お義兄さん…

〈マサル視点〉








( ・・・嘘だろ… )





タクシーから降りて

鳥や虫の鳴き声が響く林の中で

首を360度回転させても…





マサル「マジで田舎じゃん…」






寺と聞いた時は…

敷居の高いイメージがあり

そんな所にあの夢乃が嫁げるわけがないと思っていたが

送られてきた写真に写る寺は…

イメージとだいぶ違い





マサル「・・・ホントに…嫁ぐ気か?」





身内が…

自分のたった一人の兄妹である夢乃が

寺なんて所に嫁ぐと聞いて

それなりに色々と…少し調べたが…





( ・・・どう見たって貧乏寺だろ… )






夢乃は…末っ子で

女の子って事もあり

俺や、父さん達もそれなりに甘やかして

可愛がってきたつもりだ…




だから他に比べて…

少し…嫌だいぶワガママな性格になり

取り柄は少しばかり良いあの顔だけだ…

そんな夢乃が…に住めるわけがない!






「熱い!もうエアコン切らないでよ!

 扇風機じゃその場凌ぎで嫌なの!

 家の何処を歩いてても涼しいエアコンがいいの!」






「もうッ…暖房と加湿器は一緒につけてよ!

  乾燥しすぎてカサつくじゃない!」



 




「お兄ちゃん、ちょっとコンビニ行ってきてよ」







我が妹ながら

思い出す記憶はほんっとにくそガキだ…






隣に立っている父さんも

口を開けたまま石階段を見上げていて

俺と同じ様な事を思っているのが分かった…





マサル「・・・もしかして…」





ある考えがよぎり

口にしようとした瞬間

「あっ!着いてるじゃない」と

夢乃の声が聞こえ石階段の上に顔を向けると

「いらっしゃい」と手を振る夢乃の姿があった





マサル「・・・ん!?…なんだ??」






夢乃の足元に白い何かが見え

猫か何かかと思いながら

近づいていくと俺の嫌いな鳴き声が耳に届き

歩く足をピタリと止めた





今…今たしかに…

コケって…





思わず父さんの後ろに体を寄せて

一歩ずつ近づいて行くと…






母「あら!鶏だったのね

  てっきり可愛いネコちゃんかと思ったわ!笑」






夢乃の足元にいたのはヤッパリ鶏で

ガタガタと足が震える中

なんで寺に鶏がと眺めていると

「可愛いでしょ?ニーコっていうの」と

鶏を抱き上げて母さんに見せる夢乃に

「嘘だろ」と首を振った…





俺も鶏は苦手だが…

夢乃も確か苦手だったはずだ…




小学生の頃に飼育員の係があり

鶏と兎小屋の掃除が

全学年順番に回ってきていて…




夢乃は鶏が怖いと言って

当番の日は早退をするか

学校を休んでいた





なのに…

何で抱き上げれてんだよ…






母「蒸岳寺とは違った雰囲気ねぇ…」





「住職は断然良い男よ?笑」





母「住職は顔じゃないのよ?

  アイドルじゃないんだから…」






夢乃の言葉を聞き

何となく何でこんな所に

急に嫁ぐと言い出したのかが分かった気がした





その顔のいい坊さんにほだされ

ふらふらとこんな山奥の寺についてきて

結婚しなきゃいけない事態になったんだな…





チラッと夢乃の腹元を見て

まだ2〜3ヶ月とかなのかと思い

式をあげる7月には目立ってくるんじゃと

眉を寄せてジッと見ていると

「家はあっちよ」と言って

奥へと歩き出し…





バカな夢乃を妊娠させたスケベ坊主に

兄として一発拳をくれてやるべきかと考えながら

後をついて行くと複数の鶏の鳴き声が

聞こえて来て「おいッ!」と夢乃を呼んだ






マサル「お前…何匹いんだよ!?」





「えっ??4人だけど?」





「人」ってなんだよ人って!?

と言ってやりたい所だが…




そんな事を言って

腹を立てた夢乃が今抱き抱えている鶏を

俺に向けて放すんじゃないかと思うと言えず…





マサル「まさか放飼いじゃないよな?」





「夜は小屋に入ってもらうけど

 日中は外にいるわよ?」





マサル「ばっ…バカ!早く小屋に入れろよ!!」





そう言うとムッとした表情を見せ

「嫌よ!可哀相じゃない」と唇を尖らせる夢乃に

「苦手なんだよ」と父さんの肩の後ろから叫ぶと

「何もしないし大丈夫よ」と言って

鶏を俺に近づけてきた…





マサル「やめろッ!?」





そう声を上げると

夢乃がピタリと動きを止めて

ヤバいと言う表情をしたから

「へ?」と言って夢乃が見ている

俺の後ろにパッと顔を向けると

坊さん衣装を着た…顔のいい男が歩いて来た





( ・・・坊さん?? )





想像していた坊さんとはだいぶ違い…

髪は生えているし

スラッとした体で草履で軽く歩く足取りは

何というか…品よく見える…






アオシ「・・・すみません…

   直ぐに小屋にいれますので…」






そう言うと夢乃に顔を向け

早く鶏を小屋に入れろと目で訴えているのが

俺にもよく伝わった






「小屋は…」





アオシ「・・・夢乃…」





「だって…何も悪い事してないのに…」






さっきまでの生意気な態度はいっぺんして

鶏を庇う様に抱きしめて

ぶつぶつと文句を言う夢乃に

「さっき俺に無理矢理抱かせようとしただろうが」と

坊さんの後ろから言うと

ジトッとした目で睨んできたから

慌てて坊さんの背中に顔を隠した






アオシ「約束したはずだぞ…」





「・・・・・・」





アオシ「・・・・・・」






夢乃は唇を尖らせながら

「分かったわよ」と言うと

鶏を抱いたまま奥へと入って行き…

ホッと胸を撫で下ろしていると

カツッと草履の音を立てて

振り返った坊さんは

「すみませんでした」と頭を下げた後に

父さんに顔を向けて

「住職の蓬莱蒼紫です」と挨拶をしだした






母「あらッ!?住職だって聞いていたから

  もっと年上の方かと思っていたけど

  本当に良い男じゃない!笑」






俺も…

もっと年上の…

大人の色気を漂わせた

ダンディ風な…スケベおやじを想像していた






父「・・・君は…年は…」





アオシ「32の年になりますので

   お嬢さんの7つ年上です…」





マサル「・・・・・・」




  


さっきまでは…

若くて頭空っぽな夢乃に手を出して

妊娠なんかさせた

色ボケ、ジジイを

一発殴ってやろうかと思っていた俺は…






マサル「じゃあ…

  僕より年上ですね…お義兄さん?笑」






生意気な夢乃をあっさりと

追い払ってくれた

この顔も何もかもいい坊さんが

とにかく気に入って

「夢乃はワガママでしょ、お義兄さん」と…

何度も「お義兄さん」を連呼していた












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