心配…

〈マサル視点〉








( ・・・結婚…か… )





新幹線の中で窓の外へと顔を向け

この2日間滞在していた

夢乃の嫁ぎ先である…

あの…お寺の事を考えていた





家も古かったが

風呂やトイレも…

中々で…

正直、俺は住めないと思った…





田舎のばーちゃん家に行く感覚で

数日だけとかならいいけれど…





ずっと…

一生あの家に住めと言われたら

首をブンブンと勢いよく横に振るだろう…






マサル「・・・キッチンだって…」






ずっと出っ放しの水に

何で止めないんだと夢乃に問いかけると

「山水だもん」と言って

「冷たくて美味しいわよ」と笑っていた…






( ・・・いや…いやいやいや… )






ワガママな夢乃が

あの生活に馴染むなんてありえない…




どう考えても

お義兄さんの後を追っかけ回して

熱にほだされているとしか思えずにいると

目の前で「蜜柑食べる?」と言って

向こうのお母さんが持たせてくれた

蜜柑を差し出す母さんに

「心配じゃねぇの?」と小さく呟いた






母「そりゃ、心配よ!

  あの子言葉遣いや作法…大丈夫なのかしら」






マサル「そうじゃなくてさ…」






熱が…

夢が覚めた時に…

アイツはあそこに居れるのだろうかと

ずっと不安に感じていた…






母「・・・ピーコちゃん?ニーコちゃん?

   どっちだったかしら…」






母さんは顎に手を当てながら

目線を少し上げ「うーん…」と悩む声を上げ出し

鶏なんて今はどうでもいいよと呆れていると






母「どっちかよ!どっちかがヒヨコの時に

   夢乃が一度、勝手に連れ帰ったらしいわよ」






マサル「・・・一度??」






ずっとあの寺にいたんじゃないのかと

不思議に思い尋ねると

「ふふふ…」と笑いだして

「妹の…いじらしい話を聞く?」と

ニヤニヤとした顔で…話し出した…





マサル「・・・・・・」





母「ねっ!可愛いでしょ?笑

  夢乃にそんな面があったなんて全然知らなかったし

  蒼紫君の為に苦手な鶏に近づいて

  卵を取ろうとしたり…

  最初にいた子は野犬に襲われちゃったみたいだけど

  あの子…亡き骸を集める時もずっと

  泣きながら蒼紫君の側にいたみたいよ…」





マサル「・・・・・・」






野犬に襲われた亡き骸なんて…

想像しただけでも見たくないし

集めたくもない…





( ・・・あの…夢乃が… )






母「今いるピーコちゃんかニーコちゃんは

   悲しんでる夢乃の為に蒼紫君が

   新しく連れて来たみたいだし…

   上手くいくんじゃないかしら?」






マサル「・・・・・・」






母「アチラのお母さんが教えてくれたのよ…

  鶏の事や…足袋の事とか…

  蒼紫君のお披露目の日に

  手作りの足袋を履いて欲しいって

  わざわざ縫ったみたいよ?笑」





マサル「・・・・・・」






話を聞きながら

母さんの手にある蜜柑へと自分の手を伸ばし

スーパーで売っている蜜柑に比べて

小ぶりの…小さな蜜柑を眺めた…






母「アナタが思っている以上に

  夢乃は子供じゃないし

  ちゃんとした想いがあるのよ」






マサル「・・・ワガママで生意気な奴なのにな…」






「お兄ちゃんコレも宜しく」と

何でも人任せだった…

甘えん坊で、ワガママで…

憎たらしい妹だったのに…






「必ず…後生大事にしますので…

 蓬莱家に嫁がせてください」


  




( ・・・・・・ )







蜜柑の皮をむいて

一房口に放り込むと

甘酸っぱい味が口いっぱいに広がり

数時間前までいた

あの山の上にあるお寺を感じた…





「じゃっ!また結納に来てね!」





鶏を抱き上げてタクシーを見送る

夢乃の笑顔が頭に浮かんできて

フッと小さく笑い…






マサル「あれだな!

   夢乃はだいぶお義兄さんに惚れてるし

   しがみついてでも離れないだろうな!笑」






そう言って蜜柑を食べていると

「お前もまだまだだな」と隣りでずっと黙っていた

父さんが笑いながら呟き

「え?」と顔を向けると

俺の手にある蜜柑を全部取り上げ…





父「惚れ込んでるのは…蒼紫君だろ…笑」





と言って蜜柑をむしゃむしゃと頬張り

「飲みニケーションが足りんな」と笑っていた…










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