勝ちゃいいのね?」


 色々気になることがあったが、今は後回しだ。まずはこの決闘に勝つ。―――にしても、この剣はしっくりこないなあ。


 そこで俺は質問する。


 「この剣はその、イーヴィル?って奴が使ってたものなのか?」

 「いえ、違います。急ピッチで用意した不完全品です。もしかしたら途中で折れてしまうかもしれませんが、なにがなんでも勝ってください。」

 「わかった。勝てばいいんだな?後で説明しろよ!」

 「もちろんです。後でじっくりと話しましょう。」


 その言葉を聞いて、俺はノアの前に立ち直す。


 「へー、それがエイジの武器か。そんなので僕の神器【アダマス】と対等に戦えると思ってるの?」

 「知らねえし、興味もねえ。さっさと終わりにしよう。帰って寝たいんだ。」

 「ヴィオラと、か?もう勝った気でいやがるのか!」

 「いや、そういう寝るじゃねえ!」

 「うおおおお!」


 ノアがまた、鎌を振りかぶってくるが、今度は剣で受け止める。しかし、受け止めた瞬間に理解する。

 材質、精錬、使用感、全てにおいて俺の使ってる剣は、この鎌を超えられない。性能差がありすぎる。これでは、打ち合いをしたら10分とて持たない。


 「ふっ、僕の攻撃を受け止めるか。さすが、6年前僕に圧勝しただけはあるね。」

 「……。なにか隠してるな?例えば、鎌の能力とか。」

 「―――分かるんだ。じゃあ、出し惜しみはしないよ!

 うなれ斬撃【空烈斬波くうれつざっぱ】!」

 「―――っ!?」


 まずいっ!?


 俺は、焦りながらもその攻撃を避ける。避けた後に通った斬撃は案の定というかなんというか、後ろの空間を斬った。

 後ろの観客が斬れたかと思ったら、すぐに切断された空間は修復される。


 「対象だけを斬る技か。」

 「ふーん。見ただけで分かるんだ。だけど、お前じゃ俺に勝てない!俺は、勇者に選ばれたんだ。俺は誰よりも強いんだ!」

 「そういう慢心は砕けた時、人ってどうなるんだろうな?」

 「うるさい!

 裂け斬撃たち【千仙烈波せんせんれっぱ】!」


 ノアが発動した攻撃は、幾重もの斬撃になり俺に襲い掛かる。


 「今度は数か……。でも―――」


 そういう攻撃なんか生ぬるい、もっと凄まじいものを俺は見てきてる。


 俺は全ての斬撃を、弾く。しかし、その過程で剣が折れてしまった。それと同時に、試合が中断される。


 『エイジ選手、試合は続行ですか?』


 審判の声が聞こえてくる。どうやら、武器が破壊された場合、試合を棄権するかどうかの選択権があるらしい。まあ、続けるけど。


 「続行。」

 『おーっと!エイジ様、試合を続行だ!武器がない状況で、どう戦うのでしょうか。委員長、どうでしょうか?』

 『普通なら、無謀の一言ですね。しかし、エイジ様は二度もノアさんの攻撃を防いでいます。もしかしたら隠し玉があるのかもしれません。』

 『そうですか。では、これからの試合展開に期待です。』


 前も思ったんだけど、実況と解説って、選手に聞こえないようにするんじゃ?


 俺が首を傾げていると、ノアが話しかけてくる。


 「勝負を諦めても良かったんだぞ。」

 「あ?なんで勝てる試合を棄権しなきゃいけないんだよ?」

 「はあ?俺は勇者なの。普通は、素手じゃ勝てないんだよ。」

 「じゃあ俺が普通じゃないとしたら?」

 「手足斬り落として、二度と女の子に乱暴できないようにする。もちろん、君のメイドも助ける。」


 確かにこいつの言う通り、素手で勝つのは難しい。まあいいか。どうせ出してもこの世界でそれを知ってるやつはいない。


 「雷刀【渦津霊刀まがつれいとう】」


 俺は渦津霊刀を掌から抜刀する。この剣は、法者の権能。つまり俺専用の武器だ。


 「蒼き雷鳴は人を焼く。紅き雷帝は世界を斬る。稲妻吠えし時永久の死訪れる。」

 「それがお前の切り札か?今度は容赦しないからな?」

 「相手が弱いからと、本気を出さないのは負けた時の言い訳が欲しいから。それを強さとは言わない。だから俺は、手加減なんてしない。この刀を抜いたからには、死ぬ覚悟で来い。」

 「はっ!俺が、お前みたいな性悪の貴族になんて負けねえんだよ!」


 さあ、第2R開始だ。

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