準備…
〈ユメノ視点〉
「ねぇ…おじさん…」
いつもの様に袈裟を掴んで駐車場まで
見送っているけれど
おじさんは歩く足のスピードを落としてくれず
顔を前に向けてスタスタと歩いて行く…
( そりゃ…嘘はよくないけど… )
お兄ちゃんがニーコ達を小屋に入れろと騒いだり…
おじさんが急に
スッカリ朝方に吐いた嘘を忘れてしまってて…
笑い話になる筈が…
おじさんは数日経った今も機嫌が悪く…
仲直りがしたくて
昨日部屋に行った時に
私からキスをしようと顔を近づけても
おでこをペシっと叩かれたり
顔を離して…
キスをしてくれない…
( ・・・毎日してたのに… )
毎日の35分の時間に
いつも甘い時間をくれていたのに
顔合わせの日以来
一度もキスをしてくれなくなった…
「・・・・商店街のは…
私じゃなくて…和子おばちゃんでしょ…」
そう下を向いて呟くと
駐車場に着いた足がピタリと止まり
恐る恐るおじさんに顔を向けると
片眉を釣り上げて
コッチを見下ろしている
アオシ「・・・・・・」
「・・・だって急に脱ぐから…」
私の言葉に眉がピクリとまた上がり…
私が吐いた嘘のせいだと
おじさんが思っているのが
見下ろす目からヒシヒシと感じとれた…
「・・・だって…だってね…
見られたくないじゃない…
おじさんは…私の婚約者なんだから…
私だけの
アオシ「・・・・・・」
ギュッと袈裟を掴んでそう言うと
おじさんは私の頬を片手でグッと掴み
「キスは…祝言の後だ」と言って
機嫌の悪い顔のまま車へと乗り込み
「何時に帰る?」と聞いても
「夕方だ」としか答えてくれなくて…
遠くなっていく車に
「ケチ、意地悪、陰険」と
おじさんへの愚痴を唱え続けていて
本当に式が終わるまで
キスをしてくれないんじゃないかと思い
「もうッ!」と和子おばちゃんに
ムッとしながら吠えた…
食事をしに行ったお店に…
和子おばちゃんがいたようで…
「妊娠なんてするわけないじゃない!
婚礼の義が終わるまで
何もしないって言われてるんだらッ!」
あの日…
お兄ちゃんに叫んだあの言葉を
襖の向こうで聞いていたらしく
おじさんは商店街の皆んなから…
少し??揶揄われているようだ…
「・・・節操なくやりまくってるより
ずっといいじゃないのよ…」
唇を尖らせてそう呟くと
後ろから鳴き声が聞こえ
ニーコかと思い振り向くと…
「・・・ふふ…なに?
またママに甘えたいの?笑」
コッチに歩いて来ていたのは
寂しがり屋のニーコでも
幼い双子ちゃんでもなく…
私にそっくりな
天邪鬼のピーコだった
ピーコは抱っこを嫌がり
自分の足で歩きたがるから
歩く速度を落として
ゆっくりとお寺の方へと行き…
ちょこちょこと生えている雑草に目を向け
「雑草抜かなきゃね」と言って
1時間ほどお寺にある雑草を抜いていると
「ここにいたのね」とお義母さんがやって来て
私の近くで機嫌よく草を突いている
ピーコを見て小さく笑うと
「お昼前には出かけますよ」と言ってきた
「二人でですか?」
おじさんは夕方まで帰らないし
お義父さんも古い付き合いの
檀家さんの所に行っていて
14時近くまでは
お義母さんと二人っきりだし…
お昼前に出かけると言う事は
お義母さんと私だけなんだろう…
母「そろそろ細かい事も
決めていかなくちゃ間に合いませんからね」
「・・・式の準備なんですね?笑」
お義母さんと二人っきりの外出は初めてで
初めは坊守の仕事かと思ったけれど
お義母さんの笑っている表情を見て
7月の準備だと分かり
スッと立ち上がって「準備します!」と
家に帰ろうとすると
お義母さんの咳払いが一つ聞こえた…
母「夢乃さん…
抜いた草もしっかり片付けて…ね?」
「・・・あっ…はい…」
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