一年前…

〈ユメノ視点〉









レイコ「アンタ悪阻がキツいんじゃなかったの?」







去年の様に

町内会の餅つきに参加していると

エプロンをつけた麗子さんが現れて声をかけてきた







「今日は体調もいいですし

 うちの鏡餅を作らなきゃいけませんからね」







レイコ「ふぅーん…丸めるだけにしなよね」







麗子さんとは

仲良しってわけではないけれど

商店街で会えば挨拶をしたり

こんな風に不器用な優しさをくれる






( ホントはいい人なんだろうけど… )






レイコ「蒼君に似た男の子産んでよね

   絶対に蒼君似!!分かった?」






「・・・私に似た女の子ですよ…」







麗子さんの嫌味に嫌味で返していると

「おはよう」と満太朗さんが来て

私と麗子さんを微妙な目でチラチラと見ては

「はは…」と乾いた笑いを浮かべていて

きっと町の皆んなもそんな目で見ているはずだ





( ・・・・・・ )






おじさんをずっと好きだった麗子さんの想いは

商店街中が知っていて…





一年前の餅つきの時とは

色々と変わっている雰囲気に

変な気分だった…






( ・・・2度と参加しないと思ってたのに… )






去年は…

おじさんの本当の婚約者ではなく…





勝手に餅つきに参加していた私を見つけ

皆んなの前でキツく睨まれたんだっけ…







「・・・懐かしいなぁ…」







そう小さく呟くと

「あら…」とおばちゃん達の笑い声が聞こえ

顔を向けるとおじさんが挨拶をしながら

空き地へと入って来ているのが見え

「あっ…」と和子おばちゃんの背中に隠れた…






( なんでココにいるの? )






商店街のお参りは午後からしか

入っていなかった筈なのにと

焦る気持ちからか体中が熱く感じ出し

鼻の頭に汗をかいているのが分かった






アオシ「・・・・夢乃…」





「・・・・はい…」






おじさんの低い声が聞こえて

和子おばちゃんの背中から顔を出すと

目を細めてコッチを見下ろしている

おじさんの機嫌が悪いのは明白で…





今年も勝手に来た事を怒られるかなと

恐る恐るおじさんを見上げていると

おじさんは眉を吊り上げたまま

「家で大人しくしてろって言ったよな」と言い…

「ごめんなさい」と謝ると小さなタメ息が聞こえた






「・・・来年も…ぜんざいを作ろうと思って…」







アオシ「・・・・・・」







鏡開きの日に作るぜんざいは

私にとって…特別な日だから…







父「明日は鏡開きをする

  自分で作った餅なら

  自分で…ぜんざいの準備をしなさい」







初めて…お義父さんから

家族だと認めてもらえた気がしたし…





あのぜんざいを作った日から

おじさんは少しだけ早く帰って来てくれる様になった…






だから、おじさんがお参り出て行ったのを見てから

お義父さんにお願いをして商店街まで送ってもらい

家の仏間に飾る鏡餅が作りたかった







「・・・丸めるだけにするから…」






そう小さく呟くと

「そうだよ!丸めるだけだよ」と

隣りにいた和子おばちゃんが

「心配症だね」と笑いだし

他のおばちゃん達も「そうよ」と

おじさんに近づいて行き笑っているけれど…






( ・・・もうッ! )






おばさん達は直ぐにおじさんに

ベタベタと触りだすから

油断もすきもあったもんじゃない!





ツカツカとおじさんの側へと行き

唇を尖らせていると

おじさんは眉をピクリとさせて

子供っぽい態度をとっている私に呆れている様だった






「・・・お参りは?」






アオシ「・・・今から行く」






おばさん達に触られる位なら

早く次のお参りに行ってと言う目で

おじさんを見ていると

「迎えに寄るから満太朗の店にいろ」と言われ

不貞腐れたまま「はい」と頷いた…




おじさんはおばさん達に「お願いします」と

声をかけてから空き地から出て行き

その背中を見つめていると…







カズコ「去年みたいに

   また、おっかない顔になるのかと心配したよ」






シズカ「ホント、ホント!」






おばちゃん達の言葉が耳に届き

遠くなっていく背中に「頑張って」と小さく囁いた






( ホント、去年とは全然違う…笑 )






今年のおじさんの不機嫌顔は

私を心配しているからだとちゃんと分かったし

前の様な冷たい視線でもはなく…




私がおじさんにとっての〝特別〟になったんだと

改めて実感した日だった…







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