悪い夢…

〈アオシ視点〉








( ・・・はっ? )







医「奥様は運び込まれた時には

   既に出血の量も多く…」






目の前にる医者は俺に誰の話をしてるんだ…

「奥様」なんて言っているから

夢乃の事…なのか…







医「手首の傷よりも右足の損傷が激しく

  牙によって裂かれた皮膚は」






アオシ「・・・・・・」







耳に入ってくる言葉は

しっかりと聞こえているのに…

頭の方は…受け入れようとはしていなく

「なんの話だ」「誰の話だ」と

口にしそうになっている…






医「・・・今回は…奥様の強い希望で  

  胎児の摘出を優先させていただきましたが」






アオシ「・・・ゆっ…優先?」






何の優先だ…

腹にいた子供は手術で取り出されたにしても…

夢乃も…二人とも無事なんだろうが…





俺は医者の目を真っ直ぐと見据えたまま

問いかけると

下唇を噛むような…

言いにくそうな表情を浮かべた後

「大変…危険な状態でした…お二人共…」と

俺の目を見たまま…そう言った…






アオシ「・・・・・・」






父「・・・・夢乃の家族も夜にはコチラに着く」







そりゃ…そうだろ…

孫が…姪が生まれたんだから…





医「夜…ですか…」





アオシ「・・・・・・」






オヤジと医師が眉を寄せて何か話しているが

全然…理解できねぇ…




夜に着いて…

何が問題なんだ…

面会時間か…

なら明日の朝イチでもいいだろうが…






医「・・・・・・」






そんな顔すんじゃねぇよ…

それじゃまるで…



まるで…

夢乃が夜までに何かあるみてぇだろうがッ…

   





アオシ「・・・妻は…いつ退院できるんですか」






俺の言葉に医師は

細くしていた目を見開き…

また直ぐに目を細めて「残念ですが…」と口にした






アオシ「・・・ハッ……ざん…残念?」





父「・・・・・・」






( 何をもって残念なんて言ってやがる… )






目の前の視界が少しずつ歪んでいくのを感じ

コレは悪い夢なんだと思った…




夢乃の出産が近づいていて…

初産である夢乃はきっと

お産も長丁場になるだろうと言っていた

檀家のババア達から聞いた話の影響で

こんな…悪夢みてぇな夢を見てるに決まってる…





早く…早く目を覚ませ…

こんなふざけたせかいにはこれ以上いたくねぇ…





早く目を覚まして

隣りで寝息をたてている夢乃に

どうせ足元まで蹴っているであろう

タオルケットをかけてやらねぇと…





( だから…早く目を覚ませッ… )






アオシ「・・・ッ…ユメ…なんだろうが…」






何で…

夢の筈なのに…

俺の手の甲に落ちてきた水滴が

こんなに生々しいんだよ…






父「・・・蒼紫…」






これじゃ…

視界が歪んだのは

夢なんかじゃなく…

俺が泣いているからみてじゃねぇか…





アオシ「・・・ッ・・・・」






顔を下げると

俺の膝の上にある手は

小さく震えたままキツく握り締められていて

いてぇ筈なのに感覚は全く無くて




夢なのか現実なのか

イマイチ分からなくなっていると




医者の直ぐ後ろにある機械から

「先生!ICU3番に急いで来てください」と

声が響き…





医者は直ぐに立ち上がると

「急いでください」と

俺とオヤジに言い…





呼ばれた部屋が…

夢乃のいる部屋なんだと分かった…






( ・・・いくな… )






まだ…逝くな…

まだ…まだ後生そっちには行くな…















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