きっと…また…

〈ミツタロウ視点〉









連れられて行った蒼紫の背中を見送り

翔も俺も…何も言葉を発さずに

エレベーター近くにある椅子へと腰を降ろした






レイコ「・・・・赤ちゃんの写真…

   撮って来たから夢乃に…見せなきゃ…」






麗子は手に握りしめていたスマホを

抱きしめる様にして

夢乃ちゃんの病室へと歩いて行き

隣りに座る翔が「頼むよ…」と小さく呟いた…






ミツタロウ「・・・・・・」






こんな時…

映画や漫画だったら

奇跡ってやつが起きて…




夢乃ちゃんは目を覚まして…

医者達が驚く中一命を取り戻して…




可愛い赤ちゃんを抱いて

蒼紫と並んで退院していくんだろう…






ミツタロウ「・・・ッ…まいにち…毎日拝んでんだから…」






毎日、毎日…

お経を唱えて拝んでいるんだから

奇跡を起こしてやってくれよ…






ミツタロウ「どうか…ッ…」






( 助けてやってくれよ… )






そう願っていると

「蒼君ッ!」と麗子の声が響き

まさかと慌てて立ち上がり

夢乃ちゃんの病室の前へと走って行くと

オヤジ達がさっきまでとは比べものにならない

不安気な表情でガラス窓の中を見ていて…






ミツタロウ「・・・ダメ…ダメだよッ…」






中にいる看護師二人が

慌ただしく動いていて

夢乃ちゃんに取り付けられている

機械が激しく点滅している…





蒼紫を呼びに行こうと

体を振り向かせると

廊下の向こうから

夢乃ちゃんの手術をしていた医者と一緒に

かけて来る蒼紫の姿が目に入った





( まだだよ…まだダメだ… )





部屋の中へは

医者だけが入って行き

険しい表情で看護師達に指示を出して

何か投薬しだしたけど…

自分の足が震えていて喉の奥に

なんとも言えない気持ち悪さを感じる…





( ・・怖い… )





このままいなくなるんじゃないかという恐怖が

そうさせているんだろう…





父「頑張れ夢乃ちゃんッ

  まだ子供も抱きかかえねーで

  三途の河なんか渡るんじゃねー!」





窓ガラスを叩きながら

そう叫ぶオヤジにつられ

皆んなが夢乃ちゃんの名前を口にしだした





ミツタロウ「頑張ってくれ、夢乃ちゃん!」





一人の看護師が驚いた顔で

医者に何かを言っていて

医者は夢乃ちゃんに近づくと

顔を覗き込んだ





看「蓬莱夢乃さんのご主人は?」





部屋から出てきた看護師は

蒼紫を呼び中に入れたからまさかと

心臓が嫌なはねかたをしたけど

横にずれた医者の背中の奥にある

夢乃ちゃんの目は開かれていて

奇跡が…起きたのかと思った…





看護師が扉を開け

中から「まだいくんじゃねぇ」と

叫んでる蒼紫の声が聞こえてきて…





( なんで… )





さっきまで忙しなく動いていた

看護師も医者も…

立ってるだけで…




医者が夢乃ちゃんに取り付けてある

マスクを外したのを見て

「ちがう…」と自分の顔を小さく振った…





蒼紫も…

俺と同じ事を思った様で

マスクを外した医者に顔を向け

酷く顔を歪めている…






ミツタロウ「・・・・ちがう…」






扉を開けたままの看護師が

「ご家族は中へ」と言い

蒼紫のオヤジに顔を向けると

ジッと窓ガラス越しに

夢乃ちゃんと蒼紫を見たまま動かなくて

おじさんも受け入れられないんだと思っていた…






レイコ「子供……子供の写真をッ」






麗子が夢乃ちゃんに写真を見せようと

慌てて中に入ろうとしたら

麗子の腕をガッと掴んで止めたのは

蒼紫のオヤジで…






蒼父「・・・残りの時間は全てあの子に」






ミツタロウ「・・・・ッ…」






てっきり放心状態になって

動かないんだと思っていた…




蒼紫のオヤジが蒼紫の事を

「あの子」なんて呼ぶのは多分初めてで

一度だってそんな…

父親らしい言葉は聞いた事がなかった…






アオシ「マダ……まだイクんじゃ…ぇッ…

   オレの………ばにいろッ……」







あんな風に…

声を上げて涙を流す蒼紫は初めてで




思わず顔を下げて

自分の奥歯を噛み締めた…





命懸けで産んだ

自分の子供を夢乃ちゃんだって

きっと見たいだろう…





写真であっても…

一目見て…安心して…

目を……閉じたいだろう…






だけど…

誰も…何も言えないのは

これが間違いなく最後の時間になるからだ…





選択する時間を与える事もなく…

夢乃ちゃんとの時間が

なくなってしまった蒼紫にとって

これは…本当に最後の時間だから…






( ・・・頑張って…くれたんだ… )






