寂しい…
〈ユメノ視点〉
「終わった?」
麦茶を手に持って襖を開けると
「今日は、はぇな」と笑った顔を向ける
おじさんに「ふふ…」と笑い返してから
麦茶をテーブルへと置き
おじさんの隣りへと腰を降ろした
アオシ「今日はソッチでいいのか?」
「だって後…2日だもん…笑」
いつもはおじさんの足の間に座り
おじさんにもたれ掛かりながら話をするけれど
今日は隣りで手を繋ぐだけにしておきたかった
( ・・・明後日には… )
アオシ「ふっ…いよいよ明後日か…」
テーブル端にある卓上カレンダーに目を向けて
小さく笑うおじさんに
「今日が最後の35分だね」と手を伸ばした
今日は7月5日で…
明後日の7月7日には
私は…おじさんのお嫁さんとなる
アオシ「そうだな…
明日は家族とゆっくり過ごせ」
明日にはお母さん達がコッチに来て
私は自分の家族と一緒に
近くの民宿に泊まる事になっているから
八重桜 夢乃としておじさんと過ごす夜は
今日が最後だ…
「・・・寂しい?笑」
アオシ「・・・・・・」
おじさんの顔を覗き込んでそう問いかけると
何も答えずに麦茶の入ったコップへと手を伸ばすから
もう一度「寂しい?」と繋いでいる手を
揺すりながら問いかけた
アオシ「・・・・朝には会えるだろうが…」
「お昼過ぎから会えないのよ
夕飯だって別々だし…
朝食もアッチで食べるし…
18時間位離れちゃうんだよ?」
アオシ「・・・・・・」
おじさんは私に甘くなった…
抱き寄せてくれるし
キスだって…おじさんからしてくれる
だけど…言葉はあまりくれないままで…
好きや…愛してるは…
まぁ…おじさんのキャラ的に
あまり口にしないのは分かっているからいいけど
離れる事に「寂しい」と言ってほしい…
おじさんの顔を見つめていると
コトッとコップをテーブルに置く音が
妙に大きく聞こえた気がして
しつこく聞きすぎたかなと
目線をコップへと向けた瞬間
クイッと顎を掴まれ
唇に感じる暖かさに
おじさんが態度で答えてくれようとしているのが分かり
「私も…寂しい…」と目を閉じた
しばらく続くキスに
息が少しずつ苦しくなってきて
おじさんの服をギュッと掴むと
唇がそっと離され
おじさんの目と視線が交わり
「好き…」と口にすると…
アオシ「・・・寂しかった…かもな…」
一瞬…明日の事かと思ったけれど
おじさんの言葉が過去形な事に気付き
「え?」と問いかけた
アオシ「・・・庭で鳴いてたアイツ程じゃなかったが…」
「・・・・・・・」
アオシ「お前が居ないと…
おじさんの言っているアイツは
多分土の中で眠っているニーコの事で…
半年以上前に私がした
問いかけの答えを今くれているんだと分かった
「・・・・忙しくて…寂しくないんじゃなかったの?」
アオシ「・・・・・・」
おじさんはあの時…
紫色のお菓子を私に買って帰って来て…
年末に怒鳴った事に対して
「悪かった」という意味なのかとずっと思っていた…
「・・・おじさんは…口下手だから分からないよ…」
アオシ「・・・・悪かったな…」
少しだけ眉をピクリとさせたおじさんに
クスリと笑みを溢し
「どの位寂しかったの?笑」と問いかけた
アオシ「・・・鶏の…半分…の半分位じゃねぇか?」
「4分の1じゃないのよ…」
唇を突き出して「もうッ」と
おじさんの腕を叩くと
「あんな風になったら可笑しいだろ」と言う
おじさんの言葉を聞き
あの時のニーコが私を恋しがって
泣きながらお寺の方へと行く姿が
頭に浮かんできて
今のニーコは大丈夫かなと少し心配になった
「明後日の朝…ニーコ泣かないかな?」
アオシ「・・・・明明後日の朝も鳴くかもな…」
「・・・明明後日?」
どうして明明後日の朝も泣くんだろうと
不思議に思い問いかけると
おじさんが引き出しから何かを取り出して
私の前に差し出して来た
「・・・・これ…」
アオシ「・・・新婚旅行なんかには
当分連れて行けれねぇからな…」
「明明後日のお参りは?」
アオシ「朝の数件だけは
時間帯をずらしてもらってある」
「ゆっくりは出来ねぇけどな」と
申し訳なさそうに話すおじさんにキスをして
謝ろうとする唇を塞いだ…
住職になったばかりのおじさんと
遠出や旅行が出来ない事は分かっていたし
新婚旅行なんて…初めから頭になかった…
ただ…
このお寺でずっと二人で過ごせれば
それでよかったから…
「・・・ふふ…楽しみだね?笑」
そう言っておじさんの顔に
また唇を寄せた…
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