未来…

〈アオシ視点〉








( ・・・・・・ )






アオシ「・・・おい…」






俺の後ろで毛糸で何かを作っている夢乃に

タメ息混じりに声をかけた






「ん?」






アオシ「・・・寝室あっちにいってろ…」







夢乃は毎日の様に

読経中の俺の後ろで作業をしているが

死者を送る時に使うこの経は

妊娠中の夢乃には

あんまり良いものではない気がして

寝室に行っていろと声をかけると

夢乃は「やだ」と言って言うこと聞こうとしない







( 火事なんかも見せるなって言う位だしな… )







讃美歌なんかならまだしも

このドスの効いた独特なリズムのお経を

腹にいるガキも

嫌がっているんじゃないかと思っていると

「子守唄なんだからちゃんと読んで」と

言う夢乃に「子守唄?」と顔を向けた






「だって毎日聞いて寝ていたら

 生まれた後もそれが子守唄になりそうじゃない?笑」








アオシ「・・・・・・」








ここじゃ毎日聞こえてくるのは当たり前だし

 寝かしつけも楽ちん楽ちん!笑」







アオシ「・・・・・・」







夢乃はバカで…

少し変わっていて…

こんな風によくVサインをしながら

鶏の事やこの寺での事を

誇らしげに笑って話している…





普通ならば

お経なんて縁起がいい物ではないこの歌を

子供のいる腹を撫でながら聞いたりしないだろう…







「アタシね蒼紫さんのお経が一番好き!」






アオシ「・・・他の聞いた事ねぇだろうが…」






「お義父さんのは聞いた事あるわよ!

 あと年末のテレビに流れるのとか?」






アオシ「・・・・・・」






「お経が聞こえてくると

 蒼紫さんがいるって感じがするし…

 なんか落ち着くんだよね…笑」






そう笑いながら手元の編み物を

チマチマと縫い上げる姿の夢乃を見つめた後に

幼少期の頃から使っているこの部屋を見渡した






( ・・・・・・ )






この部屋で誰かと一緒に寝たのは

夢乃が初めてで

あの時は勝手に部屋に忍び込んで寝ていた

夢乃に舌打ちをしながら

背中を向けて眠ったのを覚えている





そして…

初めて抱きしめて眠った日も…覚えている…





最初にいたあいつがいなくなった日で

夢乃の冷えた体を温める様に抱きしめた…







アオシ「・・・まさか…こうなるとはな…笑」







この…自分の部屋で誰かと

笑い合っている未来があるなんて

ガキの頃の俺には想像も出来ていなかった…






俺の呟きに「なに?」と顔をあげた夢乃に近づき

手元にある靴下らしき物体を見て鼻で笑った






アオシ「生まれるのは夏だぞ?笑」






「・・・いいの!

 直ぐに冬になるんだから…」







一瞬「あっ…」と言う顔をした後に

必死に大丈夫だと

言い張っている夢乃にまた笑みが溢れ

「だいたいデカすぎだろ」と

赤ん坊の足にしては大きすぎる靴下を指差すと

「1歳でも2歳でも使うの!」と

唇を尖らせている






アオシ「不器用だからな…笑」






「もうッ!早くお経読んで!」







夢乃が言った通り…

生まれてきた子供は

俺の経を聞くと大人しく眠りにつき…





1歳になる冬の年には

夢乃の作った毛糸の靴下を履いていた…












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