夢…
〈アオシ視点〉
ふと目を覚まし隣りに顔を向けると
俺の腕を首下に敷いて
眠っている夢乃の寝顔が見えた
( ・・・いつからだ… )
俺は腕枕なんて甘ったるくて
寝心地の悪いものは好きじゃなかった
だが…いつからか
少し重みのあるこの感じが妙に落ち着く…
( ・・・まだ…1時くらいか? )
体を少しずらし
枕上にある時計を見ようとすると
「んー」と小さな唸り声を上げて
俺の胸に擦り寄ってくる夢乃に
動きを止めて様子を伺った
「・・・・ふぅん…」
アオシ「・・・・・・」
楽しい夢でも見ているのか
夢乃の顔は笑っていて
小さく開いた唇からは「すーすー」と
寝息が聞こえている
寝るギリギリまで
「もうちょっと…」と
キスを
幸せそうに見えるその寝顔を見つめた…
( ・・・・・・ )
病院のエコー画面に映る
まだ人間の形もしていない
ただの丸い点を見つめながら
「見て」と俺の手を掴み喜んでいる夢乃に
「ちゃんと見てる」と手を握り返すと
医者や看護婦達のいる前で
俺の腕を引いて甘える様に
両手を巻き付けてきて
帰りの車の中でも
「どっちに似るかな」と
顔も出来上がっていないガキの話を
永遠と続けていて
よっぽど嬉しいんだなと思った
夜…読経を終えて寝室へと行くと
今日もらったばかりのエコー写真は
すでにヨレヨレとくたびれていて…
ずっと握りしめたまま
飽きることもなく眺め続けていたんだろう…
アオシ「・・・・・・・」
夢乃に違和感を感じ出したのは
1週間ほど前からだったが
それよりも前から一人で悩んでいたのが分かり
「いつ気付いたんだ」と問いかけた
「最初は生理が遅れてて…
まさかって思ってたんだけどね…気をつけてたし…」
アオシ「・・・気をつけてた?」
俺は昨日初めて
夢乃が基礎体温を調べていた事を知り
夏からずっと俺とそうなる度に
多少なりの不安を与えていたんだと知った
( ・・・・・・ )
「・・・あのね…」
夢乃は少し目線を泳がせながら
エコー写真を俺に差し出してきて
「あの…」と言葉を濁しているから
俺がどう思っているのか不安なんだろう…
俺は「嬉しい」とも「よくやった」とも…
妊娠を聞いた旦那が答える様な
世間一般な言葉を夢乃に与えていなかった…
( だから不安なんだろう… )
アオシ「・・・・・・・」
正直…夢乃ほど…
まだ全てに置いてピンッとはきていないが…
アオシ「・・・弥来といるお前を見ていて
「・・・えっ…」
アオシ「だからこそお前は妊娠をしている…」
俺の言葉の意味が
あまり分かっていない様だったから
夢乃が差し出しているエコー写真を手に取り
「ガキは勝手にはできねぇ」と伝えると
夢乃は目をパチパチと瞬きさせ
「え?」と驚いていた
全く妊娠をさせる気がないのであれば
もっと確実な避妊をしている…
そうしなかった俺は…
きっと、どこかで
夢乃の妊娠を願っていたんだろう…
父「親が子を産むのではない…」
アオシ「・・・・・・」
父「・・・子がお前達を親にしていくそうだ…」
お袋が俺の古いアルバムを出してきて
夢乃に見せているのを遠目に見ていると
俺の隣りに立つ親父がそう言ってきた
父「私は…中々そうなれなかったが…
お前はきっと…いい父親になる」
アオシ「・・・・・・」
親父に…「親父」という感情を持ったのは
ハッキリ言って最近だ…
それまでは「住職」と言う存在の方が大きく
普通では無い親子関係だと感じていた事が
親父にも何となく伝わっていたんだろう…
( 俺が…いい父親に… )
親父の言う「いい父親」がどう言う者なのか
自分ではまだ分からないが…
アオシ「・・・お前はきっと、いい母親になる…」
そう小さく囁いて
眠る夢乃を抱きしめて瞼を閉じた…
陽の当たる縁側で…
鶏が鳴くあの庭で…
子供と笑っている夢乃の姿が想像でき
息子が生まれれば
2月になると毎年…
また、奇妙な形のおはぎを作るんだろうと思いながら
夢乃の様に幸せな夢の中へと落ちていった
・
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