手…

〈ユメノ視点〉









( ・・・・なんか… )






朝食を食べていると

喉の奥に異物が上がってくる様な気がして

初めて感じる不快感に

思わず胸に手をパッと当てると

向かいの席に座っていたおじさんが

「どうした」と顔を向けて来た






「カボチャ…大きく切り過ぎたみたいで」






手に持っていた

お味噌汁のお椀を少し高く持ち上げて

「へへ…」と笑って誤魔化すと

隣りの席から「コホン」と

お義母さんの咳払いが聞こえ

「すみません」と顔を横に向けて頭を下げた





ここでは食事中の会話は厳禁で…

おじさんが決まりを破って口を開いたのは

初めての事だったから少し驚いたけれど…






( ・・・もしかして… )






私を気遣ってくれたおじさんに

嬉しく感じた思いは直ぐに消え

胸から喉にある違和感に不安が大きくなった






「・・・・・・」






箸を動かしながらも

口に運ぶ食事の味は全く感じず…

皆んなの…おじさんの前で

吐いてしまうんじゃないかという

不安がよぎり…





パクパクと急いで食事を済ませると

「お先に失礼します」と言って

自分の食べ終えた食器を持って

早足に台所の方へと向かった






( ・・・検査薬どうしよう… )






この町で検査薬を買えば

おじさんの耳にも入ってしまう…




由季ちゃんのお店には置いていないし

私の妊娠を楽しみにしている

お義母さんに相談すれば

何故隠すのかと不思議に思うはずだ…





「・・・・・・」





どうしようと

洗い場に立ったまま動けないでいると

「おい」と言うおじさんの声に驚き

手に持っていた食器を

洗い場にガシャンッと落としてしまった







「あっ…」






ヒビが入ってしまったんじゃないかと

食器に手を伸ばすと視界におじさんの手が映り込み

私の手をパシッと掴んで

「お前やっぱり体調が悪いんじゃねぇのか」と

眉を寄せた顔で問いかけてきた






「手が…滑っただけだよ…」






アオシ「・・・・・・」







おじさんに知られたくなく

私の嘘や考えを

見透かしてしまうんじゃないかと言う程に

真っ直ぐとコッチを見るおじさんの目に

少しだけ怖さを感じた私は顔を下に向けて

「今日は寒いから温かいお茶にするね」と

話を逸らして

水筒に煎れるお茶の準備をしだした






母「何かありました?」






食器の音を聞いたお義母さんが

居間の方から食器を乗せたオボンを持って現れ

「手が滑ってしまって」と笑って答えていると

おじさんは何も言わないまま台所から出て行き…

ホッと息をついた…





出来るだけいつも通りに振る舞おうと思い

水筒を手に持っておじさんの見送りについて行くと

おじさんは駐車場に着くまで何も話さなく…






私も口を閉じたまま

おじさんの袖を握って歩きつづけた






車の前で「はい!」と笑いながら

水筒を差し出すと

おじさんは水筒を数秒見つめた後に

顔をコッチに向け

「着物…辞めるか?」と言ってきたから

「えっ?」と驚いていると…






アオシ「着物の締め付けがキツいんじゃないのか?」






おじさんは目線を少し下げて

私の帯の辺りを見ていて…






( ・・・あっ… )






自分でも気付かないうちに

手が帯の下に当てられていた…






( ・・・・・・ )






おじさんから見れば

帯を触っている様に見えているんだろう…






( ・・・・あたし… )






私が手を当てていたのは

きっと…






アオシ「・・・・・・」







おじさんの顔が見れないでいると

ジャリっと一歩近づいたおじさんの足が見え

頭に温かい重みを感じた後に「行ってくる」と

離れて行く背中に顔を向けた






「行ってらっしゃい」と

駐車場から出て行く車を見送り

両手をお腹へと持っていって

「ごめんね」と小さく呟いた…










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