ヒヨコ…
〈ユメノ視点〉
ワダ「いらっしゃい
今日はとうもろこしかい?笑」
「いえ…あの少しだけ
ヒヨコを見てていいですか?」
お醤油を買った帰りに
だーさんのお店へと立ち寄り
ひよこ達が沢山入ったケースをジッと眺めた…
( ・・・怒ったかな… )
昨日の夜…
初めておじさんを拒んだ…
「・・・違うのに…」
「ヤッ…」とおじさんの身体を突き放した時の
おじさんの顔が頭から離れず…
あんな顔をさせたくないのに
ちゃんと話せないでいる自分に
「バカだな」と呟いた…
麻梨子に頼んで検査薬を速達で送ってもらい
昨日のお昼に誰もいない家の中で
そっと検査をした
「・・・・・・」
ピヨピヨと鳴いている小さな雛鳥達を眺め
自分のお腹に手を当て優しく撫でながら
「ダメなママだね」とタメ息を溢した
検査薬は箱に記載されていた
待ち時間も経たないうちに
ハッキリと陽性のマークが浮き上がってきて…
手洗い場にある鏡に映っていた
私の顔は…笑っていた…
愛する人の子供が
自分のお腹の中にいると分かって
嬉しくないわけがない…
( あんなに… )
あんなに…
あの人だけがいればいいと思っていたはずなのに
検査薬を見た私は
この子を守らなきゃと思い…
パタパタと早足で台所へと行き
冷蔵庫の中を見渡して
頂き物のヨーグルトが目に入り
パッと手に掴んだ
何が正解なのか分からないけれど
ここでの食事だけでは
お腹の子には栄養が足りないんじゃないかと
不安になって戸棚から
おにぎり用の海苔を取り出し
台所の洗い場の前で
ヨーグルトと海苔をパクパクと食べだした
おじさんが子供を望んでいない事は
ちゃんと分かっている…
それでも…この子を手離したくはない…
「・・・・・・」
ケースの中にいるヒヨコ達は
私の掌の大きさもなく小さいけれど…
私のお腹にいるこの子は
きっと…もっと、もっと小さいんだろうな…
「・・・どっちだろう…」
女の子と男の子どっちなんだろうと
考えていると「ゆめちゃんだ!」と
幼い声が耳に届き「へ?」と
顔を後ろに向けると
翔さんと弥来君の姿があり
「ゆめちゃん」と私を呼びながら
弥来君が駆け寄って来た
ショウ「こら!汚れた手で触るなよ!」
翔さんの言葉に弥来君はピタリと立ち止まって
自分の掌をジッと眺めると
その眉はどんどん垂れ下がっていき…
「おててがきちゃないの」と言って
唇をへの字にして困った顔をしている
ショウ「ウェットティッシュ出すから待ってろ」
弥来君に近づいて行き
掌をヒョイっと覗きこむと
チョコレートが所々についていて
きっと駄菓子屋さんの帰りなんだろう
「ふふ…美味しかった?笑」
翔さんからウェットティッシュを受け取り
弥来君の掌を拭いてあげると
照れた笑顔で「とりさんいてね」と
駄菓子屋さんの庭にいる鶏達の話をしだした
ショウ「鶏飼って、飼って五月蝿いんだよ…笑」
「鶏をですか?」
ショウ「鶏を飼って
夢乃ちゃん家に毎日連れて行きたいんだってさ」
8月頭に1週間だけ弥来君を
預かった事があり
それ以来私に懐いてくれているのは
何となく分かっていたけれど
「俺の顔を見るなり夢ちゃんは?だもんな」と
笑っている翔さんの話を聞き
「おいで」と言って弥来君を抱き上げた
( ・・・弥来君みたいな子がいいな… )
ニーコの様な女の子も欲しいけれど
弥来君を見ていたら
男の子もいいなと思えてきた
( おじさんは…やっぱり
弥来君を預かっていた時のおじさんは
和菓子を買って帰ってきたり
弥来君を膝に乗せて笑っていたから…
子供が嫌いなわけじゃないよね…
ショウ「なんだ待ち合わせだったのか?」
翔さんの言葉に「え?」と
顔を入り口に向けると
私にではなく、おじさんに言った言葉だった様で
翔さんは私に背を向けて
入り口から入って来たおじさんに顔を向けている
昨日の気まずさから
朝も顔を合わせない様にしていて
どんな顔をすればいいのか分からない私は
弥来君を抱っこしたまま
ヒヨコのケースへと顔を向けた
( ・・・いつまでも隠し通せない… )
そのうち
お腹だって大きくなったくるし…
おじさんにちゃんと伝えたい…
本当はおじさんに甘やかしてほしいって…
嫌じゃないんだって…
( 大好きだって…伝えたい… )
アオシ「弥来、コッチに来い」
おじさんの履いている
草履の足音が近づいて来て
そう言っているのが聞こえたけれど
弥来君は「ゆめちゃんがいいの」と言って
私の着物をギュッと掴み
離れる気配はなく…
どうしようかと目線を合わせられずにいると
「夢乃がキツいから来い」と
私の腕から弥来君を抱き上げ
パチッと合った目を思わず逸らしてしまった…
( ばっ…バカ! )
こんな避けるみたいな真似したくないのに
逃げ腰な自分がどこまでも嫌になる…
アオシ「・・・夢乃」
おじさんから呼ばれ
恐る恐る顔を上げると
おじさんの顔は私の前にある
ヒヨコのケースへと向けられていて
数秒程眺めた後に
ゆっくりと私の方へと顔を向けると…
アオシ「・・・お前…妊娠してないか?」
「・・・・えっ…」
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