可愛い…

〈マサル視点〉










マサル「夢乃は?」






母「落ち着くまで横になるって」







正月の明けた連休に

夢乃の嫁いだ寺に新年の挨拶をしに来たが

悪阻つわりが酷い様で

食卓に座って1分もしないうちに

トイレの方へと駆け込んで行き

しばらく経ってから

母さんと向こうのおばさんだけが戻って来た







マサル「悪阻つわりっていつまで続くんだ?」






母「皆んなそれぞれだけど

  4ヶ月目あたりには落ち着いていくわね」






マサル「じゃあ、あと少しの辛抱だな!笑

   夢乃の分もお義兄さんが食べてください」






妊娠した夢乃にと

母さんや父さんが沢山食材を買い込んで来ていて

テーブルには魚から肉…

沢山の料理が並んでいる







マサル「さっ!お義兄さん、一杯どうぞ!笑」






母「まさるはスッカリ蒼紫君、蒼紫君ね…笑」






瓶ビールを手に

隣りの席に座っている

お義兄さんにお酌をしようとすると

母さんが笑いながら

「夢乃と同じね」と言い出した







父「いやぁー、蒼紫君には

  娘だけじゃなく息子まで取られそうだよ!笑」







アオシ「・・・いや…」








母さん達は

半分冗談半分本気で笑っているんだろうが…






マサル「お義兄さんの写真を職場仲間に見せたら

   男前って皆んな騒いでましたよ!笑」






アオシ「・・・・・・」







俺は今回、おめでたとなった夢乃に

会うのも楽しみだったが

それと同じくらい

お義兄さんに会うのを楽しみにしていた






マサル「僕、男兄弟に憧れてたんですよ

   だからお義兄さんができて嬉しくて!笑」






母「可愛い妹だけじゃ物足りないの?笑」






マサル「夢乃は……ゆめのは…」







思い出す記憶の殆どが

憎たらしい姿ばかりで

可愛い記憶なんてものは…






マサル「幼稚園の時は

   お兄ちゃん、お兄ちゃんって

   俺の後をついて回って可愛かったんですよ?笑」






アオシ「・・・・・・」






妹の可愛い記憶が

幼稚園の話しか出てこないなんて

自分でも酷い兄貴だとは思うけれど…






( 実際憎たらしかったからな… )







マサル「アイツは酷い妹だったんですよ!

   バレンタインで貰って来たチョコレートは

   勝手に食い尽くすし…

   買ってきた漫画は必ず夢乃から読むし…

   俺はラーメンがいいって言ってるのに

   パスタ屋の出前を頼んだり…」







お義兄さんなら分かってくれるだろうと思い

二の腕を掴んで夢乃の愚痴を溢していると

痩せているのに妙に貫禄のある

お義兄さんのお父さんが「ふっ」と笑い出し

「へ?」と顔を向けると

「バレンタインか…」と言って

ビールの入っているグラスを持ち上げて

「懐かしいな」と笑っていて…






母「蒼紫君とあなたは違うのよ!笑」






マサル「違う?」






お義兄さんも

さぞかし夢乃のワガママに

疲れているだろうと思っていたが…






母「それで、チョコレートがダメならって

  蒼紫君にハート型のおはぎを作ったらしいわよ」






母さんの話を聞きながら

お義兄さんに顔を向けると

少し恥ずかしそうに顔を下げていて

本当なんだと驚いた






マサル「あの夢乃が…おはぎ…」






父「いかにお前が蒼紫君に懐こうとも

   夢乃には敵わないだろうな?笑」






すでに機嫌良く酔っている父さんは

ビールを美味しそうに飲みながら

「父親の私も食べた事ない」と

ゲラゲラと笑っている…






アオシ「・・・少し失礼します…」






お義兄さんはそう言って立ち上がると

テーブルにある果物の乗った皿を持って

部屋から出て行き

何処に向かったのかも皆んな想像はついた







母「はぁ…フラれたわね?笑」






マサル「・・・そうだな…」







俺の子憎たらしい妹は…

お義兄さんから見たら

きっと…可愛い奥さんなんだろう…









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