モノクロ…
〈ミツタロウ視点〉
窓の外に顔を向けて
かれこれ1時間近くになり
通り過ぎたのかと思っていると
目当ての人物が右から歩いて来たのが見え
ガタッとパイプ椅子から立ち上がって
「蒼紫!」と呼び止めた
アオシ「・・・・・・」
蒼紫は俺の顔を見ると
ピクリと眉を動かして
何の用だという目を向けている
ミツタロウ「今帰りか?」
アオシ「今から最後の家を回るところだ」
ミツタロウ「あー…そうか…」
蒼紫は目を細めたまま
コッチを見ていて…
きっと、俺のニヤついた表情に
嫌な予感でもしているんだろう…
5時間前に店の前を
顔を曇らせた夢乃ちゃんが早足で歩いていて
体調でも悪いのかと思い
気になって後を追いかけると
夢乃ちゃんは時計屋に入って行った
( ・・・時計? )
中を覗くと亭主のおじさんと
何か話していて
「ダメですか…」と悲しい声を出している
俺は少し
夢乃ちゃんに近づいて行くと
俺に気付いたおじさんが
「いらっしゃい」と声をかけ
振り向いた夢乃ちゃんも「あっ…」と言って…
ミツタロウ「・・・・・・」
「・・・・見ました?」
台に乗った時計をパッと手で隠しながら
眉を下げて問いかけてきた…
( ・・・目覚まし時計だよな? )
夢乃ちゃんが隠した黒い時計は
針の部分が折れていた様に見えたから
きっと壊した時計を修理に来たんだろう
亭「残念だけど…修理してもなぁ…」
「・・・・・・」
亭主の言葉に顔を下げ
手の中にある時計へと目を向けているが
その表情は悲しそうで…
不思議だった…
至って普通の目覚まし時計にしか見えず
形もシンプルな四角だし色も黒くて…
夢乃ちゃんのイメージではない気がしたからだ
( 夢乃ちゃんならピンクとか… )
亭「若住職からのプレゼントだもんな…」
おじさんの言葉に
「え?」と夢乃ちゃんを見ると
顔を赤くしてヒビの入った盤面を手でなぞっていた
( 蒼紫からの… )
夢乃ちゃんは朝から布団を干そうと思い
畳んだ布団を持って庭へと出て
物干し竿に布団をかけようとしたら
布団の間に挟まっていた目覚まし時計が
床へと落ち壊れてしまったらしい…
ミツタロウ「わざとじゃないんだし…
蒼紫だって許してくれると思うよ」
「・・・・・・」
夢乃ちゃんは「そうですけど…」と
眉を下げたままで
おじさんが売り場へと行き
「コレなんてどうだい?」と
持って来た目覚まし時計は
丸い形をしたパステルカラーの可愛いデザインで
「夢乃ちゃんポイッよ!」と
俺も勧めてみたけれど
唇を小さくへの字型にしたまま
「可愛いですね…」と呟くけれど
黒い目覚まし時計から手を離さず
ずっと握ったままだ…
ミツタロウ「黒いのがいいの?」
カラフルな目覚まし時計を見せても
首を縦に降らないから
意外と落ち着いた色合いの方が
好きなのかなと思って問いかけてみると…
「・・・似てるんです… 」
ミツタロウ「え?」
蒼紫から貰った至って普通の
黒いボディーに白い盤面の目覚まし時計は
蒼紫が毎日着ている袈裟と同じ色で…
ミツタロウ「蒼紫が遠方のお参りに行って
帰りが遅い時とかには
あの時計と一緒に寝てるんだってさ!笑」
アオシ「・・・・・・」
可愛い時計じゃきっとダメなんだろう…
蒼紫から貰った
あの色をした目覚まし時計だからこそ
蒼紫の変わりになるんだろうから…
蒼紫は少しだけ驚いた表情を見せたが
直ぐにいつもの真顔に戻り
「檀家の家に行く」と言って
背を向けて歩いて行き…
数十分後にまた店の前を通った蒼紫の手には
あの時計屋の袋が握られていて
「やっぱり買って帰ったな」と
笑って呟いた…
ミツタロウ「夢乃ちゃん、今日はこのまま帰ったらいいよ」
「・・・え?」
ミツタロウ「大丈夫!俺に任せてみてよ?笑」
壊れた目覚まし時計を持って
肩を落としたまま帰って行った夢乃ちゃんは
あと15分ほどで
いつもの可愛い笑顔に戻っているはずだ…
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