もう少し…

〈ユメノ視点〉










海の上を何故か

普通にスタスタと歩けていて

不思議な筈なのに

私の足は戸惑う事もなく

当たり前の様に沈むことのないその水面を歩いている…



水平線の先から私の頭の上に

綺麗な青空が広がっていて…






( ・・・何処に行くんだろう… )






足に感じる水は

夏のプールの様に心地よくて

いつまでも歩いていれる気分だった





私の歩く水音とは別に

波の音が聞こえていて

波なんてないのになと思っていると

少し先に人影が見え

「・・・・だれ…」と口にしたけれど

何も答えてくれない影に

何故だか懐かしさを感じて

歩く足を速めた






( 私の…知っている人? )






近づいて行くと

見えていた人影は段々と小さくなり

中学生位の女の子が立っていた




 



「・・・・あなた… 」






女の子は私を見ると

優しく微笑んでいて

懐かしむ様に細める目には涙が見えた…






「・・・・・・」






女「ママ…」






女の子の表情がニーコに重なり

「ニーコね?」と近づこうとすると

腕をグッと引かれ

「まだ…ダメだよ」と後ろから声がした





顔を後ろに向けると

前にいる女の子よりも

少しだけ大きい女の子が立っていて

彼女が誰なのかも分かった…






「ごっ…ごめッ…ね…ニーコ…」






目の前にいたニーコよりも

あなたは長く成長したんだもんね…




助けてあげれなかった二人に

涙を流して謝ると

「ママ…」と前にいるニーコが私を呼び

「ずっと…逢いたかった」と言われ

駆け寄ろうとしたけれど

隣りにいるニーコが手を離してくれず

行ってあげれないでいる






「・・・ニーコ?」





女「もう少し頑張って…」





「・・・へっ?」






手を引いているニーコは

私の目をジッと見つめると

「頑張って…お母さん」と言った瞬間

頭の中にバッと映像が一気に流れ込んで来て

まるで沢山の映画を早送りしている様な…






マサル「夢ちゃーん!お兄ちゃんですよ!笑」





母「こら!まだ離乳食以外無理よ!」






( ・・・お兄ちゃん? )






視界に飛び込んで来た

お兄ちゃんは小さくて…

お母さんも全然若くて…

いつの事?と驚いていると






父「夢乃!ほら笑って!

  夢乃が世界1、いや宇宙1可愛いぞ!笑」






写真で見た事のある

七五三の着物を着ている5歳の私は

まんざらでもない顔でポーズを決めていて

カメラマンの奥で

ニコニコと笑って私を褒めちぎっている

今のメタボじゃない体系のお父さんがいた…





( ・・・これ… )





映像はドンドン流れ込んで来て

小学校の入学式や修学旅行…





マリコ「ねーねー名前なんて言うの?」





( ・・・麻梨子… )





これが一体なんなのかが分かり

頭の中で「バカ犬」と叫んで

ほうきを向けた記憶が蘇ってきた…






( ・・・アタシ…… )







急「母子共に危険です…ハッキリ言って母体は…」






蒼父「母親を」






救急車の中で

お義父さんが私を優先にと言っているのが聞こえ

思わず手を伸ばした…






「・・・ッ…コ…コドモッ…を」






蒼父「・・・・・・」






おじさんとの子供は…

もう絶対に失いたくない…

そう伝えた…






多分…コレは…

今私が見ているコレは…







「走馬灯?なにそれ?」



 



アオシ「・・・お前…何聞いて生きて来たんだ?」







くるくると回る光りの照明器具を

走馬灯と言うらしく…

   






アオシ「この影絵が回る様に

   走馬灯が過ぎるって言うだろうが?」






「・・・ん?」






アオシ「よく言うアレだ

   映画なんかで死ぬ間際の奴が

   今までの人生の映像が

   フラッシュバックするあんな感じの事だ…」






「あぁー!それなら分かる!笑」







きっとコレは…

死ぬ前の私の記憶の走馬灯なんだ…







ミキ「夢乃は…逃げる癖があるよね…

   何か嫌な事があると直ぐに逃げる…

   だから、誰とも続かないんだよ…」

   





( ・・・美紀…今どうしてるんだろ… )






流れてくる映像に

こんな事あったなと小さく笑っていると






キッペイ「夢乃ちゃんか…可愛いね?笑」






あんなに憎たらしかった筈の桔平の記憶も

今じゃ懐かしく感じ瞼が熱くなっていく…






占「この人…運命の相手ではありません!」






そう…この占いの後だ…

この後に私は…







アオシ「パルフェタムール…」





「パル…フェタムール?」





アオシ「意味は、完全なる…愛」





「・・・ぁい…」







(  おじさんと出逢ったんだ… )






ここから先の記憶は

全部…全部おじさん一色だった…







アオシ「小学生のガキじゃねぇんだから

   時間の潰し方位自分で見つけろ」







最初の頃のおじさんは本当に

冷たくて、素っ気なくて…








アオシ「・・・明日からは自分で塗れよ」






「・・・・ヤダ…

  このクリームはおじさんが持ってて!」







でも…

おじさんのくれる小さな甘さが

大好きで…





それだけで幸せだった…






アオシ「勝手な真似はするな」





アオシ「・・・見合いは…してねぇ…」






涙を流したとしても

その涙を止めるのはおじさんだけで…

全部…全部大好きで…



 





アオシ「あぁ…全部俺が悪かった…

   あんな所に騙して連れて行った俺が悪い…

   だから、お前はお前の日常せかいに戻れ」







私の幸せを思って

手を離してくれた

誰よりも愛しいアナタだからこそ…







「アタシの幸せは…

 何処にいるかじゃない…誰といるかよ…」







アナタのいるここへと戻って来た…






( ・・・蒼紫… )





いつの間にか水の中にいた私は

口を開いておじさんの名前を呼ぼうとすると

コポコポと口から空気泡が出て

声にする事が出来ず

手と足をジタバタとさせてなんとか水面に

顔を出そうとするけれど…





頭の何処かで

もう…ダメだと分かっている自分もいた…






( ・・・私は… )






女「お母さん…頑張って…」






頭の中にさっきのニーコの声が聞こえ

顔をもう一度水面へと向けた…






女「お父さんが待ってる…」





( ・・・・・・・ )






私は…多分もう…

蒼紫と並んで歩く事は出来ないし…

お腹にいた赤ちゃんがここに居ないと言う事は

きっと…お義父さんは私の願いを叶えてくれたんだ…





生まれてきた赤ちゃんを抱いてあげる事も

庭にいる3人のあの子達に

もうオヤツをあげる事も出来ないけれど…





アオシ「後生大事にする…必ず…」






ニーコの言うもう少し頑張っての意味が分かり

必死に水面へと手を伸ばした…






( アナタに伝えたい言葉があるから… )















  












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