桜…

〈ユメノ視点〉









和「夢乃ちゃん、夢乃ちゃん!笑」






ピーコ達のオヤツを買いに

まだ陽が高く上がりきっていない

朝の9時に商店街を歩いていると

よくお菓子をくれる和菓子屋の和久さんが

お店から顔を出して手招きをしていた






( ・・・あっ! )






アオシ「・・・・お前…

   あんまり商店街の檀家達から色々と貰うな…」





「・・・あげるって引かないんだもん…」






昨日の夜…

おじさんの胸に背中を預けて座り

「聞いててね」とお経を読み上げていると

頭の上から聞こえきた言葉に読むのを辞めて

眉を下げながら答えた…





おじさんの言いたい事は

何となく分かってる…


 



来週になれば

カレンダーが1つめくれて7月となり…

私とおじさんの婚礼の義まで2週間を切る





だーさん達が

私によくしてくれているのは

坊守だからで…

頑張れって意味なんだろうけど…






七夕の日になれば

私は正式に蓬莱家へと嫁いだ事になり

9月には弦蒸寺の坊守となるわけで…






母「9月からは行事の際には着物を着なさい」






今の私じゃ貫禄も無く…

とても坊守には見えないから…




少しでも落ち着いて見える様にと

お義母さんが着物を何着か買い揃えてくれた






いつまでも

甘えてばかりじゃいられないし

早く一人前の坊守になりたい…






今日こそは断ろうと思い

(よしっ!)と胸の中で意気込んでから

和久さんに近づいて行くと

ニッとした顔で「買い出しかい?」と問いかけてきた






「はい、ピーコ達のオヤツを買いに」






和「4羽もいたら直ぐになくなるだろう?笑」






「はい…笑」






最近じゃマルちゃん達も

ピーコに負けず劣らずの勢いで

オヤツとご飯をよく食べてくれる





( ニーコは相変わらず控えめだけど… )





ニーコはヒヨコの時と変わらず

気が弱い様で

年下のマルちゃん達にも

尻込みをして数歩下がるから

ニーコの分だけは

私の掌に乗せて食べさせてあげているけれど…





ニーコだけを特別扱いすると

ピーコが直ぐに不貞腐れて

お寺の方へと行こうとしだすから

来客中とかは少しだけ困っていた





( だーさんか畠さんに相談しようかな… )






和「まぁーピーコちゃん達も卵を生み出したし…

  タマちゃん達も8月頃かな?」





そう…

先月からピーコとニーコが卵を産むようになり

また朝ごはんに卵を毎日だすようになっていた





2個あると

小さい卵焼きも作れて

お義母さんやお義父さんも食べてくれるし…





皆んなで食べた方がおじさんも

喜んでいる気がした






「8月からはオムライスとかも作りたいです」





和「オムライスか!いいね

  それじゃピーコちゃん達に

  しっかりとトウモロコシを食べさせないとな?笑」







「はい」と笑いながら答えると

和久さんがいつもの様に

小さな紙袋を差し出してきたから

今日こそはと思い「気持ちだけ頂きます」と伝えると






和「気持ちと一緒に持ってってくれよ!笑

  夏からの新商品も入っているし

  ほら!祝言の手土産用の試作品も入ってるからさ」






「もう作ってくれたんですか?」






数日前にお義母さんと和久さんのお店へと行き

お土産の品を頼みにいったら

「オリジナル商品を作ってあげるよ」と

言っていたけれど…

この数日でもう作ってくれたのかと驚いた…






和「そりゃ、夢乃ちゃんのめでたい日だからね」






試作品を受け取らないわけにはいかないし

新商品にも惹かれ…





「じゃあ…笑」と言って差し出された

紙袋を受け取って

だーさんのお店でオヤツを買って帰っていると…






( ・・・あっ… )






少し前によく知っている車が停車し

ハザードランプをつけて

ガチャッと運転席の扉が開いたのを見て

蒸し暑い気温の中

背中にゾクリとした寒さを感じた…





アオシ「・・・・・・」





車から降りて来たおじさんは

腕を組んで

袈裟の中に自分の両腕を通したまま

目を細めてコッチを…

私の手にある紙袋を見ている…






「今日はね!違うのよ!!」





アオシ「・・・・・・」





「あの!ほらッ!!

 祝言のお土産用のお菓子の試作品なの!」






そう言って紙袋の中を開けて見せると

試作品は一つだけで

残りは新商品と…





アオシ「・・・・・・」





和久さんのお店に先月まであった

季節限定の桜餡のモナカが沢山入っていた…






「あっ…」






このモナカは私が大好きで…

本当は4月末まで販売だったのを

和久さんが「5月までにしようかな?笑」と

販売期間を伸ばしてくれた物だった






アオシ「・・・…違う?」






「いや…まさか作ってくれたなんて…」






和久さんが私の為に

店頭に並べないこのモナカを

ワザワザ作ってくれたんだと分かり…

嬉しさもあったけれど

申し訳なさも感じていて…




昨日言われたばかりなのに

さっそく貰って来た事を

「ごめんなさい」と謝った…






アオシ「・・・桜は…お前の苗字だったな…」



 


「えっ……やえ…ざくら?」






おじさんはジッと紙袋の中を見た後に

私に目を合わせてきて

「好きか?」と問いかけてきた





「・・・え?」





アオシ「このモナカ…そんなに好きか?」





「・・・甘くて…美味しいよ?」






私の答えを聞くと

試作品のお菓子に手を伸ばして

「大事に食えよ」と言い

トウモロコシの袋を私の手から取り

「早く乗れ」とお寺まで送ってくれた





おじさんの言った

「大事に食えよ」の意味が分かるのは

数日経った後で…






和「若住職が店に来てな

  夢乃ちゃんの好きな桜の餡を使った菓子に

  しってやってくれって頼まれたんだよ!

  蓬莱家と…八重桜家の祝いの席だからってな!笑」






季節外れの

桜の餡を使ったお土産の品は…

八重桜家を出て蓬莱家へと嫁ぐ私への…

おじさんからの素敵な贈り物だった…













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