可愛くて…
〈アオシ視点〉
アオシ「・・・もう台所か?」
いつもはまだ庭で
卵を産んだ鶏達を褒めて遊んでいるはずだが…
庭には4羽の鶏が自由に歩いていて
夢乃の姿はない…
不思議に思い台所の方へと足を向かわせると
お袋の声が聞こえ
また何か失敗をして
小言を言われているのかと思い
そっと中を覗くと
母「茹で卵にするの?」
「茹で卵の方がパッと食べれるかと」
今日とれた卵をどう料理するのか
話しているのかと少し安心し
足元に近づいて来た1羽に目を向け
寺に行こうとしたら
「あぁダメよ」とお袋の声が聞こえ
一歩出した足を止めた
母「お塩入れ過ぎよ」
「でも…陽射しもあるし…
汗も沢山かくと思うんです…」
( ・・・・・・ )
昨日の夜「袈裟…真っ黒だし熱くないの?」と
俺の腕に頭を乗せて
重い瞼をこすりながら問いかけてきた事を思い出し
夢乃が言っている汗をかく人物が
自分であると何となく分かった
( ・・・・・・ )
夢乃は俺の為にヒヨコを持ち帰ったり
足袋を手洗いしたり…
奇妙なおはぎを作ったりと
いつも俺を中心に行動をしていて
お袋が「住職」とオヤジに
尽くしていた姿と…
少しだけ重なって見える気がした…
「あっ…黄身が…
お義父さんのだしいいか…」
母「夢乃さんッ!」
中から聞こえてきた会話に
「バカが…」と呆れていると
小さな笑い声が後ろから聞こえ
顔を向けると腕組みをしたオヤジが
小さく笑って立っていた
アオシ「・・・すみません」
父「形は違えども
いい坊守になるのかもしれんな」
まだまだ夢乃に
誰がも分かっているが…
母「前住職の朝食に
そんな形の目玉焼きを出す気ですか!?」
「黄身が割れちゃって…
蒼紫さんはしっかり焼いた方が好きだし…
お義父さんの好きな半熟は難しくて…」
母「残りの卵はどうしたんです?」
「今日はマルちゃんはお休みの日だったから
残りの一個は今茹でてます」
3つ取れた卵のうち2つも
俺に食べさせようとしている夢乃に
「はぁ…」とタメ息を吐き
オヤジと寺の方へと歩いて行きながら
もう直ぐ訪れる夢乃の25歳の誕生日の事を考えた
「あのね…一緒にお風呂がいい!」
アオシ「・・・・・・」
「何が欲しい」なんて事を口にしたのは
初めてだったが夢乃から返ってきた答えが
普通でない事は分かった…
アオシ「また泊まりに行きてぇのか?」
そうそう寺から離れられない事は知っているし
あの宿がそんな頻繁に泊まれる額でない事は
夢乃も分かっている筈だがと問いかけてみると…
「泊まりじゃなくて
家のお風呂に一緒に入りたいのッ!笑」
アオシ「・・・他のにしろ…」
数日経った今も考えを変えない夢乃に
頭がイタイと感じていて
お盆時期の今、中々買いにもいけず
どうしたらと考えていた…
( 商店街なんかで買えばまた面倒だしな… )
朝イチの参りが7時から始まるから
早めに食卓へと座ると
オヤジの皿には
半熟の黄身がデロッと溢れでた
なんとも不細工な目玉焼きが乗せられていて
額に手を当ててまたタメ息を吐いた…
「はいッ!いっぱい食べてね!笑」
アオシ「・・・・・・」
12日の今日から14日までの3日間は
お参り件数が多く朝から夕方過ぎまで
ギッシリと埋まっている…
そんな俺に
沢山食べろと米が山盛りに注がれた茶碗と
具が沢山に入った味噌汁が差し出され…
食事後の今…胃がだいぶ重てぇ…
( 塩分よりも胃薬の方が必要かもな… )
参りの準備を終えて外に出ると
鶏が鳴き声を上げて近づいてきて
その声を聞いた夢乃が
「ありがとうマルちゃん」と言って
何かを持って駆け寄って来た
アオシ「・・・番犬みてぇだな…」
何かあれば鳴き声を上げて
ご主人に知らせる犬みたいだなと
鶏と夢乃を見て言うと
「卵まで産むし優秀でしょ!」と
得意げにピースサインをしている
( ・・・・・・ )
雨が降らない日は必ず
夢乃は俺を駐車場まで見送り
「言ってらっしゃい」と言って
水筒を手渡してくるが
今日は弁当箱なんかを入れる
小さな保冷バックも一緒に手渡され
朝話していた茹で卵かと思い中を覗くと
アルミホイルに包まれた丸い物体が2個入っていた
「おにぎりも作ったから
お参りの合間にちゃんと食べてよ?」
そう言って少し照れた様に笑う夢乃に
「誕生日何がいい?」ともう一度問いかけると
細めて笑っていた目がパチッと大きくなり
「一緒にお風呂」と言ってきたから
顔を寄せて触れるだけのキスをし
「秋過ぎになるぞ」と言った
いつだったか満太朗から
「蒼紫は夢乃ちゃんに甘いからな」と
言われた事があったが…
そうかもしれないなと思った…
( 俺は夢乃が可愛くてたまらない… )
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