心音…

〈ユメノ視点〉









「・・・・来ない…」







朝目を覚まして

トイレに行って下着をズラしてみても

下着に取り付けられた生理用品に

赤い染みはついてなくて

また胸の音が大きく響き出した…







( ・・・今日で…13日… )







下着を上に戻し

トイレから出て寝室へと戻ると

まだ寝ている筈のおじさんが

布団から上体だけを起こして座っていた







「あれ…もう起きたの?」







まだ3時半を過ぎたばかりで

おじさんが布団に入って

4時間しか経っていなかったから

「もう少し寝たら」と声をかけると

おじさんはジッと私を見て

「体調が悪いのか?」と問いかけてきた






「・・・へっ…」






いつもの様に起きて

トイレに行っただけの私に

体調が悪いのかと問いかけてくる

おじさんの目にドキッと

胸の辺りがざわめいた






アオシ「・・・顔色わりぃぞ…」






そう言うと布団から立ち上がり

私に近づいて来て

額に手を当ててきたから

自分の頬に手を持っていき

「生理だから貧血気味になったのかな」と

誤魔化す様に一歩後ろに下がると






アオシ「・・・熱…測ってみろ」






そう言って

居間の救急箱にある筈の

体温計を私に差し出してきて

「体調悪いなら休め」と

頬から首回りに手を伸ばし

私の身体の熱を確かめている様だった…






「生理中は熱が高くなるんだよ」






心配しているおじさんに

そう笑って教えると

女性特有な事だからか

少し気まずそうに目線を逸らし

「そうか…」と言って

私の手を引いて布団へと行き

もう一度布団に身体を横たえ様としだしたから

「朝の準備しなきゃ」と時計に目を向けると

「4時までここにろ」と

おじさんの胸の中に閉じ込められた






「・・・・・・」






私の頬に感じる

おじさんの心音に目を閉じて

ゆっくりと一定のリズムで

脈を打つその音に

ドグン、ドグンと嫌な音を立てていた

自分の心音がいつの間にか同調し…

聞こえるのは頬に届く

優しい心音だけになっていき






( ・・・あたたかい… )






おじさんの腕の中が世界で一番好き…






お寺の庭先を並んで歩くのも

お勤め中のおじさんを

見つめるのも好きだけど

私だけのこの場所が…大好き…






「・・・蒼紫…」






自分の声が耳に届き

自分でも気づかないうちに

無意識におじさんを呼んだのが分かった






アオシ「・・・いつ終わる」






おじさんが抱きしめる腕を強め

そう問いかけてきたから

「もうすぐ」とだけ答え

胸に顔を擦り寄せて

閉じている瞼の裏に熱いものを感じながら

時間まで目を閉じ続けていた









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