呪い…

〈アオシ視点〉










遠方の葬式へと呼ばれ

勤めを終えて車に行こうとすると

「蒼紫君」と檀家の主人に声をかけられた






男「予定日そろそろだっただろ?

  コレ、少しなんだか受け取ってくれ」






差し出している物が何か分かり

「お気遣いなく」と断ったが

「いいんだよ」とまた差し出して来た

祝儀袋に「すみません」と言って手を伸ばした






男「次に会う時には

  蒼紫君…いや住職も父親だな?笑」






アオシ「そうですね…笑」






あと11日で予定日を迎えるから

よほど遅れない限り

この檀家の家へと参る時には

俺は父親になっているだろう








「早く帰る努力をよ!

 無駄な雑談をパッパッと切り上げたり

 歩く速度をたげたり…

 頑張ったら何時?笑」






( ・・・・・・ )







急に夢乃の声が頭の中に聞こえてきて

話を早めに切り上げてから車へと行き

車に置いたままにしていたスマホへと手を伸ばし

画面に表示されている不在着信の多さに眉を寄せた







( ・・・まさか破水でもしたか? )






初産は予定日よりも

遅れる事の方が多いと聞いていたし

まだ11日も先だから今日どうかなる事は

ないだろうと思って今日の葬式も

オヤジではなく俺が出向いたが…





直ぐに自宅に発信したが

繋がる事はなく

少し上にある不在番号に発信してみると






【はい、池田総合病院です】






アオシ「・・・あの…そちらから不在が入って」






電話の向こうから聞こえてきた病院名に

ドグンと胸の音が全身に響いた…




産婦人科からかと思っていた番号は

隣町にある少し離れた総合病院からだったからだ







【 コチラの病院にご家族が入院されていますか? 】







アオシ「いえ…あの…妻が臨月で

   蓬莱夢乃と言うんですが…」







夢乃に何かあったのか…

それともオヤジかお袋か?






お待ちくださいと言われ

オルゴールの様なメロディが聞こえている間も

ドグ…ドグ…と良い響きでは心臓の音を感じていて

スマホを握りしめている手には汗をかいている





不安の渦の中にいると

ブツッと電話の切り替わる音と共に

【もしもし】とさっきの受付の女の声とは違った

少し低めの声が耳に聞こえ…






アオシ「・・・・・・」






電話の向こうから聞こえてくる言葉に

自分の呼吸が一瞬…止まったのが分かった…







「・・・私とおじさんの糸は…

 えにし線っていう紫の糸なんだって…

 どの糸よりも…誰よりも強く惹かれ合うんだって…

 だけど……絶対に……ダメッ…なんだって…」







だいぶ前に夢乃が

俺の耳元でそう言っていた事があった…

俺と夢乃は…







「・・・呪われた…運命線なんだって…」







あの時は

また占いなんてものを信じているのかと

呆れていたが…






アクセルを踏んで

夢乃のいる病院に向かっている今の俺の頭の中は

あの不吉な言葉でいっぱいだった…









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