きっと夢乃ちゃんも…

蒼紫に会いたくて…

蒼紫が病院ここに来るまで…

頑張ったんだ…






ミツタロウ「・・・たくさんッ……るカラ…」






キミの…

大切な子供の写真を沢山撮って…

沢山…飾るから…





だから…今は…

残りの時間全部を蒼紫にあげてくれ…





( 誰よりもキミを想っている蒼紫に… )






耳に届く蒼紫の鳴き声と一緒に

高い一定音の音が鳴り響き

それが何を意味しているのかが分かり

大粒の涙を床に落とした…






ーーーーーーーー







ミライ「みつおじちゃん、こんにちは!」






ミツタロウ「おっ!仲良く駄菓子屋か?笑」






配達の途中で

よく知る二人から声をかけられ

ニッと笑って問いかけると

弥来の手を握っている仁衣子にいこちゃんが

「おかしかうの!」と

夢乃ちゃんによく似た笑顔を向けてきた






ミツタロウ「そうか!笑」






仁衣子ちゃんは今年で4歳となり…

年々…夢乃ちゃんの面影が増していく…





( ・・・本当にそっくりだな… )






ミツタロウ「帰りはパパが迎えに来るのか?」


 




ニイコ「うん!はたけさんのところにいなさいって」






仁衣子ちゃんは顔だけじゃなく

蒼紫が大好きな所まで

夢乃ちゃんに似ていて…





ニイコ「パパ!ニーコをみて!」






蒼紫が麗子や亜季…

商店街のおばちゃん達と話し込んでいると

蒼紫の裾を引っ張りながら

コッチを見てと頬を膨らませていて

ヤキモチを妬いていた






レイコ「相変わらず夢乃にそっくりねー」






麗子が眉をピクピクとさせながらそう言うと

「にてないもん」と言って

蒼紫の足に抱きついていて

母親である夢乃ちゃんにも

ヤキモチを妬いている様だった






夢乃ちゃんがいたら…

蒼紫の取り合いだっただろうな…

なんて思い小さく笑うと






ニイコ「パパはニーコがいるから

   さみしくないもんねー?」






蒼紫を見上げながら

笑ってそう問いかける仁衣子ちゃんに

蒼紫は膝を曲げて目線を合わせると

「そうだな」と笑って答えた






ニイコ「・・・ママがいなくても?」






仁衣子ちゃんの言葉に

少し驚いて麗子達と顔を見合わせると

蒼紫は笑ったまま仁衣子ちゃんの頭に手をおき…






アオシ「寂しくない…

   夢乃とは…また直ぐに逢える…笑」






ニイコ「ニーコも?ニーコもママにあえる?」






アオシ「仁衣子は…また違う誰かと逢える」






ニイコ「ん?」






仁衣子ちゃんには

まだ分からない様で

顔をコテっと傾けていたが

ここにいる皆んな…

その言葉の意味を分かっていた…






ミツタロウ「後生ごしょう?」






「はいッ!蒼紫さんからの

 プロポーズの言葉なんですけど…

 後生…来世も私の旦那さんになりたいそうです…笑」






アオシ「・・・ペラペラ話すな…」







夢乃ちゃんの就任式の後…

「祝いだ!」とオヤジが居酒屋を貸切

皆んなで集まっていると

酔った夢乃ちゃんが幸せそうな笑顔で

皆んなの前で話してくれた…






( ・・・きっと…また逢えるよ… )






弥来に手をひかれながら

駄菓子屋へと歩いて行く

小さな背中を見送った後顔を上げて



あの就任式の日の様に

晴れ渡った綺麗な青空を見ながら…

そう…思った…








♡fin♡









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