あと…
〈ユメノ視点〉
「コラッ!マルちゃん!」
お寺の方へと走って行く
マルちゃんの背中に怒って叫ぶけれど
マルちゃんは気にする事なく
早足でかけて行き
小さな背中は直ぐに見えなくなった
「うわぁ…草履ボロボロ…
買い替えなきゃダメかな…」
姿の見えないマルちゃんを探して
縁側の下で見つけた時には
私の草履が酷い状態になっていた…
「お客さんは帰った筈だけど…」
お寺にマルちゃんが行けば
おじさんが怒った顔で
マルちゃんを連れて来るのが想像でき
「はぁ…」と息を吐いてから
「よい…っしょッ」と曲げていた腰を伸ばし
お寺に行こうとすると…
「ん?…ふふ…ねぇー?
困ったお姉ちゃんだよね、マルお姉ちゃんは…笑」
お腹の中で小さな振動を感じ
お腹を撫でながら話しかけた…
5月になり陽射しが少しずつキツくなりだし
また暑い夏がやってくるなと思い
妊婦さん独特の暑さに「ふぅ…」と息を吐き
マルちゃんを捕まえたら
冷たい飲み物でも飲もうかなと思いながら
足を進めていると
「マルッ!」とおじさんの声が聞こえてきた
( ・・・もう何かしたのかな… )
去年までは一番の問題児は
ピーコだったけれど…
最近ではマルちゃんに手を焼いていて
ダメだと言う事をして
私達に叱られると早足で逃げて行き
全然反省をしていない…
本堂の柱の影からそっと覗くと
お寺の中を駆け回りアレコレ倒したのか
朝掃除した通路には灰が落ちて汚れている…
「・・・・マル…ちゃん…」
機嫌が悪いであろう
おじさんにビクつきながらマルちゃんを呼ぶと
パッ振り返ったおじさんの眉は吊り上がっていて
ピクリと目を細めてコッチを見ている
アオシ「・・・来客がある日は
コイツらをどうするのか忘れたのか」
「・・・天気が良かったし…
もう帰ったかな…って…」
お腹が大きくなりだし
マルちゃんやニーコを抱き上げるのがキツくなってきて
何かあってもパッと捕まえられなくなったから
お寺に訪問者が来る時間帯は
小屋から出さない約束をしていた…
「・・・ごめんなさい…」
おじさんやお義母さん達は
お腹が大きくなった私に
お寺の拭きあげや階段の掃除をさせなくなり
マルちゃんの汚した広間の掃除を
今からするのは…多分おじさんで…
ごめんなさいと謝ると
おじさんは「はぁ…」と目を閉じて
数秒黙った後「母屋に行ってろ」と言って
奥に逃げ込んだマルちゃんの所に行こうとしだした
( ・・・・・・ )
母「あまりイタズラが過ぎるとね…」
数日前にお義母さんが
庭を歩いているマルちゃんを眺めながら
ため息混じりに呟いていて
駄菓子屋の畠さんの家にお願いした方が
いいんじゃないかと言っていて
私は…「ダメです」と言えなかった…
今の私じゃマルちゃんを
走って捕まえる事も出来ないし
汚してしまった片付けもできなくて
ちゃんと…面倒を見れていなかったから
おじさんが瞼を閉じて
何を言おうとしてやめたのかが
何となく分かり
おじさんの背中を追ってマルちゃんの所へ行くと
マルちゃんは木魚を
足を止めてそれを眺めているおじさんの背中が
笑っていない事が伝わってきた…
「・・・・マルちゃん…」
ゆっくりと床に膝をつけて
優しく名前を呼んであげると
マルちゃんはクルッと顔を向けて
顔をカクカクと傾けた後
私の方へと走って来た
アオシ「・・・・・・」
「・・・・マルちゃん…
いい子にしてくれないと
皆んなと離れなくちゃいけなくなるんだよ…」
お尻をついて足に乗っている
マルちゃんの背中を撫でながら
そう話していると
おじさんは何も言わないまま
傾いた木魚を直し…
ガチャガチャとマルちゃんの汚した部分を片付けている
「・・・もうすぐ…お姉ちゃんなんだよ?
ママは…マルちゃんにも
可愛い妹の顔を見てほしいから…いい子にして?」
アオシ「・・・・・・」
マルちゃんはイタズラ好きで
ニーコやタマちゃんのオヤツを
たまに横取りしちゃう事もあって…
手がかかるけれど…
「・・・皆んなのボディーガードでしょ?」
おじさんを見送りに行く時は
必ず私と一緒について来て
空を飛んでいたトンビが低く飛行しているのを見ると
怒った様に鳴き声をあげて
皆んなの…小さなボディーガードだった…
5人との私の可愛い子だし…
もう直ぐ生まれてくる6人目の娘も…
きっとマルちゃんを好きになる…
「・・・イタズラは…ダメだよ?」
アオシ「・・・・・・」
また床に降ろしたら
逃げ回ってイタズラをするんじゃないかと思い
膝の上で大人しくしているマルちゃんを
抱きしめたままでいると
「少し待ってろ」と片付けをしている
おじさんの背中から声が聞こえ
言われた通りおじさんが片付け終わるまでの間
マルちゃんを撫で続け
20分程で
窓を閉め終えたおじさんが
コッチに来ると腰を落として
「帰るぞ」とマルちゃんを抱き上げた
「・・・・・・」
アオシ「・・・ほら…」
マルちゃんをよそにあげるのかなと
不安に感じながらおじさんを見上げていると
片方の手を差し出してきて
私を立たせてくれた
アオシ「・・・・段差滑るなよ」
マルちゃんが逃げない様に
両手で抱きかかえるおじさんは
私の方に視線を向けたまま
ゆっくりと歩いて行き
家の近くに来ると
「おい」とマルちゃんに話かけだした
アオシ「お前は手がかかるからな」
「・・・・・・」
アオシ「悪いが閉じ込めるぞ」
小屋にずっと入れておく気なのかと思い
「蒼紫さん!」と思わず声を発した
マルちゃんがいなくなるのは悲しいけれど
ずっと閉じ込めておく事になるのなら
自由に歩ける畠さんの庭に行かせてあげた方が
マルちゃんにとっては幸せだ…
「あの…閉じ込める位なら…」
アオシ「柵…つけるぞ」
「・・・へ?柵??」
おじさんは自分の足元を
トントンっと草履で叩き
「ここから先は行かせねぇからな」と
マルちゃんの顔を見ながら言っていて
「ここ?」と私が問いかけると
「ふっ」と笑った顔を向けて来て
アオシ「そいつのボディーガードも
してもらわなきゃいけねぇからな…笑」
「・・・・・・」
おじさんの言うそいつは…
私のお腹にいる赤ちゃんの事で…
アオシ「マルは元気で足もはえから
いい遊び相手になるだろ」
「・・・蒼紫…」
おじさんがマルちゃんを
よそにあげたりせずに庭に柵を作って
今後も庭を自由に歩かせてくれるんだと分かり
嬉しくておじさんの袖を掴み名前を呼ぶと
アオシ「あと4ヶ月か…」
「・・・3ヶ月よ?8月だから」
お腹の子が生まれるのは8月で…
おじさんが勘違いをしているのかと思い
顔を見上げると
おじさんは「だからあと4ヶ月だろうが」と答え
私の耳元に顔を寄せてきた
アオシ「今度はそう簡単に妊娠させねぇからな」
「・・・へ?」
おじさんの言う4ヶ月後の意味が分かり
顔を赤くして家に戻ると
お義母さんが冷たい麦茶を差し出してくれた…
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