幸せ…

〈ユメノ視点〉









兄「はっ!?結婚??」





父「なんの冗談だ?」






実家に戻る時間はないし

夜にお兄ちゃんに電話をして

お父さん達のいるリビングへと移動してもらい

スピーカーになった電話口で

7月に結婚する事を伝えると

電話の向こう側は一気に騒がしくなり

「エイプリルフールは終わったぞ」なんて

笑えない冗談を口にしている…





「だから!お寺に嫁ぐの!

 7月には式をあげるからその前に一度

 結納とかなんとかで?

 とにかく話に来て欲しいの」





父「そんな急に寺だの結婚だの…」






お父さんは中々信じられないみたいで

ぶつぶつと同じ事を何度も聞いてくるけど

「あら!やっぱり結婚なの!」と

お母さんは明るい声を出していた






母「この前また見てもらいに行ったら

  夢乃は近いうちに縁談話が出るって

  浄岳寺じょうがくじのお坊さんが言ってたから

  まさかとは思ってたけど…」






お正月にお母さんと行った

あのお寺の住職さんを思い出し

「あぁ…」と言いながら

本当に見えるんだと思い…

色々アドバイスとか貰っておけばよかったかなと

考えていると…






母「お寺の住職さんなら安泰だし

  何も心配はないわよ」





「・・・・・・」






お母さんが浄岳寺みたいなお寺を

想像しているのが分かり

私のいるお寺を見て変な顔をしないか心配になった…






アオシ「婚約者の実家を見てそんな顔する女はいねぇ」







初めて此処に連れてこられた日の自分を思い出だし

先に知ってた方がいいかなと思い…

「後でお寺の写真送るから見てて」と

だけ伝えてから電話を切り

時計に目を向けて「あっ!」と声をあげて

部屋から出て台所へと行くと

お義母さんがお湯を沸かしていた





「お義父さんにですか?」





母「ふふ…そうね…」






お義母さんもお義父さんに

お茶を煎れに来たんだと分かり

坊守の変な習性なのかなと感じてしまい…

お義母さんも同じ様に感じたからこそ

笑っているんだろうと思い

「ふふ…」と同じ様に笑っていた





母「戸棚に頂き物のモナカがありますよ」





お義母さんの言葉を聞き

戸棚を開けるとモナカが2つ入っていて

手に取っておじさん用と

お義父さん用のおぼんに乗せると

「2つとも持って行きなさい」と言われ

「半分子にしますから」と笑って答えると

お義母さんはまた小さく笑っていた





「おやすみなさい」と伝えて

おじさんの部屋へと歩いていき

読み終えたタイミングで襖を開けると

いつもの様に少し横にズレて

私の座るスペースをあける姿に

頬を緩ませながら腰を降ろした





「お義母さんがモナカをくれたから一緒に食べよう」





アオシ「また三分の一か?笑」





「今日は半分あげる!笑」





甘いお菓子は大好きだけど…

不思議と前ほど沢山欲したりしなくなった




金銭的な理由もあるだろうけど…

1番の理由は…きっと…






「ん!?こし餡だ!」





アオシ「お前は粒餡よりもそっちが好きだったな」





「越してる方が舌触りが優しいじゃない」






そう言って半分に分けたモナカを口に頬張り

おじさんの前にある湯飲みに手を伸ばし

ゴクゴクと温かいお茶を飲みながら

幸せだなと感じた…




こんな風に少しの物を食べて

お腹も心も満たされる様になったのは

このお寺に来てからだ






マリコ「なんか…夢乃はお寺が合うのかもね?」







麻梨子の言葉を思い出し

「ふふ…」と笑っていると

「そんなに美味かったか?」と言って

私の前に少し小さくなった食べかけの

モナカが差し出され

顔を上げておじさんを見ると

「俺は粒餡派だからやるよ」と笑っていて…





差し出されているモナカに

顔を近づけてパクっと直接口に入れると

さっき食べた物よりも更に甘く感じる






「おいひ…笑」





アオシ「食いながら話すな」





ゴクッと飲み込んだ後に

「粒餡の時は三分のニあげるね」と

おじさんの手を握りながら言うと

可笑しそうに鼻で笑ってお茶を飲んでいた





おじさんの側にいると

胸の奥からお菓子とは違った甘さに満たされる…






「さっきお父さん達に電話で伝えたから

  近いうちにコッチに来てくれると思う」



 


私の言葉を聞いて

ブッとお茶を溢しそうになったおじさんに

ティッシュを渡すと

おじさんは「来てくれる?」と驚いていたから

「うん」と頷くとおじさんは顔に手を当てて

小さくタメ息を吐いた後に「俺が行く」と言いだした


 



アオシ「挨拶しに行くから

   都合の良い日を聞いててくれ」






「・・・でも…1日かかるし…」






アオシ「お前を貰い受けるからな…

   こうゆう所はちゃんとしとくべきだろ」






そう言ってテーブルにある

商店街の配布物である卓上カレンダーに目を向けて

「日曜が休みか?」と問いかけるおじさんに

身体を寄せて甘えると「聞いてんのか?」と

少し不機嫌気味な声が降ってきたから

「いいのッ!」と言っておじさんの腕にしがみついた





「おじさんは住職なんだから

  お寺から離れちゃダメなの!

  お母さん達に袈裟を着たおじさんを見てほしいし

  ピーコ達も紹介するからここに来てもらうの」






アオシ「・・・・・・」






「見てほしいの…

 弦蒸寺ここにいる私を見て

 おめでとうって言ってほしいの…笑」







私は…このお寺の坊守見習いなんだから…

私も此処を離れるわけにはいかない





きっと…中々実家にも帰れないし

旅行や遊びにも行けない…





それでも…

この人の隣りにいる事はできる…

それだけで幸せだから…


















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