挨拶…

〈ユメノ視点〉









「ごめんね…ちょっとだけだからね」






トウモロコシを小屋に入れると

ピーコやタマちゃん達は直ぐに

小屋の中へと入って行き

トウモロコシを突いているけれど…






「・・・・ニーコ…」







駄菓子屋さんの広い庭で飼われていたニーコは

小屋に入る事をあまり好まなくて…





狭いから嫌なのかな…

それともまだピーコ達となじめないのかな…






トウモロコシの元へ行こうとはせずに

私の足元から動かないニーコの背中を撫でていると

「早くいれろよ」とお兄ちゃんの声が聞こえ

ムッとしながら顔を向けると

おじさんがコッチに歩いて来た






アオシ「・・・・・・」






ニーコ達…

鶏を苦手な人は多くて…

参拝者が怖がってしまうからと

来客がある時は小屋に入れると約束をした






「・・・ニーコは…大人しいし…」






アオシ「・・・・・・」






「無理矢理小屋にいれたら…

 まるでお仕置き部屋みたいじゃない…

 夜…寝る為のピーコ達のお部屋なのに…」






ピーコやマルちゃんは…

元気だから走ったり

興奮して鳴いちゃう時もあるけれど

タマちゃんはおっとりした性格だし

ニーコは…内気な子だし…





小屋に入りたくないなら…

庭をゆっくり歩かせても問題ない気がした…






アオシ「・・・夢乃…

   1羽だけ出してて他の奴らは小屋の中じゃ

   それこそ可哀相だろうが…」





 

「・・・・・・」







おじさんの言う事もわかるけど…

まだ…来たばかりだし…






マサル「夢乃!!

   放すな!絶対に放すなよッ!!」






憎たらしいお兄ちゃんの声に

睨む様に顔を向けると

「ここからいいですか」と

靴を脱いで縁側に上がると

「俺が部屋の中にいるうちは放してていいぞ」と

昔の私の様にカーテンの隙間から顔を出していて





お兄ちゃんの言葉にパッと顔をおじさんに向けて

「いい?」と問いかけると

おじさんは「はぁ…」と息を吐いた後に

半分以上閉まっていた小屋の扉を開けて

ピーコ達が外に出るのを許してくれた






「ふふ…大人しく皆んなで遊んでてね?」






そう言って部屋の中へと入ると

お義母さんがお茶を出していてくれて

うちのお母さん達と頭を下げ合っていた



 



マサル「夢乃…鶏触ってたんだから

   手洗ってから来いよな…」






「・・・・ふんッ…」






手は洗うけど…

ニーコ達の事を汚いみたいに言うお兄ちゃんに

鼻を鳴らしてから手洗い場に行くと

後ろから来たおじさんに

「お前にそっくりだな」と言われ

「お母さん?」と問いかけると

「兄貴の方だ」と笑っていて

全然似てないもんとおじさんの手を握って

居間に戻ろうとすると…





アオシ「・・・家族の前だぞ?」





「・・・あぁ! 

 家族の前ではイチャつく趣味はないだっけ?笑」






初めて此処に来た日に

緊張しておじさんに手を握ってと甘えたら

そう言われた事を思い出した





「・・・ふふ…でも結局繋いでくれたじゃない」





アオシ「・・・行くぞ」






おじさんの手をギュッと握りしめて

居間の方へと歩いて行くと

「早く座りない」とお義父さんから言われて

早足で席に座ろうとすると






アオシ「・・・お前はアッチだ」





「・・・え?」






おじさんと一緒に

お義父さんやお義母さんのいる方へと

座ろうとして「向こうだ」と

呆れた目でおじさんから言われ

変な気分だった…





半年以上…

お義母さん達と一緒に暮らしていて…

スッカリ嫁いだ気分だったから

おじさんや…お義父さん達と離れて座るのが

何だか寂しく感じる






マサル「お前…そんな感じで

   お義兄さんを追っかけ回してたんだろうな…」






お兄ちゃんの隣りに腰を降ろすと

恥ずかしいという様に目を細めて

そんな事を言うから

「何がお義兄さんよ!馴れ馴れしい!」と

唇を尖らせた…





母「二人とも…みっともない真似はやめなさい…笑」






右隣に座るお母さんから

冷たい声が聞こえ

私もお兄ちゃんも顔を少し下げて

「すみません」と謝ると

テーブルを挟んで座るお義父さんが小さく笑っていた






義父「では…まず、ご挨拶から入りましょうか」






そう言ってお義父さんは

おじさんに顔を向けると

おじさんが座布団から降りて

畳の上へと膝を着き

「弦蒸寺25代目住職の蓬莱蒼紫と申します」と

お父さん達に頭を下げて挨拶をしだし

想像と違う雰囲気に

自分の背筋がピンっと伸びたのが分かった…





もっと…

「宜しくお願いします」と

お茶とお茶菓子を食べながら

楽に挨拶をするのかと思っていたから

今から出てくるであろう言葉に

膝の上にある自分の手をギュッと小さく握った






アオシ「この度は…

   八重桜家の御息女である夢乃さんを

   私の生涯の伴侶として…

   蓬莱家に迎えたくご挨拶させて頂きます」






( ・・・・・・ )






プロポーズや…

両親に「夢乃さんをください」なんて

ドラマや漫画でよくみるシーンに

憧れていて

私の王子様はどんな人で

どんな風に言うんだろうと想像していた…






アオシ「後生大事にする…必ず…」


   

   



おじさんから貰ったプロポーズの言葉は…

私が思い描いていたプロポーズよりも

ずっと…ロマンチックで…

あれ以上に欲しい言葉はなかった…





そして…今も…

アナタは…

私が想像していた以上の感動を与えてくれる…





後生…伴侶…

お坊さんならではの愛の言葉は

私をときめかせてくれて

また…アナタへの好きが積もっていく




白馬にも乗ってないし…

お高いスーツも着ていない…

袈裟を着た私の王子様は…

誰よりもカッコいい…






「・・・後生ごしょう…」






私が小さく呟くと

おじさんは少しだけ目を見開いて

私の方へと顔を向けたから

おじさんの目を真っ直ぐと見て

「後生…大事にします…」と言い

お義父さんとお義母さんに顔を向け





「必ず…後生大事にしますので…

 蓬莱家に嫁がせてください」





と言っておじさんの様に頭を下げた…





作法とかは

よく分からないし…

おじさんが挨拶をしている中

私が途中でこんな事を言うのは

間違っているのかもしれない…






( ・・・でも…お兄ちゃんの言う通りだから… )






おじさんが大好きで…

離れたくなくて

しつこく追いかけているのは私で…




私の事が原因で

水戸家と岸家…

大きな檀家さん達を失ってしまった…






母「蒼紫の…次期住職の

  坊守が務まるのはこの子だけでしょう…」






水戸さんに

坊守であるお義母さんがあんな事を言って

ただで済まない事はお義母さんも分かっていた筈だ…





それでも…

私を通してくれて…

私の背中を押してくれた…






形式や作法は間違っていても…

今回の結婚は…

私が…蓬莱家に…

このお寺に嫁ぎたいから…






( ・・・私が…蓬莱蒼紫を最後まで守ります… )




















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