最悪…
〈ミツタロウ視点〉
ワダ「たっ…大変だッ!」
店に駆け込んできた鳥屋のおじさんに
なんだと驚いていると
直ぐ隣で配達に行く準備をしていたオヤジが
「どうした?」と立ち上がった
ワダ「夢乃ちゃッ…夢乃ちゃんがはこ…運ばれたッ」
ミツタロウ「えっ??」
俺はてっきり破水したのかと思ったけど
鳥屋のおじさんは息を荒くして
俺の腕を掴んで「若住職に早く連絡しろ」と
繰り返している
( ・・・なんだ? )
夢乃ちゃんは初めての出産だし
蒼紫に早く駆けつけてやれと言うのもよくわかるけど…
俺の腕を痛い位に掴んでいるおじさんの表情は
とても嬉しい産気づいた報告には見えない…
オヤジ「落ち着けよ!破水したのか?」
ワダ「チガッ…犬だ!」
ミツタロウ「犬?」
ワダ「野犬が庭に入ってきたらしくて
夢乃ちゃん酷く噛まれたってッ!」
ミツタロウ「・・・ぇっ…」
一瞬視界がぐらっと歪み
思わず足を一歩後ろに下げた…
( かっ…かま…れた? )
オヤジ「野犬?去年も潜り込んだバカ犬か!?」
ワダ「分からねーけど
一羽は噛み殺されたみたいだ」
ミツタロウ「・・・・・・」
鶏を噛み殺す程の野犬なら…
野良なんかじゃなく
本当に森から来た野生の…
肉食の犬だろう…
( そんな犬に…噛まれた? )
オヤジ「よりによって野犬か…
狂犬病や破傷風が心配だが…
満太朗!早く蒼紫に連絡しろ!」
ミツタロウ「・・・・・へ…」
オヤジ「お前が呆けてどうすんだッ
早く蒼紫に連絡しねーかッ!」
オヤジに胸ぐらを掴まれて
ハッとしたものの
ポケットから出したスマホの
ロックコードをうまくタップ出来ず
何度もエラーになる…
オヤジ「バカが…」
もういいと言って
オヤジが奥の部屋へと行き
母ちゃんに自分の携帯はどこだと声を上げているのが
聞こえてきてタップする手を止めて
「夢乃ちゃん…が?」と呟いた…
ミツタロウ「女の子なんだって?」
「はいッ!
パパはハーレムで羨ましいねぇ?笑」
歩いて買い物に来る事は無くなり
蒼紫と一緒に車で買い出しに来ていた夢乃ちゃんに
声をかけると幸せそうに笑ってそう答えていた…
「殆ど鳥だろ」と目を細めていた蒼紫に
「もうッ!ピーコ達にそんな事言わないで」と
怒っていて俺も苦笑いを浮かべた
4羽いるうちの1羽だけが噛み殺されて…
夢乃ちゃんが噛まれたのなら
きっと…守ったんだろう…
( 娘である…にわとりを… )
ミツタロウ「・・・あおッ…蒼紫!」
いくら呆れていても
夢乃ちゃんを優しく見つめていた蒼紫の顔を思い出し
手にあるスマホのパスコードを入力し
解除された画面の直ぐ下にあるダイアルマークを押した
( まさかなんてないと思うが… )
夢乃ちゃんは臨月だし…
使える薬も限られている…
もし…もし…
お腹の子に何かあったら…
俺は最悪の事態を考え
何度も繋がらない蒼紫の番号へと発信し
「出ろよッ」と震えた声で呟いていると
「満太朗!」と翔が店の入り口から顔を出し
「池田総合病院だ!」と俺に駆け寄って来た
ミツタロウ「池田…」
ショウ「破水してるらしい」
ミツタロウ「はっ…破水も?」
ショウ「麗子の親父さんがちょうど寺にいたらしい
麗子が何度も蒼紫に連絡するけど…
アイツ今…葬式に出てるみたいだ…」
なんで麗子の親父が寺にと疑問だったが…
破水しているなら
もう生まれるって事だろう…
野犬に襲われた体で
出産なんて出来るのか…
オヤジ「蒼紫の奴全く繋がらねぇ」
奥から出て来たオヤジに
鳥屋のおじさんが「池田病院だ!」と
さっき翔が言った事を説明しだし
破水していると聞いて
一気に顔を曇らせた…
ショウ「とりあえず今から病院にいけるか?」
ミツタロウ「・・・あぁ…行くに決まってる」
配達どころじゃなくなり
腰に巻いている前掛けを取り外し
出て行こうとすると
「だーさん車だしてくれ」と
オヤジ達も病院に行くようだった
ショウ「俺の車は軽トラだから
お前だけ乗せて先に行くぞ」
オヤジが母ちゃんを呼んでいるから
配達や店の事はどうにかなるだろうと思い
スマホだけを握りしめて翔の車へと飛び乗った
車を走らせながら「満太朗」と
小さく翔が呟き顔を向けると…
ショウ「・・・結構…酷いみたいだぞ…」
ミツタロウ「・・・・・・」
ショウ「噛まれた部分…出血の量が…
肉が裂けてるかもしれないって…」
ミツタロウ「・・・・・・」
俺が思っていた最悪よりも…
もっと…最悪な事態になるのかもしれないと思った…
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