綿帽子…

〈アオシ視点〉











アオシ「・・・・・・」






写真屋のショーウィンドの前で足を止め

太陽の光が反射するガラスの向こうにある

写真を眺めていると「よっ!」と

満太朗の声が聞こえ…





ピクッと自分の口端が引き攣ったのを

感じながら振り返った…







ミツタロウ「あっ…あぁー!写真か?笑」






アオシ「・・・・・・」







俺の表情を読み取り

慌てて雰囲気を変えようと

飾られている写真に目を向ける満太朗に

申し訳なく感じながらも

いつもの様に振る舞う事は出来ないでいた…






シズカ「今どき、そんな事言ってたら

    できるものも出来ないよ?」






シノブ「そぉーよ!

   孫の顔を早く見せてあげるのが親孝行なんだから」







ズケズケと不要な心配をしてくる

ババア連中にも…






亭「若住職…我慢は……毒だぞ?笑」





男「あぁ言うのは最初が肝心でだな…

  こう、バシッとした所を見せて

  生意気な態度を見せない様に

  上手く手綱を掴むんだ!

  アッチに手綱を持たせたら泣く毎日になるぞ」






妙なアドバイスをしてくるジジイ連中にも

正直ウンザリしていた…






「・・・まだ…怒ってる?」






( ・・・・・・ )






夢乃を甘やかさなくなって

10日ほど経ち…




今朝も見送りについて来ようとしていたが

朝方は小雨が降っていて

わざわざ傘をさして

駐車場まで見送る必要も無いだろうと思った俺は

「来なくていい」と草履を履きながら

背中越しに夢乃に伝え




「行ってくる」と言おうと顔を向けると

夢乃の唇はいつもの様に突き出てなく

小さく下唇を噛んでいて

まだ怒ってるのかと小さな声で問いかけてきた






アオシ「・・・・・・」






発端は…

夢乃の吐いたくだらない冗談だったが…

俺がウンザリとしている原因は夢乃ではない…





最初こそは

何度も唇を近づけようとしてきたが

ここ数日はそれもなくなり…






アオシ「・・・はぁ…」






何度も俺から拒まれて

怖くなったんだろう…







ミツタロウ「なんだ…マリッジブルーってやつか?笑」






アオシ「・・・・着させてやれねぇからな…」






ミツタロウ「・・・ドレスの…ことか?」






アオシ「・・・・・・」






夢乃の性格上…

間違いなく白無垢よりも

純白のウェディングドレス派だろう…






アオシ「・・・アイツにはドレスの方が似合う…」






何もかも我慢させているのに

たかが噂くらいであんな顔をさせた自分に

タメ息しか出てこなかった…






( ・・・・・・ )






ミツタロウ「夢乃ちゃんのウエディングドレス姿は

    確かに可愛いだろうな?笑」






アオシ「・・・・・・」






ミツタロウ「でも…夢乃ちゃん…白無垢喜んでたぞ?」






アオシ「・・・喜ぶ?」







お色直しなんかの流れで

一回位は着てみたいと思うかもしれないが

ドレスと着物…

どっちだと気かれれば

ドレスの方だろうと思い

満太朗の言葉に首を傾げた…







ミツタロウ「夢乃ちゃんは…

   結婚がしたいわけでも

   ドレスや着物が着たいわけでもないんだろうな…笑」







アオシ「・・・・・・」







ミツタロウ「蒼紫…〝祝言〟って言ったんだろ?」






アオシ「・・・祝言?」







満太朗から言われた言葉を考えながら

寺へと帰って行き…

夢乃のいるであろう母屋の方へと足を進め

庭で洗濯物を取り込んでいる夢乃の姿を見つけた






( ・・・・・・ )






夢乃は…

白無垢の衣装を選びに行った時に

綿帽子を気に入って

「絶対に被りたい」と言い張ったらしく…






ミツタロウ「旦那様以外に顔を見せない様にって

    言葉に惹かれたみたいだぞ?笑」






( ・・・綿帽子無しの方が…可愛いだろう… )






最近じゃ綿帽子や角隠しを被らずに

今時のヘアアレンジをする奴らが多く…

夢乃ならそうしたがると思っていた






アオシ「・・・祝言…か…」






別に…特別何も考えずに口にした言葉だったが

夢乃はあの言葉を気に入ったらしく

洗濯物の中にある白いタオルを手に取って

自分の頭の上へと被せ

楽しそうに鶏に話かけている





( ・・・結婚式と…どう違うんだ… )






そう…不思議に思いながら

夢乃へと近づいて行くと

足音に反応してパッと振り返り

慌てて頭に乗せているタオルを手に取り

「おっ…お帰りなさい」と赤くなった顔を

下へと俯けた…






「・・・早かったんだね…」





アオシ「・・・・・・」






朝の事をまだ気にしているのか

顔を下げたままの夢乃をしばらく見つめ

右手にある白いタオルへと手を伸ばした





ガサガサの毛羽だったタオルを

綿帽子に見立てて被るバカな姿に

いつもの様な呆れた感情は湧いてこず





夢乃の頭に優しくタオルを被せてやると

少し戸惑った様にゆっくりと上げてきた顔に

手を添えて10日ぶりに唇を重ねた…







ミツタロウ「なんか…結婚式よりも

    祝言って響きの方が

    ロマンチックに聞こえるらしいぞ?


    きっと…お前の隣りだったら

    ドレスでも着物でも…

    なんでも嬉しいんだろ…笑」





























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