変化…

〈ユメノ視点〉








「ふぅ…」





汗をかいた額のをハンカチで押さえながら

息を吐き帯の締め付けから意識をそらそうと

空を見上げ紅葉の見え隠れしている山を見つめた






( 11月か… )






秋も過ぎたはずなのに

手首から足首まで

しっかり隠れている着物生活に

まだまだ慣れないのか

毎日汗をかいていた






「・・・あっ…今月の予定表書かなきゃ」






商店街の檀家さんの家へ届け物をし

歩いて帰っているけれど

靴と違って草履だと歩く速度も落ち

着物が着崩れしない様にと

歩幅を狭くして歩く為

いつもより時間がかかってしまう






14時過ぎには来客もあるから

早めに帰ってピーコ達を小屋にいれて

洗濯物を取り込んで畳んで…





お寺の掃除大丈夫だよね…

もう一度軽く噴き上げた方がいいかな…

夕食は16時から作って…






頭の中でやる事を整理していると

予定表は夜に書かないとダメかなと思い

今日も眠れるのは0時位になりそうだなと

歩く足を少し早めると

「夢乃」とおじさんの声が後ろから聞こえ

顔を向けるとおじさんの軽自動車が私の隣りに停まり

運転席の窓がウィーンと下がった






アオシ「乗れ」





「今お参り途中じゃ?」





アオシ「時間がねぇから早くしろ」






パタパタと助手席側へと回り

ドアを開けて車の中へと体を入れると

甘い匂いがして「和菓子?」と

おじさんに顔を向けると

「よく分かったな」と驚いていた





「餡子の匂いがするもん」





アオシ「アンの匂い?お前鼻がいいんだな?笑」






お参り先でもらったお菓子を私に差し出してきたから

「夜食べよう」と受け取って

可愛い桃色の包み紙に包まれたお菓子を

眺めながら少し…不思議に感じた…






( ・・・・・・ )






アオシ「あと一軒だけだからソレでも食って待ってろ」






おじさんはお寺とは違った方面へと

車を向かわせ出し

着物の私に気を遣って

わざわざあの道を通り

私を拾ってくれたんだと分かった






アオシ「まだ入ってるから飲め」






ドリンクホルダーにあった水筒を手に取り

「飲め」と渡してきたおじさんに

「喉乾いてないから大丈夫」と伝えると

おじさんはチラッと私を見て

冷房のスイッチを押し

「いいから飲め」と言っていて…

私の額横に流れていた汗を見て

きっと気を遣っているんだろう





11月頭とはいえ

秋も終わりに入るこの季節に

冷房をいれるなんてあまりない事で

風邪でもひいたら大変だと思った私は

「熱くない」と言って冷房を切った






今からお経をあげるおじさんに

水筒のお茶は必要だし…






( お寺まで我慢できる… )






檀家さんの家から少し離れた空き地に車を停めると

「20分程で戻る」と車から降りて

歩いて行くおじさんの背中を眺めながら

帯に手を当てて「苦しい…」と呟き

助手席のドアを開けて

空き地に足を降ろして地面に立ってみると

座っているよりも楽で

「はぁー」と息を吐き

後何時間で脱げるんだっけと考えた






「・・・1、2、3…」






( ・・・今日で7日… )






毎朝検査する体温が少しだけ違う…

そして…本来なら始まっている筈の

生理がきていなくて…





「忙しいと乱れやすいんだよね…」





と言ってあまり気にしていなかったけれど

今日の朝…まだ生理がきていない事を

アプリに打ち込むと

病院受診を勧める文が表記された…






( ・・・・・・ )





手にあるお菓子の包みに目を向け

だいぶ前に麻梨子が妊娠したかもと騒ぎ

ネットで色々調べた事があり…




妊娠をすると匂いに敏感になりやすいと

記載があった事を思い出した…






「・・・餡子の匂いなんて…分かってたっけ?」






ドグン…ドグン…と

身体中に心音が響くなか

涼しい風の吹く空き地でボーっと立っていると

「どうした」と聞こえた声に肩をビクッと揺らした






アオシ「やっぱり熱いんだろうが」






いつの間にか20分は経っていた様で

お参りを終えたおじさんが

車のエンジンをかけ

また冷房のスイッチを押しているのが見えた






アオシ「変な気遣ってねぇで飲め」






「・・・お水が飲みたいから帰ってから飲む」





アオシ「水?」






あの水筒の中身は緑茶で…

多少なりともカフェインが入っているはずだ…






助手席へと座り

おじさんの方へと顔を向け

「蒼紫…」と寝室でしか呼ばない

呼び名を口にすると

ギアを操作していた手を止めて

私の方へと目線を向けた





「・・・ぎゅってして…」





アオシ「・・・なんかあったか?」






きっと…

いつもなら「外だぞ」と眉を寄せる…




だけど目の前のおじさんの表情は

呆れた感じとはまた違ったシワが寄っていて

こんな所でこんな事を口にしている

私に何かあったのだと気づいたようだ…






「なんでもない…

 生理きて身体がダルいから

 変な事言っちゃったかな?笑」






甘えた雰囲気を出した私を

おじさんは今晩甘やかす様な気がして

咄嗟に「生理」と口にして

一週間はそう言う事が起こらないようにした…







( 遅れてるだけかもしれないし… )







もし遅れていて

この一週間のうちに生理が始まれば

問題はない…





でも、もし…

一週間経っても生理が来なければ…








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