楽しみ…
〈トウキ視点〉
「あっ!また来てる」
子生意気な言葉に自分の頬が
引き攣るのが分かり…
「相変わらず可愛い奥さんで…」と
隣りを歩く蓬莱に言うと
「敬語を遣え」と生意気なおチビちゃんに
眉を寄せている…
「今のは心の声で…
別に透輝さんに言ったわけじゃなくて…」
蓬莱から叱られ
唇を尖らせたおチビちゃんは
ぶつぶつと言い訳じみた事を言っているが…
( 心の声の方がもっと失礼だろ… )
トウキ「・・・足…どうしたの?」
白い丸みのあるデザインのブラウスに
サロペットを合わせた
至って普通の普段着なのに
足元だけ足袋と草履を履いている
アンバランスな仕上がりに
「ん?」と思い問いかけた
「9月からは
おじさんみたいに和服を着る事が多くなるし
今のうちから慣れてた方がいいって
お義母さんが用意してくれたの」
トウキ「9月…あぁ!坊守の就任式だったね」
普通は…
結婚をしていたり
そうなる相手がいる場合は
住職の就任式と一緒に済ませる事が多いけれど…
トウキ「ある予定のなかった
坊守の就任式についてどう思ってるのさ?笑」
寺から出て行くおチビちゃんの
就任式をワザとずらして
秋の彼岸会に予定していた蓬莱に
笑ってそう問いかけると
機嫌の悪い顔をフイッとそらし
変な芝居をしていた事を
こんな風に揶揄うと
蓬莱は決まって不機嫌になり…
トウキ「まさかそんな一面があったなんてな」
アオシ「・・・・・・」
恥ずかしいのか
バツの悪い表情を浮かべ照れている
おチビちゃんの
スマホの中から聞こえてきた蓬莱の声は
寺や並んで飲んでいたバーでも
聞いた事がない話し方をしていて
これが素の蓬莱なんだと直ぐに分かった
( ・・・だから寺まで送り届けた… )
見たかったのかもしれない…
二人の結末を…自分の目で見たかったから
おチビちゃんを蓬莱の元へと連れて行ったんだ…
「ココにいるのッ…あたしの…
アタシの幸せは…蓬莱蒼紫なのッ」
石階段を登っていると
耳に届いた声に思わず足を止めて
自分の手が小さく震えていた…
俺と蓬莱はよく似ている境遇だったから
いつも蓬莱に自分を重ね…
自分に蓬莱を重ねて見る事が多かった…
だから、あの言葉を聞いた時は…
( ・・・本当に…嬉しかった… )
自分が言われたわけでもないのに
胸と鼻の奥にツンっと熱くなる物を感じ
階段を映す視界がゆっくりと滲んでいった…
アオシ「・・・・それが…今世での俺の勤めなんだろう…」
田舎の寺へと帰り…
最後の時を見届ける…
それを勤めなんだと受け入れていた
どこか寂しい笑顔が思い出され
フッと笑いながら現れた二人に拍手を送り…
就任式も…
出席させるつもりが初めからなかったからか
全く流れや作法を教えられていなかったおチビちゃんは
顔をキョロキョロとさせて
蓬莱のお袋さんに誘導されながら…
セーターにデニムという前代未聞な格好で
式に参加していて…
戸惑うおチビちゃんに笑って手を貸していた
蓬莱はとても幸せそうに笑っていた
( ・・・普通は逆なんだけどね…笑 )
住職がスムーズに事が運べる様に
坊守が影からサポートするのが普通の式だけど…
今まで見てきた就任式の中で1番良かった…
「透輝さんも夕飯食べて行く?」
トウキ「今日は…一泊させてもらおうかな?笑
蓬莱も来月には身を固めちゃうし
ゆっくり独身男同士…語りたいしね」
来月…七夕の吉日に
二人はめでたく婚礼の義をあげる…
二人が正式な夫婦になった後も
たまに顔を出しに来るだろうけれど
蓬莱とゆっくり飲んでみたかった
今まではお互いの似た境遇について
話しながら酒を飲んでいたが
今回は、どうやっておチビちゃんに惹かれていったのか…
そんな…楽しい話を聞きながら飲みたいと思ったからだ
「泊まって行く気なの!?」
アオシ「・・・夢乃…敬語…」
「だって…35分は?」
生意気な顔をして
「毎日の約束じゃない」とブーブーと
文句を言っているおチビちゃんを眺めながら
楽しみだなと思った…
このおチビちゃんが
どんな坊守となって
蓬莱と…このお寺を守っていくのか…
見てみたいと思いながら小さく笑った…
・
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます