縁…

〈アオシ視点〉









アオシ「・・・はぁ… 」






呉服屋の岸家のお参りを終え

車のある駐車場へと向かいながら

小さく息を溢した…






( 水戸家に続いて岸家か… )






顔を少し下げて歩いていると

「弦蒸寺さん」と呼び止められ

振り返るとあまり見たことのない顔の

50代半ばの男が立っていた



 



( ・・・オヤジの知り合いか? )






頭を下げて挨拶をすると

男は俺を見て「噂通りの二枚目だね」と言い…




商店街の中で俺のいい噂が出回った事はねぇし

「はぁ…」とだけ答えると

「夢乃ちゃんが惚れ込むわけだ」と言われ

夢乃の知り合いかと顔を見ると

「ちょっとだけいいかな」と言って歩き出し




後をついて行くと

数年前に出来たばかりの駄菓子屋を指差して

「ここだよ」と言い

駄菓子屋の亭主だったのかと店を眺めていると






ハタケ「あぁーコッチからいいかな?」





アオシ「・・・はい…」






男は店の入り口ではなく横にある

草が生え茂った狭い通路を歩いて行き

中からうちの庭でよく聞く鶏の鳴き声が聞こえてきた





アオシ「・・・・凄いですね…」





通路の奥には広い庭があり

10羽ほどの鶏が放飼いにされていた





ハタケ「あの子だ!端にいるあの鶏!」





男の指差す鶏に目を向け

何がどうあるんだと思いながら

至って普通に見える鶏を眺めていると

「名前は…ピーコだったらしいな」と聞こえ

「ピーコ?」と男に顔を向けると

「いや…驚いたな」と笑い出した






ハタケ「だーさんの店に餌を買いに行ったら

   君の可愛いお嫁さんもいてね

   若いのに珍しいなと思って

   鶏が好きなのかと質問したら

   3羽飼ってるっていうし

   偉く…可愛がってるみたいだな?笑」






また自分の事をママだとでも口にしたんだと分かり

「すみません」と眉間を押せえながら謝ると

「いやいや謝る事じゃねぇ」と言って

「その後な…」と話を続け出した






「あっ…あの!

 駄菓子屋さんに行ってもいいですか?」






ハタケ「えっ?菓子でも買って帰るのかい?笑」







夢乃は駄菓子屋に行きたがり

この亭主と一緒に店へと帰ると

駄菓子を買って庭に行ってもいいかと尋ね…







ハタケ「最初はそんなに鶏が好きなのかと思って

   庭に案内したら首を振って

   10羽いる鶏を1羽1羽見てから

   ある1羽に反応してずっと笑って眺めててね…」






アオシ「・・・・・・」







亭主は…

庭の端にいる鶏を見て話していて

夢乃が眺めていた鶏もきっと

あの鶏なんだろう…そして…






ハタケ「犬や猫と違ってそんなに

   区別つく生き物じゃないからな…」






アオシ「・・・夢乃が連れ帰ったヒヨコだったんですね」






俺が吐いた嘘に

ずっと気付いていたのかと思い

本物のピーコを眺めていると

「アンタは…いい奥さん貰ったな」と笑う声に

「そうですね」と笑って答えると






ハタケ「夢乃ちゃんなら…いいかもな…」






アオシ「・・・はい?」






ハタケ「弦蒸寺さん…

  あの鶏を明日…寺に連れて行ってもいいかい?」






アオシ「・・・・・・」







亭主の言葉に驚いて顔を向けると

亭主も顔を俺に向けてきて

「父親よりも母親の方が合ってる」と言って笑い

もう一度鶏に顔を向け

「夢乃ちゃんならいいママになるだろう」

と優しく呟いていた





きっと夢乃も喜ぶだろう…

だがあのヒヨコをここまで育ててきた

この亭主にどう恩を返そうかと思い

新しいヒヨコを買ってくるべきかと考えていると

亭主はまた顔をコッチに向けてきて

「奥に母ちゃんの仏壇がある」と言ってきた







ハタケ「俺は数年前にコッチに引っ越してきて

   世話になってた寺はあるんだが…

   流石にコッチまで毎回呼び寄せるのは

   申し訳なくてな…

   お車代なんてもんも大してやれねぇし…

   だから…弦蒸寺さんに世話になりたいんだが…」






アオシ「・・・・・・」






ハタケ「夢乃ちゃんが言ってたんだよ

   若い住職だけどお経をあげる姿は

   どの坊さんよりもカッコいいってな?

   母ちゃんもその方がいいだろうし…笑」







駄菓子屋の亭主は次の日に

鶏を籠に入れて弦蒸寺へと現れ

うちの…新しい檀家の一人となった…










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