無いものねだり

マドカ

無いものねだり








僕は兄に嫉妬している。

こう思い始めたのは幼稚園の頃からだ。


兄は運動が出来て、人付き合いも上手く、

女の子に人気がある。


兄弟でなぜこんなに差があるのか不思議で仕方がない。


僕は運動も出来ないし、友達もほとんどいない。

女の子にたまに話しかけられたと思えば、兄の話題だ。


けれど僕は兄が嫌いなわけじゃない。


我ながら醜い感情だと思う。

羨望という綺麗な感情ではないのだ。

あぁ、そう、これは嫉妬だ。


兄のように楽しそうな生き方が出来ればいいのになぁ。。。




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俺は弟にかなわないと感じてる。


勉強ほとんどしている姿を家で見ていないのに、弟は学年トップの成績だ。


先生からも評判がいい。

このままいけば、偏差値トップの進学校に特待生で入れるだろう。


母ちゃんも弟の未来に期待を寄せてる。


それに弟のことを好きな女の子は、

俺がずっと好きだった女の子だ。


うらやましい。

先に生まれただけで、俺には弟のような頭の良さはない。


テストでギリギリ赤点回避するレベルの学力しかない。


スポーツ特待生狙わないと弟に差をこれ以上付けられたくない。


うらやましい。

俺も弟ぐらい頭がよかったらな、ちくしょう。。



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夫と結婚して、子供が出来て15年。


はぁ、、と深いため息をつく。


子供は2人ともスクスク育っている。

2人ともいい子だ。


夫は大手ゼネコンの専務、生活に困ることはない。


でも振り返るとあたしには何も無い。


毎日家事をして、ママ友と当たり障りのない話をして、疲れて寝るだけだ。


肌も見た目も年相応になってきたな。


刺激的な毎日が欲しいとは言わないけど、あたしの人生これでいいのかなとたまに思う。


結婚前はあたしも銀行員だった。

あの頃のバリバリ仕事をこなしていた時代は楽しかったな。。


夫は大変だろうけど、仕事してて毎日違う変化があるのはいいなぁ。。



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朝8時に出社し、夜は9時に帰ってきて、妻の料理を食べ、子供2人と少し会話する。


週末に休みを取ることはほとんどない。


仕事の忙しさを考えるとむしろ「休みがとれない」。


妻は美人だとひいき目に見ても思う。


美容に気を遣い、金を遣い、家事をしてヨガやエステにもたまに行く。


たまに妻の生活と変わりたい時がある。

私も自分のことや子育てのことに時間を割きたい。


ただ現状、社員のことを考えるとそうは出来ない。


自分の幸せよりも、家庭を守る為に働いてきて少し最近疲れている。



隣近所の資産家のおばあさんの生活に少しだけ憧れる。



子育てを終え、自分のことに常に時間を使える彼女の人生はさぞ幸せだろう。



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朝8時、隣の家は毎日とても賑やかねぇ。


奥様は綺麗だし、旦那様はかっこいいわぁ。


男の子の兄弟2人も元気でこんなおばあちゃんにも優しくしてくれる。


息子は東京、孫も東京、旦那は4年前に亡くなった。


お金に苦労は今してないけど、

寂しいわ。


家でひとりぼっち。


仏壇にお父さんに語りかける。


早くそっちに行きたいわ、寂しいのよ、早く迎えに来てね。


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あーーーーーーー


金が無い!!!!


今日もパチンコで6万すった。


貯金も残り少ない。


43歳で独身で派遣社員。


わびしい。


学生の頃こんな未来になると思ってもみなかったな。


若い頃そこそこイケてたんだけどなー、ひび割れた鏡を見ると疲れた中年だ。


犯罪してないだけ。

それが取り柄。


しょうもない人生だなぁ。


刑務所に入ってないだけマシか。


俺に何も心配のない生活って来るんだろうか。

望み薄だなぁ。


ニュースをなんとなく見る。


へぇー、傷害で3年の実刑か。


3年間、刑務所かぁ。


刑務所って飯食えて規則正しい生活で、確か資格も取れるんだよなー。


なんかちょっとそれっていい生活だよなぁ。



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あたしは刑務所に居る。


あぁなんであんなことしたんだろ!!!!


興味本位で覚せい剤なんてしなきゃよかった!!!!!


毎朝早くに起きなきゃいけないし、面白くもない工場作業しなきゃいけないし、

同室の女の受刑者には気を遣う。



あたしの刑期は残り2年。


2年後、あたしちゃんと社会復帰出来るかなぁ。


死刑囚って何も作業ないし、確か欲しいものも看守に言ったら簡単な物は貰えるのよねぇ。


いいなー、死にたくはないけど

死刑囚の待遇って残りの人生消費するだけでしょ?


今後のあたしの人生どうなるのかなぁ。



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職場でのトラブルで、人を3人殺してしまった。


あの時のことを毎晩考える。


後悔しかしてない。


毎夜毎夜、あの時の夢を見る。


つらい。


自分に出来ることは遺族へ謝罪の手紙をせめて書くことだけだ。


家族には縁を切られた。

娘にも妻にも実の両親にもだ。


当然だ、俺みたいな人間誰が救ってくれる?


一生が贖罪の日々だ。


でもたまに妄想してしまう。


綺麗な嫁が居て、娘が居て、俺は仕事をこなして、平和な家庭、平和な世界。


そう考えること自体おこがましいかもしれない。


でもやり直せるなら。

生まれ変わりがあるとするなら。


俺はそういう人生がいい。


過ちを犯す前に戻りたいと何度思ったことだろうか。






そう、これは無いものねだりだ。

死が訪れるその日まで。

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無いものねだり マドカ @madoka_vo

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